小学校教師による「児童虐待」を疑った保護者が、子どもに伝えずにカバンに録音機を忍ばせて授業を録音したとしても、その録音ファイルは証拠として使えないとする韓国最高裁(大法院)の判断が下された。原審は自らを守れない児童の場合は「第三者による録音」を証拠として使えると判断したが、最高裁はこれも「違法傍受」に当たると判断した。特殊教師によるウェブトゥーン作家チュ・ホミン氏の子どもに対する虐待事件など、争点の類似する別の事件にどのような影響を及ぼすかに関心が集まっている。
最高裁判所1部(主審:オ・ギョンミ最高裁判事)は11日、小学校3年生の児童に対して授業中に精神的虐待行為をはたらいた疑いで起訴された小学校教師A氏に罰金500万ウォン(約55万円)を言い渡した原審を破棄し、事件をソウル東部地裁に差し戻した。被害児童の両親は子どもに伝えずにカバンに録音機を忍ばせ、A氏の授業内容を録音していたが、この録音ファイルを証拠として使うことはできない、との趣旨だ。
ソウルのある小学校の担任教師であるA氏は2018年3月、授業中に小学3年生の児童に対して「○○は学校に通っていなかった子みたい」、「バカなことをするのを自慢だと思っています」、「あの子(被害児童)と遊ぶと自分の人生がだめになるだけ」など、児童の精神の健康および発達に害を及ぼすことを言ったとして起訴された。
被害児童の両親は、子どものかばんにこっそり忍ばせた録音機でA氏の児童虐待を把握した。学校から帰宅した子どもから「1、2年生の時に本当にきちんと通っていたのか、などと先生に言われた」という話を聞いて、子どものかばんに忍ばせた録音機で教師の授業内容を録音し、証拠を収集したのだ。両親は1カ月あまりにわたって授業内容を録音した末、A氏を児童虐待で通報し、録音ファイルを捜査機関に提出した。一審はA氏に懲役6カ月、執行猶予2年、二審は罰金500万ウォンを言い渡した。
今回の上告審の争点は、両親が秘密裏に授業内容を録音したファイルの「証拠能力」だった。通信秘密保護法は、公開されていない他人同士の会話を第三者が録音した違法傍受の内容は、裁判で証拠として使うことができないと定めている。しかし一、二審は録音ファイルを証拠として認めた。
二審は「小学校3年生の被害者は自分で自らの法益を守る能力がなかった。教師の虐待行為を疑うに値する情況があったため、両親は状況を把握し、虐待を防止するために録音することになったもの」、「録音者と会話者(被害児童)は同一視するほど密接な人的関連がある」と判断した。30人ほどの児童に対する発言であるうえ、公共的性格を持つ小学校の授業は「公開されていない会話」だとは考えられない、との判断も付け加えた。
最高裁は原審の判断を覆し、録音ファイルの証拠能力を否定した。最高裁は「被害児童の両親はそもそも会話に参加していた当事者ではない」とし、「被害児童の年齢、両親が被害児童の親権者であるという事情を考慮しても、両親は被害児童とは別人格である以上、第三者とみなさざるを得ない」と述べた。最高裁はまた「小学校の担任教師が教室で授業中に行った発言は通常、教室内の児童に対してのみ公開されたものに過ぎず、一般公衆や不特定多数に公開されたものではない」として、「公開された会話」ではないと判断した。
最高裁の今回の判断により、教室内の教師による児童虐待の立証はよりいっそう難しくなった。被害児童が自ら会話の当事者となって教師の虐待情況を録音しなければ、直接の証拠収集が難しくなったからだ。保育機関で虐待を受けた経験を持つHさん(40)は、「監視カメラ(CCTV)は声が録音されないため、言語による精神的虐待が確認できない。今後、虐待が疑われた場合、親はどのように事実を確認し、証明しうるのか。もどかしく思う」と話した。「政治するママたち」で活動するチャン・ハナさんはハンギョレの電話取材に対し、「教師の虐待行為の防止策はないのに、それを防ぐための保護者の手段は奪ってしまったという、無責任な判決。証拠能力がないだけで加害事実がないわけではないので、教育当局は当該教師に対する解任を撤回すべきではない」と述べた。
教育庁で働いていた経験を持つファン・ソンウク弁護士は、「今や保護者は虐待の証拠を探すために録音ではなく他のやり方を考えなければならない」とし、「直接証拠ではないものの、周囲の友人の証言や、教師に問題を提起する会話の内容などが、虐待の情況を裏付ける根拠になり得る」と語った。