最近、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の読者投稿欄に、共和党のリズ・チェイニー下院議員が2024年の大統領選に出馬すべきだという主張が掲載された。チェイニー議員は1月、当時大統領だったドナルド・トランプ氏(75)の2回目の弾劾案に賛成し、現在は1・6議事堂乱入事件の調査特別委員会委員として活動している、共和党内の代表的な「反トランプ」の人物だ。チェイニー氏が第3党の候補として出馬すれば、当選できないとしても、共和党支持層の反トランプ票を吸収し、「トランプの当選」を防げるという趣旨の文章だった。
米国では、トランプ氏の2024年再出馬のシナリオは、有権者がこのように戦略的に悩まなければならないほど、“現実的な脅威”として受けとめられている。これらの人々の懸念のように、3年後のトランプ氏の復活は現実になりうるだろうか。
今月3日は、ジョー・バイデン大統領の勝利で終わった米大統領選から1年となる日だ。しかし、大統領選の敗北から1年がたっても、トランプ氏は前大統領ではなくホワイトハウスへの再入城を狙う旺盛な現役政治家として振る舞っている。彼は証拠もなしに「前回の大統領選は詐欺だった」と主張し、集会を開き、自分に従う人々には支持、弾劾に賛成した議員10人などの党内反対勢力には呪いを送り、政治的影響力を誇示している。「第45代米大統領」の名義で毎日のようにバイデン大統領への非難声明を吐きだし、「米国を救おう」と絶えず募金活動を行っている。
トランプ氏は再出馬を宣言しなかったが、「彼ら(民主党)を3度目にわたり破ると決心することもできる」とか、自分が出馬しない唯一の理由は「医者から良くない電話を受けた場合」だと述べるなど、出馬の意向を強く示している。彼に長く仕える参謀のジェイソン・ミラー氏は、9月にあるインタビューで、トランプ氏の再出馬の可能性を「99~100%の間」だと述べた。米紙「ワシントンポスト」は最近、トランプ氏が出馬宣言をしようとするのを参謀たちがもう少し待つようにと止めたと報道した。ウィスコンシン州立大学政治学科のパク・ホンミン教授は、本紙の取材に対し「トランプ氏は『出馬もありうる』ともらすだけでも、世論の関心や影響力など望む結果を得ている。正式に選挙陣営を設け人を雇い、当局に資金を申告するなどの面倒を負うより、出馬宣言を最大限後回しする方が有利だ」と述べた。
再出馬を狙うトランプ氏の最大の元手は、強力で忠誠な支持層だ。クイニピアック大学が10月15~18日に成人1342人を対象に実施した調査では、「トランプ氏が2024年に再出馬するのを見たいか」という質問に、全回答者の58%は「いいえ」と答えた。しかし、共和党支持層では78%がトランプ氏の再出馬を望むと回答した。米政治メディア「ポリティコ」と調査会社「モーニング・コンサルタント」が10月27日に発表した調査によると、全回答者の35%、共和党支持層では60%が、前回の大統領選の結果はひっくり返らなければならないと答えた。グリネル大学が10月20日に発表した調査では、「今日が2024年の大統領選だとすれば、誰に投票するか」という質問に、バイデン氏とトランプ氏がそれぞれ40%の同率を記録した。
このような人気のため、共和党にはトランプ氏に匹敵する相手はまだみられない。ロン・デサンティス・フロリダ州知事、マイク・ペンス前副大統領、ニッキー・ヘイリー前国連大使、マイク・ポンペオ前国務長官、トム・コットン上院議員などの潜在的な候補は、出馬の意向を隠しながらトランプ氏の顔色をうかがっている。議事堂乱入事件についてトランプ氏の責任論を提起したミッチ・マコーネル上院院内総務でさえ、トランプ氏が再出馬すれば「絶対に」支持するというなど、共和党指導部もトランプ氏の磁場の中に留まっている。
もちろん、強固な支持層だけでは当選は保障されはしない。既成政治に対する大衆の反感と「成功した事業家」「ワシントン政治の破壊者」などのイメージに後押しされて当選した2016年に比べ、トランプ氏の2024年の再挑戦には壁も相当にある。米憲政史上初めて下院で2回弾劾されたという不名誉、大統領選の結果は不正だという主張と議会での暴動の扇動、無責任な新型コロナウイルス感染症への対応などの前歴が前途をふさいでいる。
