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[レビュー]故国の民主化に献身した在日コリアンを「反国家団体」呼ばわりとは

登録:2023-08-12 02:30 修正:2023-08-12 08:17
在日コリアンの団体「韓統連」の50年を振り返る
今年8月に創立50周年を迎える在日コリアンの社会団体「韓統連」(在日韓国民主統一連合)が、1976年、朴正煕の退陣と金大中など政治犯の釈放を求める「100万人署名運動」を展開している様子=真実の力提供//ハンギョレ新聞社
『野蛮の時間-反国家団体作りの犠牲になった韓統連の50年』キム・ジョンチョル著(真実の力、1万9000ウォン)//ハンギョレ新聞社

 民主化は韓国に住む人々の力だけで成し遂げたものではない。その裏には民主化運動の先頭に立った在外コリアンたちの存在があった。屈曲した現代史の影響で日本に留まることになった在日コリアンたちの献身は、韓国の民主化にとくに決定的な影響を与えた。そして、その中心になったのが在日コリアンの団体「在日韓国民主統一連合」(韓統連)だった。独裁政権は日本の市民社会と連帯して韓国の民主化運動を国際的に知らせた韓統連を目の敵にしており、事あるごとに彼らをスパイに仕立て上げたうえ、「反国家団体」という汚名まで着せた。韓国社会が形式的にでも民主化を成し遂げたのだから、韓統連が弾圧された話は「遠い昔の話」と思われるかもしれないが、韓統連は依然として国家保安法上の反国家団体と規定されている。スパイ疑惑の捏造など過去の公安勢力が行った工作の実体が明らかになったにもかかわらず、韓統連に着せられた汚名はいまだそそがれていない。韓国国籍であるにもかかわらず、韓統連のメンバーたちはパスポートを発行してもらえず、故国を自由に行き来することもできない。2012年から在外国民の投票権が認められたが、パスポートのない韓統連メンバーたちは投票もできない。

 『野蛮の時間』は韓統連を深く取材してきたキム・ジョンチョル元ハンギョレ記者が「反国家団体作りの犠牲になった韓統連の50年」(副題)に照明を当てた本だ。民団(在日本大韓民国民団)の改革派として祖国の民主化と統一の先頭に立った在日コリアンたちの献身、彼らをスパイと反国家団体に仕立て上げた公安勢力の企み、民主化以後も解決されなかった課題などを立体的に取り上げている。1973年8月15日、「韓国民主回復統一促進国民会議」(韓民統)日本本部としてスタートした韓統連は、今年で発足50周年を迎える。

 解放直後の在日コリアン社会は、韓国支持者は民団、北朝鮮支持者は総連に分裂していた。民団は発足初期、自律的かつ民主的に運営され、李承晩(イ・スンマン)政権の「棄民政策」(在日コリアンを放置した政策)を批判するなど、本国政府や駐日韓国公館からも独立性を保っていたが、4・19民主革命と5・16軍事クーデターを経て朴正煕(パク・チョンヒ)政権に従属する道に進んだ。金載華(キム・ジェファ)、郭東儀(クァク・トンイ)、裴東湖 (ペ・ドンホ)など改革派が反発したが、朴正煕政権は選挙にまで介入して民団を掌握し、改革派の人々を「北朝鮮や総連と取り引きする不純な勢力」に仕立て上げ追い出した。改革派は維新クーデター以降、朴正煕政権に追われ亡命生活を送っていた政治家、金大中(キム・デジュン)と連携し、1973年に韓統連の前身である韓民統を発足させた。弾圧の口実を与えてはならないという金大中の意見を受け入れ、韓民統は総連と距離を置き、統一事業より韓国の民主化運動を優先する「先民主化、後統一」路線を選んだ。韓民統の発足を目前に控え、朴正煕政権は「金大中拉致事件」を起こし、彼を救出するための韓民統の全面的な努力は日本の市民社会を動かしたのに続き、韓国民主化運動に世界の注目を集めるのに成功した。国内の反対勢力を鎮圧した朴正煕政権にとって、韓民統が主導した「民主化運動の国際化」は大きな負担だった。

