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[コラム]「故障した羅針盤外交」展開した尹大統領の1年

登録:2023-05-05 06:32 修正:2023-05-07 07:12
米国は中国と対立し競争するが、核大国同士が水面下で利益を調整している現実を尹錫悦大統領は直視しなければならない。
尹錫悦大統領が先月27日(現地時間)、ワシントンDCの国防総省本庁舎(ペンタゴン)で、ロイド・オースティン米国防長官らから報告を受けている=ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社

 韓米首脳が発表した「ワシントン宣言」は米国外交の老練さをうかがわせた。北朝鮮の核・ミサイルに不安を抱いている韓国に「拡大抑止の文書化」という贈り物をしたかのように見えたが、米国のより大きな狙いは韓国の核武装の動きを完全に封印することにあった。

 今年1月に「独自の核(兵器)を保有することもありうる」と発言した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領をホワイトハウスに呼んで「核開発は絶対しない」と宣言させたのだ。ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は「フォーリン・ポリシー」への寄稿で「この合意は核兵器の拡散防止という米国国家安保戦略の最も偉大な業績を再び想起させるもの」だとし、「米国チームの勝利」だと評価した。

 ここでも米国は中国を念頭に置いて動いた。「ワシントン宣言」は米国の戦略原子力潜水艦(SSBN)が東アジアに入ってくるという点で中国を不快にさせたが、韓国の核開発を阻止することで台湾などに核拡散ドミノが起きる状況は遮断した。

 ジョー・バイデン政権の高官は「事前に中国にブリーフィングを行い、我々がなぜこのような措置を取るのかを非常に明確に示した」と述べた。米国は中国と対立し競争しているが、核大国同士が水面下で利益を調整している現実を尹大統領は直視しなければならない。

「米国と一緒なら何でもできる」という尹大統領の幻想

 尹錫悦大統領は今回の訪米を通じて、韓国外交から「中国」を完全に排除する方針を固めたようだ。先月27日の米議会での英語演説で「大韓民国は米国と共に世界市民の自由を守り拡張する『自由の羅針盤』の役割を果たしていく」と宣言した。米国が主導する反中国陣営の先鋒に立つということに他ならない。

 米国を訪問する前から、尹大統領はロイター通信とのインタビューで、南北関係と台湾問題を比較して中国を刺激した。いまの東アジア情勢で「台湾海峡の平和と安定が重要だ」という言及は必要だが、台湾を南北関係と比較して「一つの中国」政策を韓国が先に揺さぶっているような発言をするのは強い副作用を引き起こすだけだ。2日には中国に対し「(対北朝鮮)制裁に全く参加もせず、私たちにどうしろというのか。私たちには選択の余地がない」、「前政権は親中政策を展開したが、一体何が返ってきたのか」とまで語った。中国とは仲良くする必要はなく、米国と共に歩むしかないという認識を大統領が自ら表明したわけだ。

 尹大統領は北朝鮮、中国、ロシアは完全に消し去り、米国、日本だけが大きく描かれた羅針盤と地図を持って外交を進めてきた。尹大統領が今回の訪米で多くの演説と記者会見をしながらも、韓国企業が米中技術覇権争いと米国の保護主義で直面した困難について不可解なほど沈黙を守ったのもこのためだろう。

 韓国の半導体メーカーが米国政府の補助金をもらうためには敏感な機密まで米国側に提出しなければならず、中国の半導体工場に新しい設備を増設するのも難しくなった問題について、韓国大統領が沈黙を守っている中、米国人記者が「米国政府の保護主義のため、韓国のような同盟が受ける被害」について質問するという奇妙な状況をどう解釈すべきか。

 尹大統領は、中国とは外交も経済関係もこれ以上必要なく、韓国企業が中国で被害を受けても米国市場で挽回できるという幻想を持っているのではないだろうか。韓国経済が直面した複合危機にいかなる解決策も示せない大統領は、中国が経済報復に乗り出した場合、韓国企業が受ける困難を全て「中国のせい」にするだろう。

 尹錫悦大統領はこの1年間、様々な外交日程で飛び回ってきたが、首脳会談をするたびに問題が解決するどころか外交原則が揺れ動き、成長の動力が弱まっている。尹大統領にとって外交とは、極右、強硬派の支持層に向かって「文在寅(ムン・ジェイン)政権の親中、親北朝鮮外交を覆す」ことを証明するイベントに過ぎないようだ。それに合わせて韓米・韓米日協力強化を唱えながらドン・キホーテのように疾走してきた。

 その結果はもはや保守支持層まで不安にさせるほどだ。保守からも「ワシントン宣言」は韓国の核武装可能性まで遮断した「足かせ」という不満の声が高まり、財界では韓国経済が未来産業の動力も中国市場も完全に失うかもしれないという不安が広がっている。

 尹大統領は7~8日に訪韓する日本の岸田文雄首相の外交を見習わなければならない。日本は中国の脅威を警戒しながら、軍備強化を進め、中国の香港や新疆ウイグルへの弾圧などについても欧米と歩調を合わせて批判してきた。それ同時に、静かに中国と水面下の外交にも力を入れている。

 昨年11月、岸田首相が習近平主席とカンボジアで首脳会談を行った後、今年2月末には中日外交・国防長官会談が開かれ、4月には日本の林芳正外相が中国を訪問し、李強首相、王毅政治局委員、秦剛外交部長と会談した。中国との議員外交も緊密に行われている。中国市場での日本企業の活動は依然として堅調だ。岸田首相は4月末、エコノミストとのインタビューで「中国の覇権的野望を制御するため、日本は軍事的に何をしているか」という質問に対し即答を避け、「能動的な外交が最優先だ」と強調した。今年下半期に岸田首相が中国を訪問するという見通しもある。

 米国、日本は中国と国際秩序の巨大なチェス盤の上で激しく競争し対立するとともに、取引する複合外交を展開している。韓国も中国との課題と対立の要因などを対話で管理する総合的な戦略を立て、それに沿って動かなければならない。中国と緊密につながっている韓国経済が変化した国際秩序に対応できるよう、時間を稼ぎ、環境を作るのは政府の義務だ。北朝鮮核問題に対する中国の態度を遺憾に思っているならば、大統領が記者団に文句を言うのではなく、中国と会って説得し、取引しなければならない。大統領は「米国がすべての問題を解決してくれる」という幻想から抜け出し、韓国の立場できちんと要求し取引する真の外交を今からでも始めるべきだ。

//ハンギョレ新聞社
パク・ミンヒ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1090517.html韓国語原文入力:2023-05-04 19:11
訳H.J

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