尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「海兵隊C上等兵殉職事件」に関与したことを、大統領室の高官が事実上認め、捜査の新たな局面が開かれることとなった。具体的な指示内容の把握のためにも、大統領室はもちろん、尹大統領本人の調査も避けられない見通しだ。
大統領室の高官は先月31日のハンギョレの電話取材に対し、「捜査権のない海兵隊捜査団が軍事裁判所法に沿わず容疑者を多く作ったのだから、それを正すよう大統領が叱ったのではないか」と語った。昨年7月31日朝の大統領室の会議で尹大統領が、イム・ソングン海兵隊第1師団長(当時)らにも容疑をかけた海兵隊捜査団の捜査結果の報告を聞き、それを「正す観点から指示」を下したという説明だ。
昨年7月31日に行われた大統領室会議の参加者が「尹大統領が腹を立てた」と与党関係者に語っていたことをハンギョレが報道するなど、各種の証言や物証が出てきており、もはや「激怒説」を否定するのが難しいことから、新たな防御論理を持ち出したとみられる。
しかし、大統領に軍の捜査機関の決定を覆す権限があるのかは疑問だ。軍事警察職務法によると、軍事警察職務の指揮者や監督者として、各軍の所属部隊の軍事警察の職務を総括するのは各軍の参謀総長だ。海兵隊の場合は、海兵隊司令官が海兵隊捜査団の一般的な職務を総括することになる。この事件の場合、具体的な事件に対する指揮監督権限はパク・チョンフン海兵隊捜査団長(当時)に委任されていたと考えられる。そのため、尹大統領の指示内容が正確にはどのようなものだったのかを確認してこそ、職権乱用・権利行使妨害容疑の適用の是非を検討しうる。
そのためには、昨年7月31日に下された尹大統領の指示と、同年8月2日にイ・ジョンソプ国防部長官(当時)にかけた3回の電話の内容などについての捜査は避けられない。この過程で、当事者である尹大統領の取り調べも必要不可欠だ。ただし、今まで捜査機関が現職大統領を直接呼んで取り調べたことはないため、実際に調査が実現するとすれば書面・訪問調査のかたちで行われる可能性が高い。
一方、大統領室はこの大統領室高官の発言について、「個人の意見」だとして意味を切り縮めている。公式の立場ではないと釘を刺したのだ。大統領室の幹部はこの日、C上等兵殉職事件についての尹大統領とイ前長官との通話内容などについて、「公捜処が捜査を通じて明らかにすべき事案だ、というのが一貫した立場」だと述べた。また、先の大統領室高官の発言については、「かなり推測が入った個人の意見に過ぎない。公捜処が捜査中の事案だが、大統領室の発言は捜査のガイドラインになりうるので、この事案に言及することは不適切だ」と述べた。