本文に移動

[週刊 ハンギョレ21] 大惨事を教訓に企業殺人罪の導入を目指す

登録:2014-12-18 06:53 修正:2014-12-19 07:06
2005年に発生したJR福知山線脱線事故の遺族に聴く事故以降…
日本と韓国における事故と災害による被害の比較。 //ハンギョレ新聞社

なぜ責任を追及するかですって?
巨大な悲しみを乗り越え人間の尊厳と安全に関する議論

 巨大な悲しみを乗り越える人間の力とは何かと訊かれたら、その悲しみを通じて得られた教訓を社会に刻み込めることだといえる。それは時には「新しい制度」として、また時には「新しい精神」として現れる。 4・16セウォル号惨事を忘れないというのは、単に事故内容を記憶する以上の意味を持つ。タイタニック号沈没事故以降、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)が締結され、二度にわたる世界大戦以降、世界人権宣言が公布されたように、私たちにも4・16以降を象徴する制度と精神が必要だ。

絶望の中で始まった「組織罰を考える勉強会」

 「なぜ責任追及をしようとするのかというと、責任を取る人がいなければ、何も変わらないからです」。JR福知山線脱線事故で、当時23歳だった長女を失った大森重美氏(65)の言葉だ。彼は現在「組織罰を考える勉強会」の代表を務めている。 2005年4月25日に発生したJR福知山線脱線事故は、運転士を含めて107人が死亡した大事故だった。制限速度が時速70キロの曲線区間に時速116キロのスピードで進入したことが事故の直接的な原因だ。

 「機関士がなぜ無理してスピードを出したのか」を解明する過程で西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)の企業体質が問題になった。過密ダイヤと、それを守らなかった場合に受ける人格冒涜に近い懲戒がその原因であったことが明らかになった。事故を起こした機関士は、事故直前も停車した駅で停車位置を通り過ぎたため(オーバーラン)、定位置まで戻るのに定められた運行時刻から1分20秒遅れた状態であった。すでに「日勤教育」という懲戒を3回も受けた機関士は、次長との通信でオーバーランの距離を短く報告してもらえないかとお願いするのに気をとられ、スピードを落とすことを忘れていた。

 事故の責任を問われ、現職社長が法廷に立った。日本も韓国と同じように「事故の予見可能性」が有無罪を判断する重要な基準である。社長の企業運営方式が100人を超える死者を出す大事故につながることを確実に予見できた場合にのみ、有罪になる。結局、現職社長は無罪判決を言い渡された。納得できない遺族は検察審査会の強制起訴制度を通じて歴代社長3人を再起訴した。現在裁判が進行中である。しかし、おそらく無罪が宣告されるだろう。法の限界が明確だからだ。

 セウォル号事故後、労災死亡事故に焦点を合わせ企業殺人法の範囲を拡大しようという議論が始まった。セウォル号事故は、企業が利潤のために安全責任を放棄した結果だったからだ。さらに、セウォル号の惨事を見ながらも、他の企業が安全意識を高めるよりは、「彼らは運がなかった」と思うだろうという点が問題だった。

 現行法では大企業にきちんと責任を問うことができないという絶望の中で、JR福知山線脱線事故の遺族たちが始めたのが「組織罰を考える勉強会」だ。遺族5人と安倍誠治関西大学教授(社会安全学)、著名なノンフィクション作家の柳田邦男氏が提案者であった。 勉強会は2014年3月から11月までの総5回にわたって行われ、企業処罰法を専門的に研究した教授や他の大事故の裁判を担当した弁護士などの話を聞いた。今後も二度の追加検討の後、法改正運動に乗り出す計画だ。

