北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記の異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏(46)の殺害に神経系毒性物質の「VX」が使われたものと見られ、ドナルド・トランプ政権発足以来、慎重に打診されていた朝鮮半島の緊張緩和に向けた努力が再び原点に戻り、対北朝鮮ムードも強硬になっている。米朝関係だけでなく中朝関係、さらには、北朝鮮核問題を解決するための米中間の水面下の動きも中断される見込みで、動力を再び回復するまでには、かなりの時間を要するものと予想される。
まず、米朝関係を見ると、トランプ政権発足以来、政権交代期という“開かれた空間”を活用して北朝鮮との関係改善を模索しようとする米国対北朝鮮政策担当の実務者の慎重ながらも明確な流れがあった。国務省の暗黙的同意が必要な対北朝鮮人道主義支援団体の訪朝が続き、3月初めには北朝鮮の官僚と米国対北朝鮮専門家によるニューヨーク1.5トラック(半官半民)の開催に向けた動きも、この流れの延長線上にあった。
北朝鮮の弾道ミサイル発射と金正男氏殺害にもかかわらず、このような流れは不安定ながらも続いた。ニューヨーク・タイムズも25日付の記事で「このような状況の展開が、北朝鮮との交渉を進めようとする国務省の計画を妨げるようなことはなかったとみられる」と報じた。当初、国務省は24日午前までも、1.5トラックの主催側に北朝鮮官僚らのビザ発給を承認すると明らかにした。しかし24日午後、雰囲気が一変し、ビザ発給の通知が覆された。米国メディアの報道によると、米国が最も敏感に反応する大量破壊兵器(WMD)に使われるVXが正男氏の殺害に利用された事実が、最も大きな影響を及ぼしたという。
国務省がビザ発給の決定を覆したのには、ホワイトハウスや国務省高官の政治的判断が作用したものと見られる。これは今後、実務者たちの自律的な空間がかなり萎縮することを示唆するものであり、行政部内の対北朝鮮の雰囲気の悪化はもとより、今後の対北朝鮮関係改善を試みる際には大きな困難として立ちはだかる恐れがある。
米政府が北朝鮮をテロ支援国に再指定案を検討し始めたのは、対北朝鮮政策の気流の変化を端的に示している。しかし、政治的意志とは別に「6カ月以内に反復的なテロ行為がなければならない」という条件を満たさなければならず、自国民対象の殺害もテロに含まれるかどうかなどの複雑な法律的問題も残っている。
中国当局は「VX毒殺」に、一応慎重な態度を見せた。しかし、中国の北朝鮮石炭の輸入禁止処置をめぐって中朝間に軋轢が生じ、緊張が高まっている状況で、VXは今後の中朝関係の展望をさらに不透明にするとみられる。ニューヨーク・タイムズは「VXで中朝関係が第2次世界大戦以来、最悪に突き進む可能性がある」との見通しを示した。
米中の間でも北朝鮮核問題の解決に向けた動きが水面下で進められていたが、密度のある推進は難しいと見られる。レックス・ティラーソン米国務長官と楊潔チ・中国外交担当国務委員は、今月21日に行った電話会談で、北朝鮮の核問題解決の必要性に同意したと明らかにした。