19日に行われた「北朝鮮漁師強制送還事件」の一審の宣告猶予判決は、統一を目指す「理想」と分断の「現実」の矛盾的共存が生んだ「立法不備」の状況を考慮した司法的折衷と言える。
ソウル中央地裁刑事合議21部(ホ・ギョンム裁判長)は同日、チョン・ウィヨン元大統領府国家安保室長とソ・フン元国家情報院長らに対する判決を猶予し、「南北が分断されて以来、法的論理では説明しきれない『矛盾と空白』が至る所に散在している」としたうえで、「この事件のような事案に適用する法律や指針などが全く設けられていない」点を理由に挙げた。これと関連し、「制度改善策を設けるなど、社会的公論化と討論を通じて大韓民国の法秩序が置かれている『矛盾と空白』を埋める代わりに、数年間にわたり多くの捜査・公訴を維持するために人員を投入し被告人に実際的不利益を与えることがより良い解決策になるのかは疑わしい」とも述べた。南北分断の長期化による立法不備の状況で発生した同事件は、本質的に刑事法廷に持ち込まれ有罪無罪を争うのではなく、社会的討論で状況を解消すべき問題だという認識を示したのだ。
特に、「後任の大統領の就任などがある程度(捜査開始に)介入したものと疑われる」とし、事実上、この事件が尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が前任の文在寅(ムン・ジェイン)政権を狙って起こした「政治的事件」として捉える余地があることを明らかにした。その根拠として「この事件の起訴は、ソウル中央地方検察庁の検事が捜査の必要性がないとして一度却下を決定した事件」であるにもかかわらず、「大統領が変わり、国家情報院が告発人として告発した事件を、ソウル中央地検の検事が捜査して(起訴が)行われたもの」という点を挙げた。また「告発人である国家情報院が示す資料を検事がほとんどそのまま受け取って証拠として使用」したとし、「検事の客観義務が遵守された捜査と起訴だったのかという疑問が完全に解消されていない」と指摘した。尹錫悦政権の大統領室と検察は「2019年11月25~26日に釜山(プサン)で開かれた韓・ASEAN特別首脳会議に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が出席することを目指して、二人の北朝鮮船員を強制追放した」と主張したが、裁判部は行事の20日前に行われたこのような措置で金委員長の出席が「実現しうるという仮定そのものが、実務上実現可能性がない」と判断した。
今回の判決で注目されるのは、裁判部が「大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属島しょとする」という憲法第3条を根拠に、「北朝鮮住民=大韓民国国民」と判断した点だ。チョン元室長らは裁判の過程で「大韓民国の国民になる要件は法律で定める」という憲法第2条と国籍法などを根拠に、「潜在的国民」である北朝鮮住民が「現実的国民」になるためには、大韓民国政府の承認という手続きが必要だと主張したが、裁判所はこれを認めなかった。
このような決定については、韓国と北朝鮮が国連に同時・分離加入(1991年9月17日)し、国際法的には別の主権国家という現実と、2000年の初の南北首脳会談以降、最高裁が北朝鮮を「反国家団体」であり「対話と協力のパートナー」として実体を認める方向で憲法解釈を調整してきた傾向とも異なるという指摘もある。