検察の捜査にも足を引っ張られる可能性がある。ニューヨーク検察は、トランプ氏の事業体であるトランプ・オーガナイゼーションの脱税などの不正を捜査中で、ジョージア州では、彼が前回の大統領選の直後、州務長官に開票結果を逆転させるよう圧力をかけた疑惑について、検察の調査が進められている。アダム・シフ下院情報委員長(民主党)は「トランプ氏は、監獄に行かないようにするために2024年の大統領選に出馬するだろう」と述べた。1・6議事堂乱入事件特別委員会の調査や、8000万人のフォロワーがいたツイッターのアカウントを奪われるなど、以前のようには大衆の前に露出しにくいという点も、前回の大統領選に比べ不利になった点だ。トランプ氏はこれに対抗し、自らのソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」を近く公開し、大反撃を試みる予定だ。フェイスブック、ネットフリックス、CNNなどに並ぶ「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ」を発足すると発表した。
冷静に見た場合、トランプ氏の本選での競争力はどうだろうか。昨年の大統領選では、バイデン氏とトランプ氏は、それぞれ約8100万票と約7400万票を獲得した。トランプ氏が再出馬した場合、民主党支持層の結集度を高める可能性が高い一方、トランプ氏が中道層にまで支持を広げ7400万票をはるかに超えることができるかは不透明だ。トランプ氏は、次の大統領選の時には78歳の高齢になる。1984年以来、2000年の1回のみを除き米大統領選の結果を正確に予測してきたアメリカン大学のアラン・リクトマン教授は、早くも3月に米メディアとのインタビューで「トランプ氏は現職でもなく、(成功した事業家という)ブランドも崩れた」などの理由を挙げて、次の大統領選は失敗すると述べた。
にもかかわらず、現時点でのトランプ氏の再出馬は、“定数”に近い。米国政治を間近で観察してきた米州韓人有権者連帯のソン・ウォンソク事務局長は、「新型コロナワクチンに対する陰謀論を信奉し、接種を拒否する人々を見よ。彼らはトランプ氏の『トゥルース・ソーシャル』にのめり込むだろう。そのような人々は米国に30~40%はいる」と述べ、「トランプ氏の再登場は、外国から見た場合は話にならないだろうが、冷静に米国の現実を見ればありうること」だと述べた。
2024年11月の大統領選までにはまだ時間が残っており、いかなる断言も危険だ。しかし、来年11月の中間選挙がトランプ氏の未来を見積もる分岐点になるという見通しにおいては、専門家の意見はおおむね一致する。一つ目の変数は、トランプ氏の影響力だ。バージニア大学のラリー・サバト教授が運営する政治分析ニュースレター「サバトの水晶玉(Sabato's Crystal Ball)」のジョン・マイルズ・コールマン副編集長は、本紙の取材に「トランプ氏が支持した候補が共和党の予備選挙や本選で敗れるならば、有権者はトランプ氏を古いニュースと見ているというシグナルだろう」と述べた。二つ目の変数は、中間選挙を機に共和党に新たな人物が浮上するかどうかだ。パク・ホンミン教授は「選挙を経て誰かが劇的に共和党内でブームを起こし、対抗馬に浮上すれば、トランプ氏への熱気は収まるはずだ。そのような人物が現れなければ、トランプ氏が本選にまで行く可能性は極めて高くなるだろう」と述べた。
大統領選の結果でさえ否定するトランプ氏が、有力な次期大統領候補として受け入れられている現実は、それ自体が米国の深刻な分裂と民主主義の危機を雄弁に語っている。コールマン副編集長は、「トランプ氏が出馬しないとしても、彼の右派ポピュリズムは、今もなお共和党内部で相当な有用性がある」と述べ、「トランプ氏が直接出馬しない場合、キングメーカーの役目を果たすだろう」と語った。トランプ氏が2024年にホワイトハウスへの復帰に成功するかどうかはわからない。しかし、出馬するようなにおいを漂わせ影響力を維持し、支持者の関心のなかで自分の本能を満たし、事業的な野心まで膨らませているという点だけは明らかだ。