事の発端は“白茶房(ペクタバン)”だった。 昨年、韓国コーヒー市場の地殻変動は「1000ウォン台コーヒー」(1円は約10ウォン)から始まった。 それまで“星茶房”、“豆茶房”の愛称で呼ばれた4~5千ウォン台コーヒー専門店は「食事代並みのコーヒー代」という厳しい視線を受けながら韓国コーヒー市場の急成長を牽引した。 低価格型ブランドといっても「EDIYA」のように2千ウォン台が一般的だった。 しかし、今や1000ウォン台のコーヒー専門店が雨後の筍のように増えている。 雇用寒波と不況の中で「安い」 「大きい」を叫ぶ低価格型コーヒーフランチャイズが予備創業者に「カフェの社長さん」の夢を吹き込んでいるわけだ。
低価格型コーヒー専門店 1年間で激増
星茶房・豆茶房を脅かし
“白主夫”人気アップは“白茶房”が起爆剤
雇用寒波で薄くなった財布事情と相まって
加盟店数1年で16倍
他の低価格型ブランドも急増
「1000ウォン、コーヒー 月2万杯売ってトントン」
多少の売上では赤字
コーヒー加盟店の年間40%急増が負担に
緻密な創業戦略なしでは生存困難
白茶房は最近放送活動で有名になった白種元(ペクジョンウォン)氏(50)の率いる飲食企業ザ・ボーンコリア系列だ。 この企業は“ハンシンポチャ(幌車)”、“セマウル食堂”等のフランチャイズ本部として良く知られている。 事実、白茶房の出発点ははるか昔に遡る。 2006年、盛況だったスターバックスをパロディにしてロゴまで真似た「元祖バックス」というブランドを作った。 フランチャイズ事業を目的に作ったわけではなかったという。 ザ・ボーン・コリアのソ・ジョンウク管理支援本部長は「会社の母胎になったソウル、ノンヒョン洞の“元祖サムパプ(野菜包みご飯)”売場の一画を活用してコーヒー売場を開いたのが始まりだった。 肉を食べたお客さんにサービスを目的にコーヒーを安く販売した」と説明した。 だが、スターバックス側の抗議で2007年に元祖バックスは「元祖コーヒー」と名前を変える。 続いて翌年には白茶房というブランドで新たに出発した。 以後、白茶房はザ・ボーン コリア系列の加盟店主が自分の店内で小規模で運営する“ショップ・イン・ショップ”形態で命脈を繋いできた。
このような白茶房がフランチャイズ事業に本格的に転じたのは2014年の末だった。 放送に出演した白種元代表が、2015年の一年間で“白主夫”という別称を得る程に人気を呼ぶと、ブランド認知度が高まり加盟問い合わせが急増した。 白茶房の加盟店は2015年末基準で415店に増えたが、これは一年前の25店舗から16倍以上増えた数だ。 代表的コーヒー専門店ブランドであるスターバックスでも韓国内に840店舗なので、侮れない規模に拡大したわけだ。
白茶房だけではない。 後に続いて“1000ウォン台コーヒー”を売る低価格型コーヒー専門店ブランドが先を争うように生まれた。 また、既存の低価格型ブランドも新たに再照明を受け、加盟店舗を大幅に増やしている。 2011年にドアを開けた低価格型コーヒー専門店「コーヒーエバンハダ」は2013年の160店舗から2014年には230店舗、昨年には320店舗に増えるほど急成長している。
このように低価格型コーヒーフランチャイズ事業に創業者が集まるのは、不況の中で小規模に少ない資金で開始でき、他の創業に較べて労働強度も低い方なので、種々の面で負担が軽いためだ。 しかし創業の現実は容易でない。 予備創業者が我先に乗り出すだけに競争も激しく、利幅が薄いので売上を大きくしなければ投資額と人件費を稼ぐことも容易でない。
K氏は京畿道城南市盆唐区で2013年から2年以上低価格型コーヒー加盟店を営んでいる。 職場が別にあるK氏は妻が店をするつもりでこの店を開いた。 66平方メートルの店舗を開くために店舗の賃貸保証金を別にしてフランチャイズ加入費、インテリア費用、什器購買費など1億3千万ウォン(約1300万円)を投資した。K氏は「コーヒー関係の装備やインテリアに欲を出せば費用がさらに上がるので、抑えた結果」と説明した。
