大統領執務室をどこにするか、どのように空間を構成するかは、国政運営において重大な問題だ。特に、大統領室の位置は政治的、社会的、象徴的な側面で重要な意味を持つ。大統領と参謀陣間の円滑で効率的な意思疎通のため、執務室と秘書棟の空間をどのように作るのかを論議しなければならない。現在の政治的状況で、特定の政党が議論を先に始めるのは負担になるかもしれない。だが、引継ぎ委員会なしに業務をすぐに始めなければならない次期大統領の任期を考えると、時間が足りない。
では、どのような代案があるだろうか。まず、大統領室の位置は大きく3つの案があり得る。第一に、現在の龍山(ヨンサン)の大統領室を使う案だ。前政権による龍山への大統領室の移転は、国民との疎通という名目で拙速に進められた。龍山は弾劾された大統領が使用した空間である点はさておき、そもそも地理的にも、国民との意思疎通を図る面でも、適切な場所ではない。龍山は韓国と米国の軍関連施設が密集しており、大統領室のセキュリティが脆弱であり、軍部隊が非効率的な空間運営を余儀なくされるうえ、国民との意思疎通が困難である点などを考えると、到底適した場所とは言えない。しかも現在、龍山には官邸がない。大統領が会社員のように家から通勤するのはコメディーのようなことだ。米国、英国、ドイツなどを見てみよう。どの国の最高指導者が市民に被害を与えながら通勤するのか。国家元首は一般勤労者のように通勤するほど暇なポストではない。
第二に、今政界で最も有力に取り上げられている案は、世宗市(セジョンシ)に大統領室を移転することだ。結論から言えば、これを直ちに実現することは難しい。ソウルを中心とする首都圏の肥大化と国家のバランス発展、国土の中心部という象徴性などを考慮すると、世宗市への移転は望ましい代案といえる。しかし、大統領室と国会の移転は思ったより簡単ではない。国民に理解を求め、法と制度を整えなければならないなど、先に行うべき手続きが多い。国民的合意がなされ敷地が決まったとしても、建物を設計して施工するまで約3年の時間が必要だ。次期大統領が世宗市で執務する可能性は低い。
第三に、青瓦台(チョンワデ)への復帰だ。政界では、大統領府がすでに市民に公開されているため、不可能という方向で意見がまとまっているようだ。大統領府の重要施設のうち、開放されたのは大統領執務室と官邸などだ。幸い、秘書陣が勤めていた与民館はほとんど開放されなかった。歴代大統領の一部は、孤立した執務室よりは与民館で執務していた。大統領と参謀たちが現在の与民館で一緒に勤務できるという側面で、既存の与民館をリモデリングして入居する方が最も現実的な代案になりうる。官邸も、既存に開放されたところの代わりに、大統領の安全家屋や首相公館などの代案も考えられる。青瓦台がこれまで非難を受けた理由は、大統領執務室が国民と秘書陣から隔離された所に立地しただけでなく、大統領1人のための権威的な建物だったからだ。既存の与民館は「青瓦台前の道」に隣接しており、市民のそばにあるという象徴性、そして執務室、官邸などと一つの団地で構成される効率的空間を作ることができる点で、最も望ましい代案になりうる。
次に重要な議論は「意思疎通」のために空間をどのように構成するかだ。大統領は、緊迫した国内外の懸案を扱わなければならないため、参謀陣と随時対面して意見を交わす必要がある。ホワイトハウスや英国、ドイツの首相執務室も秘書陣と1〜2分以内の距離にあるだけでなく、意思疎通を図るための空間構造で作られている。英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のビル・ヒリアー教授は、建物で空間構造が意思疎通と業務の効率性、生産性に重要であることを科学的に立証した。必要な空間が確保されたからといって、あるいは互いに近くにいるだけでは意思疎通が実現しない。意思疎通には空間の構造が大きな影響を及ぼす。綿密な設計が必要だ。
6月3日、国民投票を通じて選出される大統領は直ちに業務を始めなければならない。したがって、次期大統領の業務室の最も現実的な代案は青瓦台だ。既存の与民館を中心に大統領執務室、秘書棟、官邸などを一つの団地に構成することが必要だ。次期大統領はここで時間をかけて、世宗市への移転などを含め、大統領執務室に対する今後の方策について話し合えば良い。空間は単に物理的オブジェクトではない。空間は社会的かつ政治的対象である。先送りする時間などない。今すぐ議論を急がなければならない。