アシアナ航空の地上旅客サービス協力会社「KA」に勤めるAさんは1日朝、会社に出勤するやいなや、あきれた指示を受けた。世界50あまりの国と都市の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の出入国規定が、小さな文字でびっしりと書き込まれた文書3枚を、すべて手で書き写して提出せよというのだ。Aさんや同僚たちは問題を提起したが、管理者は「勉強にもなるし、いいじゃないか。(提出)しないと今日は帰れないぞ」と答えた。しかしAさんたちがA4用紙11~15枚にのぼる「課題」を無記名で提出した時、管理者は何の確認もせずに職員たちを帰した。民主労総公共運輸労組空港港湾運送本部・アシアナ地上旅客サービス支部のキム・ジウォン支部長は、「会社は『教育プログラム』だと主張するが、6月までの少なくとも56日(8週)の無給休職に同意した社員を、話にもならないやり方で苦しめ、休職期間を延ばそうとする手口に過ぎない」と指摘した。
政府はCOVID-19により雇用危機に直面する労働者などの支援策を相次いで打ち出しているが、死角地帯に置かれている人々は依然として崖っぷちに立たされているという指摘が出ている。雇用労働部は最近、雇用維持支援金制度を活用し、COVID-19で被害を受けた企業に対して6月まで休業・休職手当の最大90%を補填し、雇用の安定を図ることにしている。しかし一部の企業は、会社が負担すべき休業手当の一部すら支給しなくて済むように、KAのように無給休職を強要している。
KAは「常勤者500人以上の大企業に分類されているため、休業手当の67%しか受け取れないと認識しているが、残りの会社負担分を負担できる状況ではない」と説明する。今月からは政府が労働者数に関係なく、資産総額5千億ウォン(約436億円)未満の企業に対しても休業・休職手当の90%を支援することにしており、同社も支援金が上方修正される可能性がある。しかし、今の論理通りなら、KAは無給休職に踏み切る可能性が高い。民主労総公共運輸労組・仁川空港地域支部のハン・ジェヨン組織局長は「雇用維持支援金の比重を高めても、申請を事業主の自主性に任せていたら、無給休職被害は発生し続けるだろう」と指摘した。
COVID-19を口実として事実上のリストラすら断行する企業も現れている。民主労総が2月1日から3月31日までに全国16カ所の相談センターなどに寄せられたCOVID-19関連の被害例153件を分析した結果、COVID-19拡散初期の2月には「無給休業・休職」(45.2%)関連の相談が最も多く、「長期戦」に入った3月中旬以降(16~31日)は「解雇・勧告退職」(20.4%)の被害件数が急増した。ハン・ジェヨン組織局長は「大韓航空とアシアナ航空の1次、2次下請け会社9社は、雇用維持支援金を申請して労働者の雇用を維持するのではなく、職員を削減している。期限付きで企業の解雇を禁止したり、雇用維持支援金の申請を強制したりしない限り、リストラは続くだろう」と述べた。
COVID-19により生計に困難を来しているものの、雇用のセーフティーネットの死角地帯に置かれている零細事業所の無給休職労働者、特殊形態労働従事者、フリーランサーに対して、最大で2カ月間、月当たり50万ウォン(約4万3600円)を支給する生活安定支援金については、その立場の立証に必要な書類を準備するのが難しいため、恩恵を受けられる労働者は限られているという指摘も出ている。雇用労働部がこの日公開した支援基準によると、国家感染症危機警報が「深刻」へと引き上げられた2月23日以降、5日以上無給で休職していなければ雇用安定支援金は受け取れない。特殊形態労働従事者とフリーランサーは、COVID-19により対面サービスが厳しい職種であること、そのため同日以降に5日以上仕事がなくなったり、所得が25%以上減ったりしたことを裏付ける客観的な資料を提出しなければならない。
当事者たちは、こうした政府支援策が「絵に描いた餅」だと訴える。民主労総サービス連盟・運転代行労組全北支部のキム・ガンウン支部長は「相当数の運転代行業者が用役契約書などに不当な条項を入れていることが多く、運転士に契約書を渡さなかったり、訴訟に活用されることを懸念して勤務記録確認書などの発給を嫌がる。運転士ではなく行政機関が自ら業者に関連資料の提出を要求するやり方に変えるべき」と述べた。