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【韓国大統領選】広場を継承するのはどの大統領候補か【寄稿】

登録:2025-04-25 01:43 修正:2025-04-26 08:18
キム・チョン・ヒウォン|米国アリゾナ州立大学教授
昨年12月21日午後、ソウルの光化門と東十字閣のそばで、市民が「尹錫悦即時逮捕・退陣! 社会大改革! 汎市民大行進」集会の終了後、ペンライトを振りながら明洞までデモ行進している=資料写真//ハンギョレ新聞社

 デレク・ベル・ジュニアはハーバード・ロースクールでテニュア(終身在職権)を得た最初の黒人教授だった。強固な差別をあらわにする「最初の黒人」のような修飾語は面白くなかっただろうが、彼はやむを得ずそのような時代を生きた。自然と彼は、法学者として差別撤廃に向けた法制改革に深い関心を傾け、数多くの学問的、実践的業績を残した。その後、彼はハーバード大学の性差別的政策に反対し、テニュアを得ていながら大学を辞す。

 彼は生涯、黒人の権利拡大と人種差別の撤廃に尽くしたが、当代の有意義な制度的「進展」にもかかわらず、彼の心は穏やかではなかった。しばしば覆される判決と政策に深く苦悩した彼は、最終的に痛烈な批判を込めて「利害収れんのジレンマ」という論文を発表した。黒人の権利拡大はいつ、どのように実現するのか。差別的政策はいつ、どのように廃止されるのか。白人と同等に扱えという主張はどのような場合に支持されるのか。彼は、黒人の権利拡大は、黒人の要求が白人の利害と一致する時にのみ実現すると主張した。これがすなわち利害収れんのジレンマだ。

 ちょうど既得権を持つ者の利害と合致したためにマイノリティーの権利が確保されたのだとしたら、それは進歩なのか、そうではないのか。構造的差別をまったくいじらなくても、マイノリティーがその構造の中へとうまく編入されたなら、それはそれなりに良い人生なのか。既得権を持つ者が不当な特権を放棄したわけでもなく、再分配が行われたわけでもないのに、弱者の要求が特権層の利益にも合致するから、それが受け入れられたのだとすれば、それも平等へと向かうための一つの方便なのだろうか。制度的な改善によって暮らしが少しましになったのだから、いずれにせよ平等で正義にかなう社会へと一歩近づいたのだろうか。しかし、そのことで永遠に先延ばしにされることとは何なのだろうか。

 社会運動に携わっている人間なら誰しも、このような瞬間に直面する。「後で」をめぐって形成される戦線のことである。構造的変革は「後回し」にしてでも、ひとまず「社会的合意」がなされた内容から、言い換えれば既得権を持つ者も拒否感なく受け入れられる内容をまず推進しよう、というわけだ。このような主張は最近はじまったものではないため、政治家に裏切られたという繰り返される感覚は言葉では表現できない。選挙シーズンになると青年女性たちの進歩的な投票傾向を褒めそやすが、共通の利害がなくなれば、その時から女性議題は後回しになる。差別禁止法を制定すると叫んでいても、さらに急を要する問題があふれている、推進する計画はないという。口では「包摂社会」を論じるが、政府、国会、選挙陣営は男性で占められている。

 広場の主役たちも、今回の選挙で同じジレンマに直面することになるのだろうか。広場で夜を明かした女性、クィア、労働者、移住民、障害者、農民、青少年、そして数多くの人々の口からあふれ出したあの変革の言葉は、今も「後で」の対象なのか。あれほど多くの人々が広場にやって来て自らのアイデンティティーを、性的指向を、障害を、疾患を、または職業を「カミングアウト」した時、政治家たちは果たしてその言葉を心に刻んだのだろうか。誰も偏見と嫌悪と暴力の対象にならない、平等で安全な連帯のモデルを受け継ぐことを誓った政治家はいたのだろうか。

 広場は政治の前提条件だ。すなわち、広場を反映していなければ、それは政治ではない。単なる現状維持のための既得権を持つ者による権力闘争に過ぎない。「改革」の推進は特権層と利害が収れんするまさにその地点までにとどめておくことこそ、最も効果的な現状維持の技術だからだ。広場が望んでいることは自明だ。政権交代と内乱の終息にとどまらず、平等と正義を勝ち取り、誰もが尊厳ある人生を送れる社会を作ることだ。だからこそ、広場には疎外され周辺化された身体たちが堂々と登場し、それぞれの理想を舞台の上から叫んだ。彼らは、既得権を握る家父長の言語は寿命が尽きたことを完全に立証した。私たちは今や別の世界を望んでいる。

 広場の記憶を失わないようにするために、私たちは投票先は誰でもよいというわけにはいかない。アイデンティティーと国籍を理由として暴力の対象とされない社会、非人間的な労働に苦しめられて死に追いやられる労働者のいない社会、ケアの名のもとに安く買いたたかれる人々のいない社会、貧しいせいで災害の被害者にならない社会。そのような社会は「後で」作ろうと言う人間に、広場の支持を得る資格があるだろうか。広場のエネルギーが爆発した今がその時でないなら、一体いつだというのか。広場を継承する候補は果たして誰なのだろうか。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョン・ヒウォン|米国アリゾナ州立大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1193939.html韓国語原文入力:2025-04-23 18:30
訳D.K

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