「韓米FTAを守るということよりも国益を守る姿勢で交渉に臨んだ。(妥結に)必要な水準で名分を提供しつつ、韓国側の実利を確保した」
キム・ヒョンジョン通商交渉本部長は26日、政府ソウル庁舎で、韓米自由貿易協定改定交渉の結果を説明し、「実利」を獲得したと明らかにした。今回の改定交渉がスタートラインから両国の立場の相違が大きかった上、鉄鋼関税問題まで加わり、韓国側が不利な交渉の構図に置かれている状況で、それなりに韓国市場を守り、防御したということだ。
キム本部長の言葉のように「貿易収支不均衡の解消」という米国の一方的な目的と要求で始まった改定交渉で、「利益のバランス」を守ることは容易でない課題だった。しかし、最終交渉内容の“損益計算書”を見てみると、むしろ「韓国は名分を、米国は実利を得た」という評価もできる。韓国は、鉄鋼輸入割当て量(クォーター)の確保と共に、投資者対国家の紛争解決制度(ISDS)や貿易救済制度の改善など、制度・手続き的な側面の改善を約束された。一方、米国は自動車輸入規制の緩和や新薬の薬価制度改善など、今すぐ実益を得られる項目で韓国の譲歩を手に入れた。
鉄鋼輸入割当て量(2015~17年輸出量基準70%・268万トン)の確保は対米鉄鋼輸出国の中では韓国が初めてだ。米国産自動車・製薬分野の要求を一部受け入れ、なにより先に鉄鋼分野の妥結を導いたわけだ。しかし、産業通商資源部の関係者は「当初、鉄鋼クォーターを一旦確保し、クォーター超過物量は25%の関税で米国市場に輸出する低率割当関税(TRQ)方式を貫こうとしたが、うまく行かなかった」と話した。鉄鋼輸出量は過去に比べて70%水準に減り、クォーター超過物量の輸出は不可能になった。キム本部長は鉄鋼の早期妥結について「輸出企業が直面する不安定性や予測不可能性を解消した」と説明した。
鉄鋼輸入割当物量がここ3年の平均値の70%に制限されたことと関連し、関税を賦課される場合と比較して利害得失を計算する必要があるという指摘もある。産業部側は「韓国の鉄鋼業界が関税よりクォーターを好んだ。今後、関税免除国家と品目例外が増えれば、輸入削減目標を達成するため、トランプ大統領が関税を25%からさらに上方修正する可能性が高い。このような状況で韓国としては、早く関税対象国から除外されなければならなかった」とし、輸出物量は70%しかできないが、今回の関税賦課の効果で米国内の鉄鋼価格が上昇すると、韓国の輸出企業の輸出金額はむしろ増えるかもしれない」と話した。
米国が非関税障壁だと主張し続けてきた自動車環境・安全基準を今回(韓国が)緩和したのは予期された内容だ。方向指示器の色など、韓国の安全基準にを満たさなくても、米国基準だけ順守していれば輸入される米国産自動車量も、現在、1社当たり2万5000台から5万台に増やすことにした。キム本部長は「5万台に増やしたが、米国の自動車ビック3とも年間輸入物量は1万台未満なで、(5万台は)実際輸入される物量とは関係ない」と述べた。しかし、鉄鋼で妥協を見るために自動車で大幅に譲歩したのではないかという声もあがっている。また、FTA効果を強調するため、これまで1年間、政府と業界が米国産輸入を大幅に増やし、現地投資を拡大したことも、韓国の費用に入れなければならない。
韓国製貨物自動車(ピックアップトラック)の関税(25%)撤廃期間も、現在の「発効後10年目(2021年)で撤廃」から追加で20年(2041年の撤廃)が延長された。キム本部長は「現在、米国に輸出する貨物車物件はほとんどない」と話した。しかし、彼は自分の著書『韓米FTAを語る』で「私たちは(現在)ピックアップトラックを製造していないが、今後製造するかもしれない。重要なのはピックアップトラックに25%も賦課される(米国の)高関税率が引き下げられてこそ、我々も投資を誘致できるという点」だとし、関税撤廃の必要性を強調した。米国内で高まっているピックアップトラック市場に対する国内企業の進出の可能性も大きく減ったのだ。韓国のグローバル革新新薬の薬価制度を改善・補完する追加交渉を行うことにしたのも、米国の代表的な実利に挙げられる。これまで米製薬業界は、韓国の健康保険薬価が過度に割安に策定されているとして、問題を提起してきた。
韓国が得た分野では、投資者対国家の紛争解決の改善が目を引く。相手国に資本を投資した投資者が紛争訴訟を乱発できなくすると共に、政府の正当な政策の主権を守る条項を改定協定文に反映することにした。また、両国は当事国の一方が貿易救済(輸入規制)措置を発動した場合、「反ダンピングの現地実体調査資料の公開」など手続き的透明性を確保する内容を協定文に盛り込むことにした。米国の通商圧力攻勢を回避あるいは緩和することで、防御膜を作るための措置だ。しかし、キム本部長は「交渉の結果で、米国に対する通商リスクが著しく落ちたと豪語するのは難しく、トランプ大統領の政権期間には通商圧力が続くものと見ている」と述べた。投資者対国家の紛争解決や貿易救済分野で全て具体的な内容は米国と追加協議を経て、協定文の正式署名の際に公開される予定だ。