4・16以前と以降、どのように変わらなければならないか

 セウォル号事故後、メディアを通じて韓国にも何回か「企業殺人法」(企業責任法)が紹介された。韓国では労働災害事故を減らすために企業殺人法(の導入)が初めて検討された。当然のことである。 2012年の基準で韓国の労災死亡率は、全世界で圧倒的1位であるだけでなく、その割合も一向に減らないためである。 12月5日、大阪で会った安倍教授は、セウォル号の遺族のために作成した日本と韓国の災害発生件数と死亡者数(2012年基準)の比較表を見せてくれた。彼は車の事故や海洋事故だけでなく、労災事故を特別に言及した。人口が日本の半分にすぎない韓国で、労災で死亡した労働者数は日本の6倍を上回っていた(グラフィックを参照)。

 企業殺人法の必要性を提起した労働組合と社会運動団体は、1990〜2000年代にカナダ、イギリス、オーストラリアなどでの企業殺人法が導入されたことに触発された。労働者の死亡について厳しく責任を問うことができれば、企業が安全規制を遵守する可能性がそれだけ高くなるという考えからだった。これらの運動は、現在法案のかたちに結び付いたが、シム・サンジョン正義党議員が発議した「労災死亡加重処罰法」が代表的である。

 セウォル号事故後、労災死亡事故に焦点を合わせ企業殺人法の範囲を拡大しようという議論が始まった。セウォル号事故は企業が利潤のために安全責任を放棄した結果だったからである。さらに、セウォル号事故を見ながらも、他の企業が安全意識を高めるよりは、「彼らは運がなかった」と思うだろうという点が問題であった。企業に対する厳しい処罰が行われない韓国で、企業は「当然」大事故に繋がりかねないことを知りながらも、コスト削減のために規定を違反し自分の義務に注意を払わない。

 現在セウォル号惨事国民対策会議の尊厳と安全委員会を中心に、企業殺人法について議論が行われている。来年初めに草案が提出される予定だ。12月2日には民主労総が主催した「安全な職場、安全な社会づくりのための国際シンポジウム」に、カナダとオーストラリアで企業による過失致死法制定を主導した労働組合が参加し、意見を交換した。利益の前に安全を放棄しないという強力な警告、企業殺人法制定の動きがもうすぐ始まる。

 企業殺人法は、企業の責任を重く問うことで事故の再発を防ぐことを目標にしているが、セウォル号事故(4月16日発生)以降、人間の尊厳と安全のための社会精神はどうあるべきかを議論する作業も一緒に進められている。 「4・16尊厳と安全のための人権宣言運動」がそれである。

 12月10日の「世界人権の日」に提案された4・16人権宣言運動は、人間の生命と尊厳を尊重するという宣言を通じて「社会的約束」を作ることを目的とする。 「4・16の前と後は変わらなければならない。しかし、どのように?」と質問を投げかけ「どのように」を具体化する過程を人権宣言運動として進めていこうという趣旨だ。

事故と災害の被害者と生存者の証言で

 この運動の提案者たちは、災害安全家族協議会、「半導体労働者の健康と人権の番人、パンオルリム」をはじめ、人権団体と労働安全運動団体の声を直接聴いてきた。セウォル号事故以前に起きた惨事の遺族たちには悲しむ権利も、怒る権利もなかったと証言する。半導体工場で使用される化学物質が原因で自分が死んで行くにもかかわらず、その物質が何なのかさえ知る権利がなかったと被害労働者は証言する。このように事故と災害の被害者と生存者の証言を直接聴きながら権利のリストを作成する予定だ。来年4月、宣言草案が発表されてから、1年間にわたって議論懇談会を304回開いて宣言を整え確認することになるだろう。

 私たちは、「災害共和国」という汚名の中で一度も人の尊厳と安全を再確認する社会的作業を進めたことがない。事故は常に韓国社会の多くの問題を露呈するにもかかわらず、対策はその中の一部の分野だけに限られた。その対策さえもきちんと実現しなかった。また、304人の命を失った後、韓国で始まるこの運動が身を結ぶだろうか?私たちはセウォル号事故の教訓を私たちの社会に刻み込むことができるだろうか?私たちの前に残された課題だ。

バク・サンウンセウォル号惨事国民対策会議尊厳と安全委員会委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/38569.html 訳H.J (3613字)

関連記事