今年3月と5月、東海(トンヘ)と西海(ソヘ)上で漂流中に救助され、韓国に留まっていた北朝鮮住民6人を、韓国政府が9日に海を通じて送還した。送還に向けた韓国政府の接触の試みに応じなかった北朝鮮は同日、引継地点である東海の北方限界線(NLL)付近で彼らを出迎えた。
統一部は同日午前8時56分、北朝鮮住民6人が乗った木船が東海のNLLを越え、午前9時24分に北朝鮮警備艇および牽引用と推定される漁船と合流し、北朝鮮に無事帰還したと発表した。統一部当局者は「送還すると通知した時間に、北朝鮮警備艇と漁船が指定の地点(海上座標)まで出迎えにきており、北朝鮮の船舶は自力で帰還した。結果的に円滑で安全な送還になった」と述べた。
韓国政府は、機械類の輸出などを禁止した国連の対北朝鮮制裁決議に違反しないように、東海側の北朝鮮住民が乗ってきた船舶を修理して使う方法を選んだ。国連の対北朝鮮制裁決議案第2397号は、北朝鮮に機械類を輸出することを禁じている。政府はその代わり、運航に必要な救命胴衣、非常食、水などを提供した。西海で救助された木船は修理が不可能なほど破損が激しく、6人全員を東海側の木船に乗せて送り出した。
北朝鮮住民を西海ではなく東海を通じて送還した背景には、東海側には海上境界線をめぐる紛争がないことも影響を及ぼしたものとみられる。西海の場合、南北が互いに海上境界線として認める位置が異なり、送還する地点の通知が難しいというのが専門家たちの説明だ。
板門店(パンムンジョム)を通じて陸路で送還することにも、少なからず困難が伴う。統一部当局者は「南北間の緊張局面もあり、板門店を通じて送還した場合、(北朝鮮軍や当局者と)対面する状況になるが、北朝鮮の確実な応答がない状況で会って良いのかについて考えざるを得なかった」と述べた。
今回の送還で注目すべきなのは、李在明(イ・ジェミョン)政権発足後初となる南北間の関節接触が行われたという点だ。政府は内部的に北朝鮮住民の送還を決めた後、先週と今週の2度にわたり国連軍司令部の直通電話である通称「ピンクフォン」を通じて、送還日時と海上座標などを伝えた。国連軍司令部を通じて週1〜2回、北朝鮮住民の健康状態などを北朝鮮当局に通知し続けた。統一部当局者は「北朝鮮は(送還の)通知に対して結局回答しなかったが、メッセージを受け取ったのは事実だ」と語った。実際、北朝鮮の警備艇と漁船は、国連軍司令部を通じて伝えた指定の地点にあらかじめ来て待機していたという。
政府は、北朝鮮への拡声器放送の中止に続き約1カ月後に行われた北朝鮮住民の送還が、南北関係改善のきっかけになることを期待している。李在明大統領が先月10日の国務会議で、北朝鮮住民の送還を自ら指示したことも、南北関係改善に対する意志と期待がそれだけ大きいことを裏付けている。慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授はこの日、ハンギョレに「国連軍司令部のチャンネルを通じてだが、南北間の間接通話が行われたとみて良いと思う。北朝鮮が警備艇も送ってきたということは、(北朝鮮が送還要求を)公式に受け入れたことを意味する」とし、「この3年間断絶していた南北関係が、低い段階から対話の扉が開かれはじめた」と語った。北朝鮮は2023年4月7日に南北連絡チャンネルを一方的に絶った後、韓国側の通話の試みに全く応じていない。