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[ルポ]THAAD配備で日本政府は12回の説明会…それでも残る住民の不安

登録:2016-07-18 00:33 修正:2016-07-19 11:49
米軍THAADレーダー設置から2年の経ヶ岬

「ブォーン~」という騒音の中であきらめ顔の住民
「以前はよく眠れなかったが、騒音減って慣れた」
「国家には勝てないので静かにしているだけ」
「電磁波の安全性、政府資料は信じられない」

16日午前、京都府京丹後市の経ヶ岬に設置された米軍のエックスバンドレーダー基地。青い建物の反対側にレーダーが設置されている。1年前とは異なり鉄条網には高圧電線が設置されていた=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 「初めは騒音が非常に大きかった。今はちょっと良くなったが、今も風が吹けば騒々しい。ところで韓国にもレーダーを作るんだって?」

 米国の高高度防衛ミサイル(THAAD<サード>)の核をなすエックスバンド(X-band)レーダー(AN/TPY2)が設置された京都府京丹後市の米軍経ヶ岬通信所。1年ぶりに訪ねた基地の風景は以前と大きくは変わっていなかった。基地に通じる国道178号線に沿って東に進めば、北側には広い東海(日本海)が広がり、突然目に入る鉄条網の内側にはサッカーボールの形をした米軍の通信用アンテナが姿を現す。この通信所の北端に設置された緑の建物の向こう側に、存在するだけで東アジア情勢に深く微妙な影響を及ぼす米軍のエックスバンドレーダーがある。

京都府のエックスバンドレーダー設置地域//ハンギョレ新聞社

 基地の正門から東に500メートルほど離れた袖志で生まれ育ったというある老人(84)は、「初めはレーダー稼動のための発電機の騒音で村全体が騒々しかったが、今は非常に安定した状況」と話した。「ブォーン~」という発電機の騒音が村の前の防波堤に打ち付ける波の音に混じって鼓膜を刺激した。老人と話している所へちょうど来た彼の夫人(77)も「以前は(騒音のために)よく眠れなかった、今は2年が過ぎて慣れた…」。夫妻はそれしか話さなかった。基地正門前の倉庫で仕事をしている住民のナカムラ・ショウゾウさん(76)も「西風が吹く時は騒音が大きくなる。以前は『夜眠れない』という人もいた」と話した。

「海岸型」日本のレーダー波は海に向かうが
「内陸型」星州はレーダー前方に数万人が居住
電磁波の有害性、直接比較は困難

 韓国国防部が13日、在韓米軍のTHAADを慶尚北道星州(ソンジュ)に設置すると明らかにした後、日本の京都の小さな海辺の村に韓国社会の関心が集中している。ここと同じ機種のレーダーが放つ電磁波の影響に対する憂慮で、韓国社会の世論は大きく分かれている。

 ハンギョレは韓国でTHAAD関連議論が起きた初期の昨年6月、ここを訪ね騒音や電磁波被害などを憂慮する住民の声を伝えたことがある(2015年6月29日「強い電磁波放つ京都経ヶ岬THAADレーダー基地」)。その頃は、このレーダーによる健康被害を憂慮する住民の反感がかなり強かったが、1年の時間が流れる間に住民たちは好むと好まざるにかかわらずレーダーと共存する道を選んだように見えた。

 韓国と同じく日本でもレーダーの配備決定は突然になされた。米日の両国首脳は2013年2月22日、北朝鮮の核・ミサイル威嚇に対応するために、2006年6月の青森県車力に続き日本で2番目のエックスバンドレーダーの設置を発表した。住民とは何のコミュニケーションも経ていない一方的合意だった。

 だが、日本では星州のように数千名が集まる大規模な反対集会は起きなかった。2013年2月のレーダー配備決定以後、防衛省と京都府、京丹後市などの地方自治体は4回にわたりレーダー設置の妥当性と予想される問題に対する対応策を問う激しい質疑応答書をやりとりした。17日にハンギョレが確認した質疑応答書によると、地方自治体が最も執着した質問は「なぜここにレーダーを設置するのか」と「これが本当に日本の安保に寄与するのか」であった。

 日本政府はこれに対して「このレーダー情報は自衛隊のレーダー情報と合わせて(日米が)リアルタイムで共有する。日本に向けて弾道ミサイル攻撃がなされる場合、一層精密で確実な探知、追跡が可能になる」という一貫した立場を維持した。また、京丹後の経ヶ岬にレーダーを設置する理由については、日本や米国に飛んで行く弾道ミサイルを探知し追跡することが可能な位置にあり▽レーダーを遮断する障害物がなく▽周辺に電波障害を与える要因がないという理由を挙げた。2003年12月、米軍のミサイル防衛(MD)計画に参加することを決めた日本の立場としては、このレーダーの設置が米日MD強化に寄与するだろうという国内的同意があったわけだ。THAAD配備が米中間の「グレートゲーム」になってしまった現在の韓国とは戦略的状況が全く異なっていた。

