最近、懇意にしているサムスン役員から電話がかかってきた。 いきなり「文在寅(ムン・ジェイン)政権は本当にサムスンを殺そうというのか」と問いただすのだった。私は戸惑った。「烏飛梨落」(関係のない事が同時に起きることで濡れ衣を着せられる)だろうか。しばらくして保守メディアが一斉に、文在寅政権が“サムスン叩き”、“サムスン殺し”をしていると糾弾する記事を書き始めた。
外見上、最近進められているサムスン関連の捜査・調査は非正常なほどに多い。最近の最大懸案はサムソン・バイオロジクス粉飾決算疑惑の調査と、サムスン労組破壊文書の捜査・調査だ。その他にも朴槿恵(パク・クネ)、チェ・スンシルに対する賄賂事件、李明博(イ・ミョンバク)元大統領関連のダース訴訟費代納事件、イ・ゴンヒ会長の借名口座と秘密資金疑惑の捜査、国土交通部のエバーランド公示地価算定疑惑の調査など、大きな事案だけ挙げても数えきれない。
“サムスン叩き”の主張の裏面には、このような捜査・調査が全部不当だという認識が敷かれている。この主張が正しいとすれば、可能性は二つだ。 違法の疑いがないのにあるかのように操作したり、ささいな問題なのにあたかも大変な事案であるかのように膨らませているということだ。
果たしてそうだろうか。サムスン事件の一部はすでに裁判所の有罪判決を受けた。朴槿恵、チェ・スンシル賄賂事件が代表的なものだ。 二審裁判所が執行猶予を宣告したからといって賄賂罪が消えたわけではない。また、労組破壊文書事件は6千件を越える膨大な証拠資料が確保された。
さらに、サムスン事件の相当数は新しいイシューではない。すでにかなり前から提起されていた“古い事案”だ。サムスンはこの80年間、無労組経営を固守して多くの不当労働行為の容疑を受けた。不法政治資金や餅代(賄賂)提供疑惑が提起されたのも一度や二度ではない。 にもかかわらず、サムスンがこれまで積弊を解決しないままねばって来られたのは、過去の政権の“目こぼし”のためだ。 一例として、2005年の安全企画部Xファイル事件ではイ・ハクス元サムスン副会長とホン・ソッキョン元中央日報会長が違法賄賂提供を共謀する内容が明るみに出た。だが、検察は全て無嫌疑処理にした。
“サムスンお目こぼし”と関連して見落とせないのが、サムスンのロビーだ。サムスンのコントロールタワーのナンバー2と呼ばれたチャン・チュンギ前社長が大統領府・政府・検察・裁判所・報道機関とやりとりした数多くのメッセージが公開された。いわゆる「チャン・チュンギ メッセージ」は、大韓民国でサムスンのロビーから自由なところはないということを見せつける。サムスンが強大な資金力、人脈、情報力を利用して大韓民国をほしいままにするという「サムスン共和国」疑惑は決して誇張ではなかったのだ。
ろうそく革命以後、韓国は急変した。新政府は積弊清算を最大の国政課題として推進中だ。 国民も“財閥の特典”をこれ以上容認しない。現在サムスン関連の多くの捜査・調査が進行中であるのは、文在寅政権が“サムスン叩き”をするからではない。過去の政権と違って“サムスンお目こぼし”をしないからだ。
サムスンはまだこのような社会変化をまともに認識できないでいるように見える。最近サムスン電子はサムスン電子サービスの協力業者所属のサービス技師を直接雇用し、合法的労組活動を保障すると明らかにした。国民の関心は80年間続いたサムスンの無労組経営が廃棄されるかどうかに集まっている。サムスン電子に立場を聞いた。サムスン電子の広報室は「サムスン系列会社にすでにいくつか(民主)労組があるではないか」と言って、無労組経営を始めから否定する態度を見せた。検察の捜査と社会的非難を一時的になだめるために姑息な手を使ったという考えを打ち消すことができなかった。
サムスンの元高位役員は「サムスンの危機は過去の成功したロビーのためだ」と指摘した。サムスンは数十年間強大なロビー力を利用して、問題が発生しても揉み消し、隠蔽してきた。司法処理の対象になっても検察は不起訴、裁判所は執行猶予、大統領は赦免復権で目こぼしした。 あえて誤りを認めて変化を試みる理由がなかった。その結果、サムスン内部の深いところに癌細胞が広がっていった。 これまでは政権の目こぼしという厚い鎧のため露わにならなかった。 しかし、世の中が変わり鎧を脱がされると、腐った膿が四方に溢れ出している。