中国の「一帯一路」構想は常に米国の神経を刺激してきた。バラク・オバマ政権も、ドナルド・トランプ政権も、長江の逆流のように流れを押しのける一帯一路に対し、黙認、怒り、非難などの様々なやり方で対応してきた。しかし、中国の台頭を象徴的に示す一帯一路の破竹の勢いをくじくことはできなかった。
ジョー・バイデン大統領も、一帯一路への対応に苦慮しているようだ。バイデン大統領は2021年3月26日、英国のボリス・ジョンソン首相と電話会談し、中国の一帯一路に対抗するインフラ計画を提案した。電話会談後、バイデン大統領は記者団に対し「私は、我々が全世界の支援を必要とする地域を支援する、根本的に(一帯一路と)類似するイニシアチブを民主主義国家から引き出すべきだと(ジョンソン首相に)提案した」と紹介した。「民主主義国家」が金を集めて開発途上国のインフラ投資を支援しようというのだ。
バイデン大統領はその前日、中国が米国を抜いて世界で最も強力な国にならないようにすると警告している。対中国強硬発言の延長線上で、一帯一路への対応構想も示唆したわけだ。バイデン政権が中国をどれほど敏感に意識しているかを端的に示すものだ。
大規模化する「一帯一路」
「新シルクロード」戦略構想と呼ばれる一帯一路は、中国の習近平国家主席が2013年にカザフスタンとインドネシアでそれぞれ内陸シルクロードと海上シルクロードを提案したことで幕が上がった。初期には、中国の沿岸部の現代化された都市と低開発の内陸・南東部の諸都市、南アジア・中央アジア諸国をつなぐ程度のインフラ投資・開発プロジェクトだった。今や一帯一路構想は、東アジアから欧州に至る、世界の100カ国以上をまたぐ「超大型グローバル・プロジェクト」へと拡大した。金融情報企業レフィニティブによると、2020年なかば現在、一帯一路と連携して推進される鉄道・港湾・高速道路などのインフラ・プロジェクトだけでも2600を超え、金額は3兆7000億ドル(約4200兆ウォン)に達すると推計される。
一帯一路の範囲も、鉄道・道路などのインフラ投資の枠を超えて、様々な領域へと拡大している。通信網、人工知能(AI)力量、クラウド・コンピューティング、電子商取引、携帯電話支払システム、監視技術などの最先端技術領域の「デジタル・シルクロード」が含まれる。グローバル保健ガバナンスに中国のビジョンを具現化する「保健シルクロード」、再生可能エネルギー輸出のための「グリーン・シルクロード」も含まれる。今や「シルクロード」は中国の専売特許となった。
中国の一帯一路政策を見つめる米国の戦略家たちの複雑な心情は、米国の外交問題評議会(CFR)が2021年3月に改訂版として出した「中国の一帯一路:米国に与える含意」という報告書によく表れている。報告書は「習近平主席の最重要外交政策であり、世界最大のインフラ・プログラムである一帯一路は、米国の経済、政治、気候変動、安保、グローバル保健利益に重大な挑戦を提起する」と規定している。中国が全世界へと勢力を拡大し、「中華民族の偉大な復興」という国家ビジョンを実現するために、莫大な資金力を投入した一帯一路プロジェクトがテコとして用いられているとの趣旨だ。
オバマ政権が明確に対応できなかった一帯一路に対し、2017年1月に発足したトランプ政権は代案を模索した。当時のレックス・ティラーソン国務長官は「インド太平洋諸国を借金だらけにするのではなく、より透明で高い基準を持つ借款メカニズムを拡大する」と述べ、「米国式一帯一路」構想をほのめかした。同年11月初め、トランプ大統領(当時)は日本を訪問し、「(米国の)海外民間投資公社(OPIC)と日本の国際協力銀行が果敢で新しいインフラ・プロジェクトへの投資に向けて協力している。(インド太平洋)地域で日米の共通の目標を進展させるための大規模開発」と紹介した。これは日米共同声明にも反映された。しかし、中国の大規模国際インフラ投資計画に対抗するための米国と日本の代案構想は、大きな進展を見せなかった。主にエネルギー分野の投資に関する話が飛び交っただけだった。トランプの「米国第一主義」のせいで、米国への不信と警戒感が強く作用したのだろう。米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)も脱退しており、勢力を糾合することも難しかった。何よりトランプ前大統領が中国との貿易・関税戦争という真っ向勝負へと方向転換したことで、ことさら一帯一路に焦点を絞って対応する必要性も低下したはずだ。
結局、代案構想はうやむやになり、トランプ政権は任期を通して、中国の一帯一路構想を「略奪的政策」「借金漬け外交(Debt Trap Diplomacy)」と批判することばかりに熱を上げた。米国の放送局CNBCは「2017~2019年に12のラテン諸国と10のカリブ海諸国が一帯一路に合流し、東欧と南欧のほとんどの北大西洋条約機構(NATO)加盟国も一帯一路に加わった」とし「トランプ政権の一帯一路への対応は失敗した」と指摘した。
非難ばかりで終わったトランプ、バイデンは?
バトンを受け取ったバイデン大統領は、ひとまずは中国の一帯一路への対応の必要性と構想を示唆したものの、まだ具体的な輪郭は明らかになっていない。ただ、中国の資金力に対抗しうる規模で「民主主義諸国家が資金を集める」のは容易ではないだろう。新型コロナウイルス感染症で莫大な経済的被害を受けたことで、米国をはじめとする各国が内部の力量を外部へと動員するのはさらに難しくなっているからだ。
実際のところ、バイデン大統領は「米国は帰ってきた」と宣言したものの、疲弊した米国人は依然として「米国第一主義」を好む。一帯一路は直接・間接的に国家財政が動員されなければならないため、米国人がコストを支払わなければならないのは明らかだが、恩恵は「覇権の維持」、「民主主義」という抽象的なものだ。トランプ前大統領が脱退したTPP(その後「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に転換)について、バイデン大統領が復帰するかどうかを明確にしていないことも、国内の有権者の顔色と国際的覇権維持との政治的ジレンマを示している。
また、民主主義という価値を掲げた投資誘因は、一部のアフリカやアジアの国々にとっては政治的負担となる。中国よりはるかに厳しい借款条件と金利が適用されるため、経済誘引策としても魅力的でない。加えて米国の「ワクチン利己主義」が表面化していることで、トランプ政権に続きバイデン政権に対する信頼性にも亀裂が生じている。