51日間続いた大宇造船海洋のストライキは終わったが、ストライキが投げかけた問いはまだ残っている。韓国の造船業は長い不況のトンネルを抜け、まもなく好況期を迎えるだろうが、それに対する準備が十分にできているのか。造船業従事者が伝えた現実は「まだ準備ができていない」だった。何よりも低賃金構造によって去った下請け人材が戻ってきていない。再下請け構造が固定化し、熟練労働者が減り、臨時雇用の物量チームの割合が高くなっている。このままでは、船舶を多く受注しても建造する能力と人材がいずれも十分でなく、競争力の喪失につながるのは避けられないという指摘が出ている。
25日の本紙の取材を総合したところ、大宇造船海洋下請け支会のストライキは、韓国の造船業界が向き合っている現実を赤裸々に示すものだった。造船業は好況と不況が繰り返される産業だ。1990年代以後、好況期を迎えるたびに造船業界は不足人材を下請け労働者で埋めてきた。事実上初めての長期不況が始まった2015年からは、下請け労働者が大勢現場を離れ、残った人材は低賃金・高強度の労働に耐えなければならなかった。2015年に13万3千人だった下請け生産職は、今年5月現在、4万8千人余りにすぎない。
問題は下請け企業などの雇用の質も大きく落ちたという点だ。造船業は多段階の再下請け構造だ。無期契約職(本工)、短期契約職(日当工)、物量チーム(特定の工程の業務を一定期間遂行するチーム)、突貫チーム(短期間に追加賃金で業務を遂行するチーム)などに連なる。物量チーム・突貫チームは、かつて好況時に仕事があふれ人材が足りない時に使っていた人材プールだ。定年が保障される下請けの「本工」では追いつかない時、物量単位で追加賃金を払い契約を結ぶ方式だ。代わりに4大保険や退職金などはない。雇用と社会的セーフティネットをあきらめ、高い賃金だけをもらうわけだ。
ところが、不況を迎えて仕事が減ったにもかかわらず、物量チーム・突貫チームはむしろ増えたという。造船下請け支会のイ・キム・チュンテク事務長は「かつては本工が造船所の生産人員の基本を占め、物量の変化によって物量チームに再下請けさせていたが、構造調整を経てこの構造が崩れた」と話した。本工より時給は高いが、管理が楽で4大保険などを与えなくて済むため、下請け業者が物量チームを常設化させて使っているということだ。物量チームの割合が高くなると発生する問題は他にもある。品質低下、安全不感症、熟練工不足などだ。イ・キム事務長は「物量を早く処理すれば収益がそれだけ増えるため、品質が落ち、安全は後回しになってしまう」とし「1つの社内協力会社で長く仕事をする人が少なくなるので、技術が蓄積されない」と語った。
作業場内の不公正も下請け労働者が耐えなければならない不合理だ。相対的に簡単な業務は元請けの生産職が担当し、難しく危険な業務は下請け労働者の担当となるケースが多い。金属労組の現代重工業社内下請け支会のユン・ヨンジン事務長は「船舶のサビを除去する作業の場合、外板は正規職が行い、ブロックの内側は下請けがする。外板は障害物がなくて相対的に楽に仕事ができる」とし、「劣悪な環境の中で仕事をし、最低時給を受け取っている下請け労働者が多い」と話した。
元請けがこのような問題を自ら招いているという指摘も出ている。匿名を希望した社内協力会社の代表は「下請け人材の単価は時間当り3万ウォン(約3100円)ほどだが、2016年から元請けからは50~60%水準しか出していない。月給はちゃんと支払わなければならないから、代表たちの借金が増えていく」とし、「3社の造船所長以上級の人たちが3カ月に一回会合をし、談合をしている」と述べた。3社の下請け労組の関係者も「元請け同士で協議して(下請け単価の)水準を合わせる。どこか一方が上げれば皆そっちに集まってしまうからだ」と語った。
このような現実のせいで現場を去った下請け人材は、主に京畿道の製造業団地や建設現場へと向かった。業界関係者は「造船業に比べ、建設業界や一般製造業は労働の強度に比べた賃金がはるかに高い。今のような条件では造船業に戻ってこないだろう」と述べた。
韓国の造船業界は、液化天然ガス(LNG)運搬船を中心に昨年から好況期を迎えている。今年上半期には、全世界の船舶発注量2153万CGTのうち45.5%(979万CGT)を受注し、中国を抜いて世界1位を奪還した。だが、下請け人材の労働環境を再建できなければ、受注された船舶を適時に建造できない事態が起きかねないという懸念が出ている。ペ・ギュシク前韓国労働研究院長は「今の造船業の下請け秩序は持続可能でない状況。好況の時に全く備えていなかった。受注が多くなっても働く人がおらず、危機が訪れる可能性がある」と指摘した。