慌ただしく食べ物を準備していた姿は見当たらない。機内食を入れる運搬用の台車は空っぽで幾重にも積んであり、航空機までこれを運んでいた保冷車の長い待機列も、影も形もなかった。生産した機内食を保管する1階の冷凍庫はほとんど「稼動中止」という案内文が貼ってあったが、一部は物資の倉庫として使われていた。2日午前、仁川市中区(インチョンシ・チュング)の仁川国際空港近くの3階建ての大韓航空機内食センターは静寂に包まれていた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に塞がれた空路は、韓国の航空業界の生存も脅かしていた。1日平均約7万2千食を生産し、大韓航空を含む約30の航空会社に納品していた同センターの出荷量は、COVID-19が国内で拡散し始めた2月3日から急激に減少しはじめた。1カ月あまりで注文量は2万食以下にまで落ち込み、最近は3千食ほど。機内食の供給を受ける航空会社も2社に減った。生産量は96%も減少し、生産工程は事実上休業状態に入った。約200人が働いていたセンター2階のディッシュアップ(完成した食べ物を器に盛る)作業場は、20列のうち稼動中なのは2列のみ。機内食を盆に乗せて包装する作業場も事情は同じだった。ハン・インスク機内食担当(次長)は、作業場の天井から下がる電光板を指差して「今日運航予定だった便が次々とキャンセルになったという表示。機内食の注文もキャンセルされたという意味でもある」と述べた。
大韓航空は、センターで勤務していた6つの下請け会社所属の生産人員1300人あまりを、現在350人あまりにまで減らしている。下請け業者は、経営正常化の際に再雇用することを条件に、有給・無給休暇、勧告退職などにより構造調整を行った。同センター周辺の別の機内食納入会社3社も、被害を避けることはできなかった。機内食事業部のキム・セヨン首席は「大韓航空機内食センターを含め、4カ所が一日に平均14万食を供給していたのだが、現在は合計で6000食あまりに過ぎない。自力で持ちこたえられる限界地点に達している」と述べた。
大韓航空の旅客機144機のうち、130機は仁川や金浦(キンポ)などの全国の空港に駐機されたままになっている。90%ほどが運航を中止している勘定だ。また、エージェンシーを通じて雇用した外国人パイロット390人に3カ月の無給休暇を義務づけた。全職員を対象に最大6カ月間の循環有給休職を実施する方策も労使間で協議中だ。固定支出コストを減らすためだ。
航空業界は、今後2~3カ月以内に全ての会社が倒産するかもしれないとの懸念混じりの見方を示している。航空協会などの説明を総合すると、韓国籍の航空会社の2~6月の売上損失だけでも6兆4500億ウォン(約564億円)に達するとみられる。韓国航空産業が崩壊すれば、16万の雇用が消え、国内総生産(GDP)は11兆ウォン(約9620億円)減少するというのが国際航空運送協会(IATA)の分析だ。大韓航空の関係者は「政府支援対象を格安航空会社だけでなく、国内の航空会社全体に拡大し、実質的な支援が可能になるよう、信用格付けや負債比率などの支援条件も緩和すべき」と主張した。