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尹大統領は北朝鮮の統一戦線部と韓国の統一部の違いが分からないのか

登録:2023-04-08 06:05 修正:2023-04-08 07:58
政治BAR_クォン・ヒョクチョルの見えない安保 
 
北朝鮮の統一戦線部と韓国の統一部は役目が違うのに 
統一部に対応心理戦、お門違いの指示 
「韓国国民対象の対応心理戦」というが 
もともと心理戦は自国民を対象にはしない
尹錫悦大統領が5日、青瓦台迎賓館で開かれた第2回国政課題点検会議で発言している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社
クォン・ヒョクチョルの見えない安保//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は5日午後、青瓦台迎賓館で行われた外交・統一・国防・叙勲をテーマに開かれた第2回国政課題点検会議で、統一部に「最近の捜査結果を見ると、国内団体が北朝鮮の統一戦線部傘下の機関の指示を受けてスパイ行為をしたことが明らかになったが、北朝鮮の統一業務を行うところでそのようなことをするならば、我々も統一部が国民が惑わされないよう広報や対応心理戦などを準備する必要がある」と指示した。

 この指示はお門違いだ。北朝鮮の統一戦線部がそれを行ったから、韓国では統一部が対応すべきというものだが、両機関に同じ「統一」という言葉がついていても北朝鮮の統一戦線部と韓国の統一部は性格が異なる。

 まず所属が違う。北朝鮮の統一戦線部は労働党の対南事業機関であり、韓国の統一部は中央政府の省庁だ。

 業務も違う。統一戦線部は対南戦略戦術業務を実質的に総括調整・統制する役割を果たしており、南北会談、経済協力、海外同胞・外国人工作事業、対南心理戦および統一戦線工作事業などの任務を遂行している。

 北朝鮮の統一戦線部は南北交流と対南工作を共に行っているため、韓国で言えば統一部と国家情報院を合わせた業務を行う。韓国の国家情報院のカウンターパートは北朝鮮の統一戦線部だ。国情院と統一戦線部の間の直通電話を、国情院が位置した町の名前を取って「内谷洞(ネゴクトン)チャンネル」と呼んでいた。

 統一部の北朝鮮のカウンターパートが統一戦線部なのか、それとも北朝鮮の国家機関である祖国平和統一委員会なのかは、当局者や専門家の間でも意見が分かれる。祖国平和統一委員会とみる側は、南北閣僚級会談(高官級会談)の首席代表が、韓国は統一部長官、北朝鮮は祖国平和統一委員会委員長である点を根拠に挙げる。統一戦線部とみる側は、祖国平和統一委員会が北朝鮮内での地位が低いため、長官が責任者である韓国の中央省庁の統一部が対応してはならないと主張する。

2018年10月15日、南北高官級会談の韓国側の首席代表、チョ・ミョンギュン統一部長官(右)と北朝鮮側の団長(首席代表)リ・ソングォン祖国平和統一委員会委員長が、板門店の「平和の家」で午前の全体会合の前に握手を交わしている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 尹大統領は「北朝鮮の統一業務を行うところでそのようなことをするなら、我々も統一部が…」と述べた。北朝鮮の統一戦線部が統一業務を行うため、同じ統一業務を行う統一部が対応心理戦を行うべきだと指示したのだ。しかし、北朝鮮統一戦線部は「統一業務」ではなく「統一戦線業務」を行うところだ。

 統一部と統一戦線部の名称にいずれも付いている「統一」は、実は全く違う意味だ。統一部の英語表記はMinistry of Unificationで、統一戦線部はUnited Front Department of WPKだ。韓国の「統一」(Unification)は分断された南北が一つになるという意味だが、北朝鮮の「統一戦線」(United Front)は「一定の歴史的条件のもと、利害関係を共にする政党、社会団体または階級が、同じ目的を実現するために連合する戦術」という意味だ。統一戦線は1919年、ロシア革命家レーニン主導で結成された国際共産主義団体「コミンテルン(共産主義インターナショナル)」の戦略戦術だ。20世紀、中国共産党が中国国民党と二度にわたって国共合作を行ったのも統一戦線の一環だった。

 北朝鮮の統一戦線部が対南工作を行うのは「統一戦線」レベルで行うことだ。なのに、尹大統領は対南工作に対抗する心理戦を統一部に指示した。統一部は統一戦線部と違って工作業務を担当しない。統一部は統一および南北対話、交流、協力、人道支援に関する政策の樹立、北朝鮮情勢の分析、統一教育と広報その他の統一に関する事務を行う。

 統一部は「対応心理戦を準備すべき」という大統領の指示に当惑した様子だった。

 6日の統一部関係者と記者団の質疑応答では以下のようなやり取りがあった。

-尹大統領が統一部で対応心理戦を準備せよと指示したが、これはどういう意味か。統一部が具体的にどのような準備をするのか。

 「大統領の発言は、最近のスパイ事件のような北朝鮮の不純な企みに国民が惑わされないよう、統一部が対応をしっかり行うべきであり、そのために国民が正しい対北朝鮮観を持つよう努力せよという意味だと理解している。具体的に何を準備するかは、北朝鮮全般の実状と残酷な人権状況などに関する情報を広く伝えることで、国民が正しい対北朝鮮観を持つよう努力する」

-対応心理戦の対象は韓国国民ということだが、北朝鮮に対する理解、統一教育などこれまで統一部が続けてきたことがあるではないか。北朝鮮の実状を知らせるのが北朝鮮に対する理解や教育のようだが、大統領があえて対応心理戦という用語を使った理由は何か。

 「この事案の重要性を強調するためだと理解している」

-辞書によると、心理戦とは敵軍など相手の国民に心理的圧力をかけることだが、今回の対応心理戦は対象が韓国国民なので、心理戦という表現を使うのは難しいのではないか。

 「それだけ事案の重要性を強調した趣旨で理解してほしい」

 尹大統領の指示と統一部の説明を総合すれば、韓国国民を対象に心理戦を行うということだ。心理戦は軍事作戦の一種だ。米国は第二次世界大戦当時から敵軍と相手民間人を心理戦の対象にしている。韓国合同参謀本部が発行した「軍事用語辞典」も心理作戦を「国家政策の効果的な達成を支援するために、味方でないその他すべての国家および集団の見解、感情、態度、行動を味方に有利に誘導する宣伝およびその他すべての活動の計画的な使用」と定義している。韓国と米国は軍事教義上、自国民を対象に心理戦を展開しない。

 これについて、統一部は7日、「統一部報道官の6日の心理戦の対象に関する答弁は、韓国国民を対象に心理戦を行うという趣旨ではなかったことを明確にする」とし、「報道官の説明、答弁の趣旨は北朝鮮の不純な心理戦の企みに対応し、統一部が韓国国民を対象に北朝鮮の実状を広く知らせることで正しい対北朝鮮観を持てるよう対処するという意味だった」と釈明した。

 尹大統領の「北朝鮮の統一業務を行うところでそのようなことをするなら、我々も統一部が、国民が惑わされないよう、広報や対応心理戦などをきちんと準備する必要がある」という指示は、対応心理戦を遂行する主体、心理戦の対象をすべて間違えたものだった。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1086981.html?_fr=mt1韓国語原文入力:2023-04-08 01:19
訳H.J

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