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[コラム]「論外」な北朝鮮とも対話を

登録:2023-06-05 06:42 修正:2023-06-05 09:18
尹錫悦大統領が政権発足1周年の5月10日、ソウル銅雀区の国立ソウル顕忠院を訪れ、国務委員らと顕忠塔に移動している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 「相手の善意に頼る偽の平和ではなく、圧倒的な力による平和で、未来世代が安心して夢を育んでいける堅固な安全保障を構築する」

 先月24日、国会で開かれた運営委員会の大統領室業務報告で、チョ・テヨン国家安保室長が述べた発言だ。文在寅(ムン・ジェイン)政権の北朝鮮政策は、北朝鮮に対話を求めた「屈従的な偽の平和」だったが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の北朝鮮政策は「堂々とした本当の平和」というフレームだ。

 私は「偽の平和」という言葉を聞いて、「尹錫悦大統領は北朝鮮との対話を『カッチャンタ(なってない、くだらない、つまらない、論外などという意味の韓国語)』とみなしているのか」と思った。慶煕大学のキム・ジンヘ教授は「カッチャンタ」という言葉をこのように説明した。「それを使う人が自ら線を引いておき、他人がその線に及ばないと切り捨てる言葉だ。相手を全面的に否定するもので、当事者と言葉を交わすことが難しい」

 大統領選挙当時、尹大統領は二者討論を提案した共に民主党のイ・ジェミョン候補に向かって大庄洞(テジャンドン)関連疑惑などを挙げ、「こういう人と討論をしなければならないのか」とし、「カッチャンタ」と拒否した。尹大統領としては、国際規範に違反し、北朝鮮住民の人権を蹂躙する北朝鮮政権とは言葉も交わしたくないのだろう。長きにわたり検事として働いてきた尹大統領にとっては、国家保安法上反国家団体である北朝鮮政権との対話自体が論外かもしれない。

 すでに50年余り前にも検事たちはそうだった。1960年代末から冷戦体制の緊張が解けるなど国際情勢の急速な変化に伴い、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領はこれまでタブー視してきた南北対話を公論化せざるを得なかった。1970年、朴元大統領の指示で大統領府参謀たちが南北対話の開始を検討したことを受け、最高検察庁は「北朝鮮との対話を検討することだけで国家保安法違反であり、拘束に値する」と反発した。その時も今も、検事たちは世の中のすべてのことを違法と合法という二分法の物差しだけで裁断する。

 このような内部反発を意識し、朴元大統領は1971年に初の南北対話に乗り出す際、このように述べた。「いくら敵意を持っている人でも、その人の片手を握っていれば、自分を攻撃するかどうか分かるものだ。だからこそ対話が必要だ」

 「敵との対話」は、ベトナム戦争当時に米国防長官を務めたロバート・マクナマラ氏も強調したことだ。1997年6月、マクナマラ氏をはじめベトナム戦争当時の米国とベトナムの安全保障担当高官ら26人が、ベトナムのハノイに集まった。ベトナム戦争が終わってから約20年たって、彼らが3泊4日で行った討論のテーマは「戦争の回避あるいは早期終結のチャンスはなかったのか」だった。

 討論の後、マクナマラ氏はこう述べた。「最も重要な教訓は、ベトナム戦争は米国とベトナム双方の指導者がより賢明に行動していたなら、防げた戦争だという点だ。私が最も重要だと思っていることを二つ申し上げたい。一つ目はまず敵を理解すべきという点だ。私たちは互いに敵について誤解していた。二つ目は、たとえ相手が敵だとしても、最高指導者同士は対話を続ける必要があるという点だ。私たちはそれを怠っていた。これが最も重要な教訓だ」

 2018年12月14日の南北体育会談以降、4年半にわたって南北対話が途絶えた状態が続いている。南北が1971年8月20日に対話を始めて以来、最長の対話断絶記録だ。これまでは全斗煥(チョン・ドゥファン)政権時代の1980年代初めの3年8カ月が最も長かった。尹大統領が南北首脳会談や実務者対話と交渉を「政治ショー」と切り捨てた以上、南北対話断絶の記録もしばらくは伸び続けるだろう。

 尹大統領は価値観外交を掲げ米日と密着している。尹大統領は友人以外はそばに置きたくないようだが、マフィアを描いた映画『ゴッドファーザー』には「友人は近くに、敵はもっと近くに置いておけ」という台詞が出てくる。この映画の原作小説には「敵を憎むと判断を誤る」という文章もある。

 敵を憎んで遠ざけることは簡単だ。むしろ敵を近くに置いておくためには非難と負担に耐える忍耐と勇気が必要だ。尹大統領に「論外」な北朝鮮とも対話する大胆な勇気があるだろうか。見守ってみよう。

//ハンギョレ新聞社
クォン・ヒョクチョル|統一外交チーム長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1094563.html韓国語原文入力:2023-06-05 02:38
訳H.J

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