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「北朝鮮は統一を保留する姿勢…『事実上のツーコリア』へと向かう可能性高い」

登録:2023-07-25 08:31 修正:2023-07-27 22:38
北朝鮮の相次ぐ「大韓民国」発言の意味 

4年前から国対国へと転換 
金正恩は南北交流は先代の誤りとの考え 

「統一志向の特殊関係」にしがみつくことが 
逆に南北関係改善の障害になるのを懸念 
「国家構図」の中の過程の平和追求を 

相互評価を追求する「事実上のツーコリア」 
軍備規制・北朝鮮の人権改善を導く可能性も 

北朝鮮を利用した韓国の政争化は危険水位 
共存平和が定着すれば韓国内での対立も緩和

 このところ北朝鮮のキム・ヨジョン労働党副部長が「大韓民国」という表現を相次いで用いている。北朝鮮が公式談話で「南朝鮮」や「南側」ではなく、正式な国号である「大韓民国」を使用したのは非常に異例のことだ。これは何を意味するのか。専門家たちの意見を聞いた。北韓大学院大学のキム・ソンギョン教授と統一研究院北韓研究室のホン・ミン室長の書面回答を一問一答形式にした。

ホン・ミン統一研究院北韓研究室長=本人提供//ハンギョレ新聞社

-北朝鮮は事実上、統一をあきらめて「ツーコリア」政策へと向かっているのか。

ホン・ミン:金正恩(キム・ジョンウン)政権は2019年以降、「国対国」構図へと南北関係を転換しようとしてきた。同年10月の金委員長による金剛山(クムガンサン)観光地区での現地指導で、すでに南北関係に関するガイドラインは設定されていると思う。彼は過去の南北交流協力のことを、国力が微弱だった時期に先代の誤った判断によって行われたものと強く批判した。南北関係を根本的に再設定するという意志を表明したのだ。その後は開城(ケソン)共同連絡事務所の爆破、対南部署の廃止および縮小、「労働新聞」の対南紙面の廃止、韓国による北朝鮮に対する提案の無視戦略と、一貫している。2021年からは「我が民族同士」、「民族」、「統一」という用語はほとんど使っておらず、さらに第8回党大会で採択された改正党規約の序文に至っては「統一」、「南朝鮮革命の強化」などの対南関連部分をなくした。また2021年からは戦術核を強調しはじめたが、同じ民族に対する戦術核使用の可能性に言及したことは、北朝鮮がこれまで維持してきた「我が民族同士」および統一戦線の論理と衝突する。これは2018年になされた南北・朝米合意が履行されていないこと、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足後に一層悪化した情勢と無関係ではない。キム・ヨジョン副部長の談話も、このようなことの連続線上で把握する必要がある。

キム・ソンギョン:キム副部長が「大韓民国」という表現を使ったのには、明らかに理由があるだろう。党規約で統一について変化した立場を表明したこと、尹錫悦政権の大胆な構想を非難し、互いに意識しないようにしようと述べたことも、同じ流れの中にあると思う。「ツーコリア」の方向性だと断定することは難しいが、少なくとも統一を国家目標と絶対的理想にすることに対して保留する立場を取っている。

北韓大学院大学のキム・ソンギョン教授=本人提供//ハンギョレ新聞社

-国内・南北・国際状況をすべて考慮すると、「統一志向の特殊関係」の維持は望ましいものなのか。

キム・ソンギョン:統一は朝鮮半島内外の様々な問題の解決にとって依然として有効な目標だと思う。分断以来、南北双方のいびつな社会の根幹には分断が存在するためだ。しかし、統一に至る道がかなり長く、かつ様々な現実的制約がある中で「統一志向的な特殊関係」というものにしがみつくことは、むしろ南北関係改善の障害にもなりうる。現在の国際情勢や韓国内の政治の両極化などを考慮すれば、「普遍的国家関係」としての南北関係を本格的に考えてみる必要がある。「普遍的関係」でアプローチすれば、むしろ南北の関係の特殊性が重要になる契機が作られるだろう。