1973年8月15日、東京日比谷公会堂で開かれた「韓民統日本本部発起宣言大会」=『韓統連20年運動史』より、真実の力提供//ハンギョレ新聞社
1976年8月に東京で開かれた「韓国問題緊急国際会議」の様子//ハンギョレ新聞社
1980年12月、当時野党の指導者だった金大中に対する死刑執行を阻止するため、韓民統幹部らが日本でハンガーストライキ団を構成し、無期限のハンガーストライキを行っている=『韓統連20年運動史』より、ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社
韓民統(在日韓国民主回復統一促進国民会議)は、民主化が実現した1989年に名前を韓統連(在日韓国民主統一連合)に変えた。郭東儀韓統連初代議長が挨拶をしている=『韓統連20年運動史』より、ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 これを制圧する独裁政権の武器は公安勢力の「容共(共産主義を容認する)捏造」だった。「朴正煕政権が政治・社会的に困難な状況に直面するたびに作り出した在日コリアン留学生スパイ捏造事件の一つ」が、長年にわたる韓民統への迫害の出発点となった。保安司令部は1977年、在日コリアンの青年、金整司(キム・ジョンサ)が北朝鮮の指令に従う「工作指導員」イム・ゲソンの指令に従い、韓国に入ってスパイ活動をしたとした。さらに検察はイム・ゲソンを黒幕に仕立て上げ、韓民統を「反国家団体」と規定する内容を公訴状に含めた。根拠は駐日韓国大使館領事(チョン・ナクチュン)が作成した文書(領事証明書)1枚と、いわゆる「自首したスパイ」ユン・ヒョドンの漠然とした証言だけだったにもかかわらず、裁判所(1審裁判長ホ・ジョンフン)は公訴状を丸写しした判決文で、「韓民統=反国家団体」の烙印を押した。このように韓民統を十分な根拠もなく国家保安法上の反国家団体と規定したことで、独裁政権は国内外の民主化運動を締め付け、公安勢力はこれを活用してまた別の「不純勢力」を作りあげていった。1980年、全斗煥(チョン・ドゥファン)新軍部も同様にこれを活用して金大中を内乱陰謀の疑いで逮捕した。

 民主化運動の成果として1997年に権力交代が行われた後、数多くの「過去事」の名誉回復が実現した。しかし、韓統連についてはこれまで何も正されていない。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、韓統連関係者が政府の決定でパスポートを発行され、故国の地を踏むなど「事実上の復権」措置があったが、李明博(イ・ミョンバク)政権の発足により再び入国が難しくなるなど、元の状態に戻った。反国家団体の足かせを取り除く中心機関である「真実・和解のための過去事整理委員会」(真和委)は、2008年になってようやく韓統連について調査を始めたが、李明博政権の影響で「究明拒否」の決定を下した。韓統連は2020年に発足した第2期真和委に再び真実究明を申請したが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の影響で、偏向的な理念と過去事を歪曲する委員が多数になった真和委がきちんと真実を明らかにするかは不透明だ。司法府も同じだ。2004年の金大中内乱陰謀事件の再審、2011年の金整司事件の再審で裁判所は嫌疑なしを言い渡したが、事件と緊密に絡まっている韓統連に対する判断だけは結局無視した。

2021年6月、東京韓国大使館領事部にパスポーと発行を申請した後の韓統連幹部たち。左からクァク・スホ顧問、孫亨根議長、ヤン・ビョンリョン東京本部代表、金知栄在日韓国民主女性会会長=真実の力提供//ハンギョレ新聞社
「韓統連の完全な名誉回復と帰国保障に向けた対策委員会」発足記者会見(2019年4月23日)=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 著者はこう一喝する。「韓統連事件は独裁政権時代にあった『過去事』ではなく、『今ここ』の問題だ。日本に住む彼らだけの問題ではなく、韓国にいる私たちの問題だ。反独裁民主化運動を行った人々に何の根拠もなく『反国家団体』という赤のレッテルを貼ったのは独裁者の韓国政府だったが、これまで彼らを様々な差別の中に放置しているのは民主化された韓国社会だ」

 在日コリアン、イム・ビョンテクの若かりし頃の誓いは、韓国の歴史において韓統連がどのような意味を持っているのかを改めて思い起こさせる。「在日同胞青年たちの悩みは民族性にあるので、その根源である祖国との関係は避けられない。それでは祖国の不条理な政治構造が蔓延し、同胞の民衆が苦労している情勢を黙認しなければならないのだろうか。これからの私の韓国民主化運動に多くの困難が待ち受けていても、それはその時に対処すれば良いだろう」

チェ・ウォンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1103923.html韓国語原文入力:2023-08-11 10:31
訳H.J

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