「インド太平洋経済枠組み(IPEF)は『反中国』が目的ではない。地域内での肯定的な協力を通じて実用的な成果物を作りだすことが、IPEFの目的だ」
ウェンディー・カトラー元米国通商代表部(USTR)副代表は3日午前、記者団との会見で、「IPEF加盟国が米国と中国のどちらか一つを選択する必要はない」としたうえで、このように述べた。峨山政策研究院主催の韓米修交140周年記念シンポジウムへの出席のために訪韓したカトラー元副代表は、韓米自由貿易協定(FTA)の交渉を主導した米国を代表する通商専門家だ。
先月23日に東京で発足を宣言したIPEFは、「通常分野のクアッド(Quad)」と呼ぶにふさわしい。米国・日本・インド・オーストラリア4カ国が加盟するクアッドが、外交・安全保障の側面で中国を牽制するための多国間協議体であるなら、IPEFは加盟国が貿易慣行や将来の主要産業などに関連する共通基準を作る過程において、自然に中国を排除・孤立させていく方向に向いている。
実際、IPEFの発足宣言文には「中国」は登場しないが、中国側は「中国を封鎖し、アジア太平洋国家を米国の覇権の手先にしようとするもの」だと非難した。米国が主張する「意図」と中国が感じる「認識」の間の隙間は、創立加盟国としてIPEFに加盟した尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が解決していかなければならない外交的難題だ。以下は、カトラー元副代表との一問一答。
-米国がIPEFを推進する理由は何か。
「インド太平洋という重要な地域において、経済協力を追求し導いていくことが最も重要な目的だ。2017年に環太平洋経済パートナー協定(TPP)を脱退した後、米国はインド太平洋地域で、希望するほどには経済的関与を拡大できなかった。IPEFを通じてこれを挽回できると期待する。当初の予想より発足時に加盟した国家(12カ国)が多く、励みになる」
-IPEFは自由貿易協定ではなく、加盟による実質的な恩恵はない。米国はIPEF加盟国に何を与えられるのか。
「当然出てくる質問だ。既存の経済関連の多国間協議体の中心である関税引き下げや市場アクセス権の拡大などのインセンティブが、IPEFにはないからだ。我々は新時代に暮らしており、IPEFは、加盟国に既存のものとは違う多くの恩恵を提供できるはずだ。例えば、各加盟国の能力強化や資金調達を支援でき、特に、クリーンエネルギーなどの分野での協力が可能だ。また、貿易を促進するための様々な手段をはじめ、これまでみられなかった新たな機会を提供できる」
-IPEFが、韓国・中国・日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が加盟する世界最大の自由貿易協定である「地域的な包括的経済連携」(RCEP)と相反するのではないかという指摘もある。
「RCEPとは共存できると思う。域内に『環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定』(CPTPP)も存在するように、補完関係で調和できるはずだ。米国がIPEFを推進するのは、価値を共有する国家との協力を強化するためだ。弾力的なサプライチェーンとつながる貿易、クリーンエネルギー、租税および反腐敗などを4本の『柱』として提示したのも、そのような流れからだ。IPEFの発足宣言文には、中国に関する言及はない。中国以外の域内の他の国と協力関係を強化するためのものにすぎない」
-韓国のパク・チン外相は「中国がIPEFに加盟できるよう誘導する役割を、韓国が果たせる」と述べたが。
「中国はこれまでIPEFに強く批判的だったため、加盟に対する関心があるかどうかは分からない。IPEFの目的は『反中国』ではない。加盟間の肯定的な協力を通じて、実用的な成果物を作りだすものだ」
-にもかかわらず、米国がインド太平洋地域で中国を除くサプライチェーンの協力を強化しようとしているという指摘が出ている。最終的には、韓国は米国と中国のどちらか一つを選ばなければならないという懸念もある。
「韓国と中国のどちらもRCEP加盟国だ。強力なサプライチェーンを作り、サプライチェーンの支障をなくすためのものであり、既存の経済・貿易関係とIPEFをめぐり二者択一するというものではない。IPEF加盟国は、米国がインド太平洋地域で経済的な関与を拡大することを歓迎している。韓国内にも中国に対する依存度が高すぎるという懸念があると認識している。サプライチェーンと投資を多様化することは、気候変動、新型コロナウイルス感染症などのパンデミック、地政学的変数などに対応することに役立つはずだ」
-米国は、IPEFを通じて新しい「規則」を作ることに重点を置いている。中国を排除する意図はないとしても、中国はこれを自国の封じ込めと認識している。IPEF推進により、逆にサプライチェーンがよりいっそう混乱するのではないかという懸念もある。
「発足時には12カ国が加盟し、続いてフィジーを加えた13カ国に増えた。具体的な内容は、加盟国間の協議を通じて作っていくだろう。発足直後に加盟国間でIPEFが扱う内容の範囲を具体化する協議(スコーピング・エクササイズ)を始めたと認識している。それを通じて、4本の『柱』の下位の内容を具体化できると期待する。韓国もその過程で優先順位と懸念を明らかにする機会があるはずだ。今は内容を作っている段階なので、過度に懸念する必要はないと思う」
-先月の韓米首脳会談では、中国が韓国に向けて経済的圧力や報復に乗りだす場合、米国が支援するという明確な保障は含まれなかった。
「経済的圧力や報復問題は、バイデン政権が強く重視する問題だ。同盟国や協力国とともに、対応策を設けるために緊密に協議している。経済的圧力は、直接的な対象国だけでなく、周辺国もそれによる影響を受けることがあるからだ。米国は、中国の経済報復を受けているリトアニアに対して、輸出入銀行を動員し、取引信用供与をするなどの支援を行っている。また、リトアニアとオーストラリアが中国を世界貿易機関(WTO)に提訴したことについても、紛争解決の過程で可能な支援を行っている」