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金正恩委員長に勧告する…「遠洋作戦艦隊を作るべきではない」

登録:2025-05-03 06:57 修正:2025-05-05 11:46
クォン・ヒョクチョルの見えない安保
先月25日、北朝鮮の金正恩国務委員長が出席したなか、5千トン級の新型多目的駆逐艦「崔賢」の進水式が南浦造船所で行われたと朝鮮中央通信が26日付で報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は先月25日、南浦(ナムポ)造船所で開かれた5千トン級新型多目的駆逐艦「崔賢(チェ・ヒョン)」の進水式に出席し、「有事の際、海外武力増強の企図を拘束し遮断する上で最も信頼できる手段は、遠洋作戦能力を保有することだ」とし、「帝国主義侵略の代名詞と認識されてきた遠洋作戦艦隊を、これからは我々が建設する」と述べた。

 金委員長は駆逐艦「崔賢」を北朝鮮海軍力強化の「信号弾」とし、「2度目の信号弾は、ほかならぬ核動力(原子力)潜水艦の建造事業だ」と述べた。また、「我々は来年度にもこのような級の戦闘艦船を建造する予定であり、できるだけ早い期間内により大きな巡洋艦とそれぞれ違う護衛艦も建造する計画だ」と語った。「崔賢」に続き、原子力潜水艦と多目的駆逐艦、巡洋艦、護衛艦などを建造し、遠洋作戦艦隊を作るということだ。

 金委員長は「主権と国益を守るため、わが海軍の活動水域は領海だけに留まることはできず、海軍戦力は必ず遠洋へと拡大していかねばならない」と述べた。その理由として「最も反動的な軍事ブロックを形成し、朝鮮半島周辺を横行する我々の敵

は全て海洋国であり、彼らの海外侵略の橋頭堡、武力の集結地、兵站基地も大洋と沿海に位置している」と説明した。朝鮮半島有事の際、韓国を支援するために投入される米軍の増員戦力は、米国本土をはじめハワイ太平洋司令部、米国領グアムと日本の沖縄に集まる。北朝鮮の遠洋艦隊構想は、北朝鮮海軍が西海(ソヘ)・東海(トンヘ)の防衛だけでなく、有事の際に西太平洋まで進出し、米国の増援戦力を沖合いから圧迫し遮断することを目指している。

 結論から言えば、金正恩委員長は遠洋艦隊を建設すべきではない。北朝鮮が遠洋艦隊を建設して維持するためには莫大な資金が必要だが、北朝鮮の経済状況ではこれを支え切れないからだ。

先月25日、5000トン級の新型多目的駆逐艦「崔賢」の進水式が南浦造船所で行われたと朝鮮中央通信が26日付で報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 韓国が2000年以降、大洋海軍の建設に乗り出すことができたのは、経済成長のおかげだ。韓国海軍は、1990年代までは海に侵入する北朝鮮スパイ船を捕らえる沿岸海軍だった。1990年代半ばに大洋海軍を建設すべきという声が本格的に高まりはじめ、2003年に「忠武公李舜臣」級駆逐艦(DDH-2・4500トン級)の1番艦が就役した後、同級を6隻、「世宗大王」級(DDH-3・7600トン級)イージス艦3隻を次々と戦力化した。

 海軍力の建設は国力に比例する。世宗大王級イージス艦1隻を作るのに1兆4000億ウォン(約1400億円)かかり、年間運営維持費は300億ウォンにのぼる。忠武公李舜臣級駆逐艦1隻を作るのに3900億ウォンが投入された。「島山安昌浩」級潜水艦(3000トン級)の建造費用は1兆ウォンを超える。

 すべての国の海軍艦艇は3職制運用をする。軍艦1隻は作戦、1隻は整備、1隻は教育訓練で運用し、少なくとも3隻があってこそ1隻の役割を果たすことができる。北朝鮮が遠洋作戦艦隊を作るには、崔賢のような多目的駆逐艦、原子力潜水艦、巡洋艦、護衛艦などがそれぞれ3隻以上なければならない。ここに軍需支援艦、海上哨戒機のような支援戦力も必要だ。北朝鮮は遠洋作戦艦隊の戦力規模や予算などを具体的に明らかにしていないが、遠洋作戦艦隊を建設して維持するには、概算で少なくとも10兆ウォン以上はかかる。

 統計庁が発表した「2024年北朝鮮の主要統計指標」によれば、2023年の北朝鮮の名目国内総生産(40.2兆ウォン)は韓国(2401.2兆ウォン)の60分の1(1.7%)水準だ。米国務省が公開した「2021年世界軍事費および武器取引報告書」によると、2019年の北朝鮮の軍事費は6兆2千億〜15兆8千億ウォンと推定された。同年、韓国の軍事費は63兆1千億〜87兆2千億ウォン水準と集計された。北朝鮮の経済規模を考慮すれば、遠洋作戦艦隊の建設は無理だ。世の中の他のことがそうであるように、望むからといって全て実行に移せるわけではない。

北朝鮮の金正恩国務委員長が、新型多目的駆逐艦「崔賢」の進水3日目に行われた初の武装射撃実験を視察したと、朝鮮中央通信が先月30日付で報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 核戦力の高度化に力を入れてきた北朝鮮は、通常戦力の強化にも乗り出している。北朝鮮が米国とは核軍拡競争、韓国とは通常軍拡競争に乗り出した場合、無理な軍拡競争で滅びた旧ソ連の二の舞を踏む可能性が高くなる。一国が安保を堅固にするために軍事力を増強すれば、不安になった相手国も軍事力を増やすことになる。両者が互いに作用と反作用の軍拡競争を行った結果、安保が全て脆弱になる逆説的な状況、つまり「安保ジレンマ」が発生する。

 「人民大衆第一主義」と「以民為天」(人民を天のごとく見なす)を強調する金正恩委員長に、ドワイト・アイゼンハワー米大統領の1953年4月の演説「平和のための機会」を一読することを勧めたい。

 演説でアイゼンハワー大統領は次のように述べた。「…作られたすべての銃と、進水されたすべての戦艦と、発射されたすべてのロケットは、究極的に飢えても食べられず、裸でも着るものがなかった人々から奪ったものです。武器に満ちた世界が消耗するのはお金だけではありません。これらの世界は、労働者の汗と、科学者の才能と、子どもの希望を消耗しています。現代式重爆撃機1機の費用は、30以上の都市にレンガで作った現代式学校を建てる費用に相当します…私たちは駆逐艦1隻のために計8千人以上が住める新しい住宅に相当する値段を払っています…国家間の健全な信頼と協力・努力をもとに私たちが追求する平和は、戦争兵器ではなく、小麦と綿で、牛乳と羊毛で、また肉と木材とコメで強化することができます」

 金正恩委員長には軍拡競争ではなく、相互信頼に基づいた軍備統制の方へと進んでもらいたい。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1195477.html韓国語原文入力:2025-05-02 10:08
訳H.J

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