新型コロナウイルス感染症の最初の発生地である中国湖北省武漢の封鎖から1周年の前日の22日、世界はどこも不安に包まれていた。中国も状況は同じだ。むなしく歳月だけが流れた.
中国国家衛生健康委員会がこの日集計し発表した前日の新型コロナ新規感染者は103人で、無症候感染者(発熱などの症状を見せず診断検査で陽性と判定された人)は119人。黒竜江、吉林、河北の、最近感染者が集中している3省の一部地域は依然として封鎖されたままだ。経済の中心地である上海では、市の中心部である黄浦区で、昨年11月23日以来初めて感染者が6人出て、周辺地域が「中級危険地区」に指定された。
首都北京では、北部の順義区に続き、南部の大興区で拡散している。前日、さらに3人の感染が確認されたうえ、英国発の変異ウイルスの感染者がいると伝えられ、緊張が高まっている。感染者が訪れた市内の西城区では、住民の全数検査を行うことになった。マンション団地ごとに再び出入者の身元確認が強化された。武漢が封鎖された1年前の状況とあまり変わらないようにみえる。
武漢は昨年1月23日午前10時をもって封鎖された。同年4月8日0時に封鎖が解除されるまで、人口1100万人の大都市が76日間、1814時間、外部と徹底的に遮断された。封鎖前日である昨年1月22日、1日の中国の新型コロナ新規感染者は131人だった。再び、不安がウイルスのように広がっている。
「歳月は本当に早いですね。1年前の今頃、武漢が封鎖されました。今年は春節に家に帰れるかどうか分かりません」
「今日、マンション団地の全住民が核酸検査(PCR検査)を受けなければならないという通知を受けました。ハルビンの状況は去年より良くないようです。みんな無事でありますように…」
不安な気持ちが集まるところは意外な場所だ。2019年12月末、新型コロナの状況を最初に警告し、警察の取調べまで受けた武漢市中心病院の眼科医師、李文亮さんのSNSの微博(ウェイボー)のアカウント(@xiaolwl)だ。彼は診療の間に新型コロナに感染し、昨年2月7日午前2時58分頃、34歳の若さで亡くなった。彼は亡くなる6日前の同年2月1日午前10時41分、病床で携帯電話を利用してこのような文章を書いた。生前に残した最後の文だ。
「今日、核酸検査の結果が陽性と出た。もう疑心は消えた。結局は感染が確認された」
李文亮さんの死亡のニュースが伝わった直後から、人々はこの文章に哀悼のコメントをつけるようになった。封鎖が長引き、眠れない人々が集まってきた。コメントの内容も多様化しはじめた。日常の悩みやささいなエピソードも投稿され始めた。もどかしい気持ちを晴らす掲示板になったわけだ。
「あなた、天国でも見てますか?あなたが残した最後の贈り物が、今日この世に誕生しました。私がしっかり育てます」
昨年6月2日、李文亮さんの妻が二人目の子どもを出産した。再び彼のウェイボーに人々が押し寄せた。コメントは100万件を優に超えた。その後、ウェイボーの最後の文章のコメントは「100万+α」と表記されている。1日24時間、わずか1~5分の間隔で毎日数百から数千件ずつコメントが続いている。
「李先生、そちらではお元気でしょうか。うちの祖母も去年の2月に旅立ちました。楽しくマージャンなどされて、私たちの心配はしないでください」
「このごろどうも気分がすぐれないんです。腹が立ちやすいし、何が問題なのか分かりません。でも先生のウェイボーを見ると気持ちが楽になります。文亮さん、ありがとう」
人々は彼に話しかけることで、彼がまだ生きていることを証明しようとしているかのようだった。李文亮さん個人のウェイボーは、こうして“公的な領域”となった。誰かが李文亮さんのウェイボーの最後の文章を「インターネット版嘆きの壁」と呼び始めた。絶望と悲しみだけではない。喜びと歓喜の瞬間にも例外なく訪れる。だから「嘆きの壁」ではなく「樹洞」(木の中に生じた空洞)だ。ネットユーザーらが匿名で秘密を打ち明けたり、悩みを相談する掲示板を意味するウェイボーの用語だ。
「きのうの午後は微熱がありました。核酸検査をして、今日の夕方結果が出る予定です。あなたを思い浮かべます。そちらではお元気ですか?」
「なぜだか分かりませんが、新年になってから去年何があったのか思い出せないんです。2019年から2021年に直接飛んできたみたい。まるで2020年が最初からなかったようにです。2020年がなかったら、先生は今頃何をしていたでしょうか」
中国当局は昨年、「新型コロナ防疫先進個人」(3月5日)▽「烈士」の称号(4月2日)▽第24期「中国青年5・4メダル」などを李文亮さんに追叙した。しかし、国外からの関心は負担だったようだ。昨年7月2日、中国外交部は香港・新疆・新型コロナ状況など37項目に関する国際社会の批判に反論する資料を出した。このうち14番目の項目で「李文亮氏は“内部告発者”ではなく、拘禁されたこともない。共産党員だった彼を、体制に対抗した“英雄”と呼ぶのは不敬だ」と強調していた。
中国のネットユーザーは、今日も李文亮さんのウェイボーを訪ねる。彼に対する尊敬と愛情の表れであり、コミュニケーションが遮断された現実を乗り越えるための通路にしているようだ。
「そこでもニュースを見ますか? 山東省の鉱山の崩れた坑道で結局一人が亡くなったそうです。もう10日以上経ったのに、まだ誰も救助できていません。心配でたまりません。事故を30時間も経ってから報告するなんて…」
「歳月が経つとよく知られたことを希釈し、さらには誹謗すらしようとする。あなたに何があったのか、私たちは覚えています。都市が封鎖されたとき、何が起こったのか、武漢の人たちは決して忘れません」