ホン・ミン:「統一志向的特殊関係」と「国対国の関係」は選択の問題だと考えるのは困難だ。究極的に統一は目指すものの、現実と理想との乖離(かいり)を解決していく過程では事実上の「国対国」構図を利用することが必要だ。重要なのは統一志向性に合った「過程的平和」のよりきめ細かな設計と管理にある。「統一志向的特殊関係」と言いながら、内容的には力による圧倒に埋没してしまえば、「過程的平和」が不在のまま統一志向性からより遠ざかってしまう恐れがある。「過程的平和」を通じて敵対的関係を友好的関係へと変化させるとともに、それが究極的に統一という過程へと自然に転換しうるようにする知恵が必要だ。

-ツーコリアへの方向転換は南北対話の議題となり得るか。

ホン・ミン:対話の議題とするためには、南北がツーコリアへの転換を公式に認めなければならないが、不可能に近い。分断以降、南北は「統一志向性」を体制の正当性の観点から規定してきた。これを転換するためには、両体制ともに政治的合理化に向けた内部作業をしなければならないが、そこから派生する対立は乗り越えがたいと思う。したがって「公式のツーコリア」ではなく「事実上のツーコリア」へと向かう可能性が高い。「事実上のツーコリア」には2つの様相がある。一つは今のように軍事安保的なにらみ合いと敵対にもとづく現状維持の中で「統一志向」の原則だけがあり、事実上誰も統一を期待しない様相だ。もう一つは、朝鮮半島のすべての構成員が平和に暮らす権利の観点に立ち、可能なことから相互脅威の緩和に手を付けていくことだ。それに向けて「国対国」の観点からの軍備規制アプローチも考えうる。

キム・ソンギョン:南北が解決すべき議題の中には、南北関係の特殊性のせいでまともに議論すらできないものも多くある。南北の気候環境や感染症などの問題を「政治化」することなく、実質的な改善を目的として対話を始めることはできる。政権によっては「特殊関係」を掲げ極度に政治化される北朝鮮の人権問題も、国際社会に準ずるよう求めるくらいの主張を韓国がすることで、北朝鮮住民の人権の実質的な改善は引き出せる。留意すべきは、韓国が統一すると主張するほど、北朝鮮はそれを脅威と感じる可能性が高いということだ。南北がかなり長い期間にわたって共存することが必須不可欠な中では、せめて「普遍的関係」を作ってまず平和共存することから始めなければならない。

-特殊関係から一般関係への転換の模索は、韓国内での対立にどのような影響を及ぼすと考えるか。

ホン・ミン:国対国の外交的対象になったとしても、南南対立(韓国内での理念的な対立)そのものが直ちに消えると考えるのは難しい。「民族」から「隣り合う敵対的国家」へという形式の変化だけでは、北朝鮮という敵対的他者性、歴史性、血縁的想像を脱することは難しいだろう。国対国という形式だけでなく、内容的に関係の友好性を作り出すことができなければ、北朝鮮は絶えず外交的・軍事的対立の素材かつ「親北」と「反北」という二分法的対象として残ることになるだろう。ただし、長期的に人口社会学的な世代が変化し、国対国という外交的対象化と一定の共存的平和が定着すれば、南南対立の構図もかなり薄まる可能性はある。

キム・ソンギョン:北朝鮮という他者を利用した韓国の政治勢力の政争化は、すでに危険水位を超えている。このような脈絡から、北朝鮮との関係の転換は冷戦によって構築された政治地形の素顔をあらわにし、労働・経済の両極化・福祉・地方消滅・環境・ジェンダーなどの韓国社会の重要な議題を浮上させる効果を作り出しうる。ある意味、市民の意識と生活はすでに北朝鮮を主要変数として考慮していないのに、政治勢力だけが極端化した支持勢力を結集させるために北朝鮮問題を利用しているのかもしれない。現実と理想はコインの裏表のようなものだ。統一がますます難しくなっている現実に積極的に対応しつつも、朝鮮半島問題の究極の志向としての統一という価値をしっかりととらえていくための工夫が必要だ。

チョン・ウクシク|ハンギョレ平和研究所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1101405.html韓国語原文入力:2023-07-24 09:21
訳D.K

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