2015年のレーダー設置地域近隣3カ所に対する電磁界強度の調査結果//ハンギョレ新聞社

 もちろん、日本でも韓国同様にレーダーの安全性に対する議論が繰り返された。これと関連して、日本の配備条件は韓国より危険が少ない。経ヶ岬は星州とは違い、北朝鮮に向かって海側にレーダー波を発射するためだ。京大の佐藤亨教授らはこうした事実を念頭に置いて、2013年7月京都府に提出した意見書で「エックスバンドレーダーは前方の物体に(熱を発生させる)熱作用をする。レーダーの前面に立入禁止区域を設定すれば安全性を担保できる」という趣旨の結論を下す。このレーダーが人体にどのような影響を与えるかは断言できないが、経ヶ岬では海に向かってレーダーを放つので、前方に立入禁止地域を設置すれば良いという指摘だ。レーダーから2キロメートル前方に数万名が暮らす星州とは比較にならない。

日本、ゴリ押し韓国とは異なる解決法
米日MD強化に寄与「国益」に共感
説明会だけで12回、土地も賃借方式
政府・米軍・住民の3者協議体まで
日本の対策委「電磁波は目に見えない
中国を敵視して韓国は生き残れるか」

地域住民の永井友昭氏が米軍レーダー基地前で現在の村の状況について話している。取材陣が基地周辺を見て回ると、警備員たちが駆けつけ取材陣の写真を撮影した=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 結局、日本ではレーダー設置と関連した社会的問題が「騒音」と米軍やその軍属が起こす事件や事故にどのように対応すべきかという技術的問題に縮小された。米軍は騒音被害を訴える住民の嘆願が相次ぐと2015年2月に発電機にマフラーなどを設置し、2017年までに関西電力から電力供給を受け関連問題を解消する計画だ。

 特に目につくのは日本政府の行政対応だ。日本は2013年2月のレーダー設置決定以後、住民を対象に12回も説明会を開催した。米軍に提供する土地は強制収用ではなく、住民と相場よりはるかに高い価格での賃借契約を結んだ。日本政府はまた、京丹後市に合計30億円の交付金支給を決め、2014年末からは日本政府、米軍、住民代表の三者が集まって基地問題を議論する「安全安心連絡会」という協議体も作った。京都府のホームページを見れば、基地周辺の騒音や電磁波関連実測値資料が公開されている。もちろん、これらすべての資料の結果は一様に「異常なし」なので、防衛省の資料は「信じられない」と主張する人々もいる。それでは、住民たちはレーダー設置に賛成の立場に変わったのだろうか。袖志住民のヤマグチ・ケイチ氏(61)も「このような施設ができることを喜ぶ人がどこにいるか。(不満を)言ったところで国家には勝てないので黙っているだけだ。韓国人と日本人とは表現の方式に違いがある」と話した。袖志と近隣の尾和を回って10人余りの住民に話しかけたが「問題ない」、「国がすることだからどうしようもない」、「もう済んだことを今さら」という日本人特有の順応的な言葉を繰り返すだけで、はっきりと自分の意見を明らかにする人は少なかった。

米軍レーダー基地から東に500メートル離れた海辺の村の袖志。遠く左側に見える緑の建物がエックスバンドレーダーが設置された建物だ=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 「エックスバンドレーダー基地反対京都連絡会」の大湾宗則共同代表(75)は「レーダーによる悪影響は目に見えない。電磁波は見えないし、騒音の影響も人によって違う。自分は異常を感じるが、隣が大丈夫だと言えば、私だけがおかしな人になってしまう」と話した。彼は続けて「韓国が米国と一つになって中国を敵視すれば、韓国は生き残れるか。安保の問題は、相手を刺激する軍事的方法ではなく、対話を通じて解決しなければならない。電磁波や騒音だけを掲げていては、この問題の本質を見ることはできない」と指摘した。

 「ブォーン~」という不吉な騒音の中で、言葉に出せない不満であきらめ顔の袖志。韓国政府が願う「星州の未来」は何だろうか。

京都府京丹後市の袖志港付近から見た米軍レーダー基地=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

経ヶ岬(京都)/キル・ユンヒョン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/752719.html 韓国語原文入力:2016-07-17 21:47
訳J.S(3721字)

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