高高度防衛ミサイル(THAAD<サード>)の韓国配備が発表された。THAADの配備自体は既定事実化されていただけに、予想された手順だった。ただし、そのタイミングは専門家が予想した9~10月の発表より早かった。
2、3カ月の差にどれほど大きな意味があるかと思うかも知れない。だが、政策は「タイミング」だ。効果は最大化し、リスクは最小化するタイミングを選ぶはずだ。その点から考えればTHAAD配備発表の「タイミング」には首を傾げざるをえない。米国の本音がよく分からないためだ。
THAAD配備の発表は8日で、オランダのハーグ国際常設仲裁裁判所の南シナ海判決は12日だった。中国の激烈な反発が予想される日程だった。一般的な政策決定判断基準に照らせば、米国は米中関係の悪化というリスクを分散させるため、THAAD配備発表を先延ししなければならなかった。
駐米韓国大使館の関係者たちと、ワシントンのシンクタンク専門家の数人に取材してみたが、歯切れの良い返事は得られなかった。明らかなことは、駐米韓国大使館関係者たちも発表直前になってこの事実を聞いたという点だ。実務者を飛び越え「高空プレー」で決定がなされたという意味だ。
これらの分析に個人的な推定を付け加えれば、韓国の大統領選挙日程が先ず視野に入ってくる。韓国国防部は来年末までにTHAADの実戦配備を完了すると明らかにした。朴槿恵(パククネ)大統領の任期が終わる前に決着を付け、韓国の次期大統領に誰がなろうが撤回も翻意もできなくするという意味に聞こえる。来年末を「目標期間」に設定した後、技術的に逆算して、少なくとも今夏にはTHAAD配備を推進しなければならないという計算が成り立つ。
南シナ海判決は、THAAD配備発表のための「チャンス」と判断したようだ。中国は一次的「核心利益」である南シナ海判決への対応に全力を注がざるをえないので、相対的にTHAAD配備に対する抵抗は弱まらざるをえない。逆に言えば、中国の南シナ海対応への集中力を分散させるためにTHAAD配備を発表したのかも知れない。
THAAD発表を後回しにすれば中国に「柔弱」なメッセージを与えかねないという米国内部強硬派の主張も早期発表を後押ししただろう。予想に反して、北朝鮮による先月のムスダン試験発射は、早期発表にとって決定的要素ではなかったという。
米国政府が精密な外交的損益を追究して政策決定したのではないようだという主張もある。対外政策参謀陣は、バラク・オバマ大統領、ジョー・バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン元長官の人脈が入り乱れている。
詳しい内幕は後日「ブラックボックス」が公開されて分かることだろうが、任期末で求心力が弱くなっている状況で、各人脈と部署間の複雑な政治的妥協の産物がTHAAD配備および早期発表につながった可能性がある。特に、次期権力と予想されるクリントン陣営の立場では、THAAD配備決定が後回しにされることを負担に感じた可能性も考えられる。
米国が処した対外環境を見れば、THAADの韓国配備が米国にとって必ずしも得になるとは考えられない。ワシントンのいわゆる戦略家は、ホワイトハウス国家安保担当補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキー氏が、『巨大なチェス盤』(邦題『ブレジンスキーの世界はこう動く-21世紀の地政戦略ゲーム』)で、「朝鮮半島の南側は米国の力が落ちうるハンガー」と規定したように、THAAD配備を対中防波堤構築のための第一歩と感じるかも知れない。
だが、米国とロシアの緊張は、脱冷戦以後で最高潮に達している。一線の米軍は東欧に派遣されるより、いっそイラクに志願しているという。米国とロシアの間に「5年以内に戦争が起きるだろう」という過激なうわさまでが米軍内部で出回っているという。こんな状況で中国まで敵に回して二つの戦線を形成すれば、米国の政治・外交的資産を食いつぶすだろう。