この店舗の1カ月の経費は1800~1900万ウォンだ。賃貸料が200万ウォン、電気料金などの管理費が100万ウォン、アルバイト2人の人件費が300~400万ウォン、コーヒー豆など材料費が1200万ウォンかかる。1億ウォン台の投資額を考慮すれば、売場管理者である妻の人件費には目を瞑っても月間売上が2000万ウォンでかろうじて損益分岐点を越える。 この店のアメリカーノの価格は1000ウォンであり、計算上は月2万杯、一日に666杯を売ってようやくトントンになるわけだ。
それでもK氏の店は商売がうまくいっている方で、同じブランド加盟店の中で上位に入る。 K氏は「毎日お客さんが着実に来る上に、低価格コーヒー以外の単価の高いコーヒーをたくさん売って収益を上げることができた」として「1000ウォンのアメリカーノは粗利が200~300ウォンしか残らない」と話した。
コーヒー商圏内の競争は熾烈だ。 K氏が営む店舗から半径250メートル内には、スターバックスやコーヒービーンズをはじめとするカフェが17店もある。 その上、2年間に多くの店が生まれては消えていった結果だ。 2階規模の大型フランチャイズも2度も店を閉めたし、別の低価格型店舗一つも閉店して空店舗として残っている。 K氏は「ランチタイムにウチの店で行列でコーヒーを買っていく人を見て多くの人が挑戦した。 ところが店を開いて2~3カ月後に開店効果がなくなれば維持できなくなるようだ」と話した。
創業後、ある程度は安定期に入ったように思っても、あまりに多くのライバル店が生まれるのであっという間に地図が変わったりもする。 ソウル開峰洞で2010年から5年間大型フランチャイズ コーヒー専門店を営んだイ氏(43)は、店舗賃貸保証金を別にして4億5千万ウォン(約4500万円)を投資したが、1億ウォン台の借金を抱え込んで店をたたんだ。 イ氏は開峰駅近隣に2階165平方メートル規模で店を開いた。 開店初期にはイ氏の店を含めて周辺にコーヒー専門店が2店舗しかなかった。 1カ月の売上が6000万ウォンで、すべての費用を賄って純収益率が25%で商売は順調だった。 だが、競争店が相次いで生まれ、売上と収益は墜落した。 加盟本部が無差別に加盟店を増やして200メートル離れた所に同じブランドの店舗ができた。 イ氏の店は開店当時には300番台序盤の加盟店だったが、現在そのブランドは900号出店を遥かに超えた。 結局、周辺の競合店が10カ所になった先月には売上が3000万ウォン以下に下がった。 4年で半分になったのだ。 このような状況でイ氏は建物オーナーの退去要求を受け先月廃業した。 イ氏は「コーヒー店ではうまくいってやっと暮らせる水準で、大きな儲けは難しい。周期的に新装して装備を変える費用も侮れない」と話した。
このような困難にもかかわらずフランチャイズ コーヒー専門店の増加傾向は爆発的だ。 先月統計庁が発表した「2014年サービス業部門調査」によれば、2014年のコーヒー専門店加盟店数は1万2022店で、2013年(8456店)より3500店余り、率にして42.2%増えた。 総売上額も1兆3300余億ウォンから2兆200余億ウォンで52%増えた。 最近の低価格型コーヒー専門店加盟事業の躍進傾向を見る時、2015年にも店舗数は大幅に増えたと予想される。 これはトレンドの変化にともなうコーヒー市場の成長と見ることもできるが、“雇用不安”という社会的負担がこの頃の創業トレンドの中心にある低価格型コーヒー専門店分野に過度に押し寄せていると見ることもできる。 他の分野の加盟店増加率は二番目に高い韓国料理フランチャイズでも11.9%にとどまる。
統計庁資料はコーヒー専門店の加盟店当たり年間売上額を1億6820万ウォンと集計した。 月1400万ウォンになるが、上で紹介した1000ウォンコーヒー専門店を開店したK氏の場合なら月間売上2千万ウォンの損益分岐点に遠く及ばず、直ちに廃業となる水準だ。 これは伝統的供給過剰業種であるチキン店(1億1410万ウォン)や飲み屋(1億3170万ウォン)に次ぐ3番目で、零細な売上水準でもある。 カン・ビョンオ中央大産業・創業経営大学院グローバルフランチャイズ学科長は「低価格型コーヒー専門店は最近供給過剰が激しくなったうえに、高級コーヒー店とコンビニの1000ウォン コーヒー攻勢とも競争しなければならず、苦戦が予想される」として「内外から危機が到来する今、低価格型コーヒー専門店も結局少数のブランドしか生き残れないだろう」と話した。