「本当に残念に思う事件がある。…死刑に次ぐ重刑を宣告した判決に、あれほど何の感情も苦悩の跡も感じられなかったのは初めて見た。その裁判長という人が恨めしかった」(パク・ウドン『判事室から法廷まで』)
第5共和国(全斗煥政権)時代に“最高裁(大法院)判事”を務めたパク・ウドン弁護士は、自叙伝であるスパイ事件を指して「公訴事実自体に作為が見られた」とし、「国内スパイ活動というものも、どこに発電所や軍部隊あるということを探知したという、判で押したようなシナリオから抜け出せなかった」と話した。その“スパイ”は、結局1986年に無期懲役が確定し12年服役した後、2008年に再審で無罪判決を受けた。パク弁護士は「控訴審の裁判長に怒りがこみあげた」と話したが、当事者のカン・ヒチョル氏は「私が無罪であることを知っていながら真実を無視した」と言い、1審裁判長を恨んだ。
まさにその1審裁判長が、最近法廷で検察に向かって激しい感情を吐露した。「外側だけ立派に作り上げて出す事件が結構ある。そうした外側が消費者を惑わす。…そんな捜査が許されるならば、私たち国民にとっては重大な脅威だ」。自身が拘束被告人として法廷に立ってようやく悟ったようだが、あまりに遅すぎた。
“拷問”で事件をねつ造した“独裁”時代、“コピー判決”が日常茶飯事だった。実際、検察の起訴状をそのままコピーして判決文に添付する場合が多く、時には誤字までそのまま書き写した。カン氏の事件の“1審裁判長”だったヤン・スンテ判事は、計4件のスパイ事件を担当し、重刑を宣告した。ところが、再審で拷問などででっち上げた事実が明らかになり、無罪判決が下された。
朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代の44件、全斗煥(チョン・ドゥファン)時代の46件のねつ造スパイ事件に再審で無罪が宣告された。その中でも1977年の在日同胞留学生「金整司(キム・ジョンサ)事件」は特別だ。1980年、野党の指導者の金大中(キム・デジュン)に死刑を宣告する口実になった韓民統(韓国民主回復統一促進国民会議)を反国家団体に仕立てた最初の判決であるためだ。金氏は韓民統の工作員から指令を受けたというスパイ罪で、10年刑の宣告を受けたが、そもそも韓民統がなぜ反国家団体なのかについては裁判で扱われなかった。韓民統の要人は、その時まで誰も裁判に付されなかったためだ。金氏の“コピー判決文”に1行入れられたために判例として残り、金大中事件では調べもせずに判決に再引用された。維新直後に国外で韓民統の結成を推進した金大中を拘束し、反維新闘争を防ぐための工作だったというハン・ホング教授の分析は説得力がある。参与政府(盧武鉉政権)時代の国防部の過去事真相究明委も明らかにしたように、根拠になった在日中央情報部捜査官の「領事証明書」と、正体不明な「自首スパイ」の法廷証言もやはり弱点だらけだ。真実・和解のための過去事整理委員会は、韓民統が反国家団体だとする根拠がないとし、国家の謝罪と名誉回復措置を決めようとしたが、政権が変わって不発に終わった。現職の時も“首魁”の疑惑を晴らせなかった金大中元大統領は、2004年に再審で内乱陰謀罪の無罪判決を受けたが、反国家団体の“首魁”疑惑は無罪の代わりに赦免を理由にして免訴判決を受けた。韓民統(現在の韓統連)も相変らず反国家団体として残っている。
拷問ででっち上げられた公安事件の被害者は再審で無罪を受けているが、でっち上げた加害者に対する処罰や断罪はほとんどない。領事証明書が依然として残り、韓統連(韓国民主統一連合)を締めつけているのも、これと無関係ではない。“法”ででっち上げを黙認・ほう助した判事・検事も同じだ。したがって、自身がねつ造したスパイを重刑に仕立てたことは全く忘れ、検察が仕立てたせいにしているヤン判事のような人が出てくるわけだ。
“アカ”世論操作の先頭に立った保守報道機関と、“独裁の末裔”たちもいまだにその慣習を捨てることができずにいる。親日残滓である“アカ”“理念論争”から抜け出し理念の敵対を消そうという大統領の三一節記念演説に対し、「21世紀にいまだに親日・アカのたわごとか」と言いながら、自分たちは“親北”“左派”のたわごとを止めようとしない。左右合作で成し遂げた光復軍の成就を賛える追悼の辞に「朝鮮戦争の英霊」や天安艦・延坪島(ヨンピョンド)事件の遺族を引き合いに出し、結局現職大統領に向かって「アカ」という極言を吐いた。冷戦の端にしがみつく最後の断末魔にあえて対応する必要まではない。
ただし、理念の敵対を消そうとするならば「反独裁」闘争をいまだに「反国家」フレームに縛りつける時代錯誤から解かなければならない。軍事独裁反対運動を親北フレームでしばった30年前の領事証明書のように、パスポートの発給さえ拒否しているのは現政権の責任だ。29日に訪日する文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、韓統連の汚名を必ず晴らすことを望む。