「公益であれ私益であれ、統一が利益をもたらすという合理的な判断ができれば、青年世代は統一に同意すると思います」
11日、「ハンギョレ」が行った統一と南北関係に関する青年座談会で、参加者たちは統一を絶対的な目標とは考えていなかった。彼らにとって、統一は自分の人生やまわりにどのような変化をもたらすのかを見極めるべきものとして捉えていた。このような変化は真新しいものではない。すでに韓国社会は2018年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪の女子アイスホッケー南北単一代表チームを構成する際、青年世代と旧世代の認識の差を痛感させられた。
座談会の参加者らは、政界が政治的なスタンスによって恣意的に南北問題を図式化する態度に批判的だった。
ある参加者は、選挙のたびに繰り返される北朝鮮主敵論争について、「それ自体が自らの格を下げること」だと述べた。彼らは尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の北朝鮮政策が「国内政治を念頭に置いた無責任な政策」だとし、「政界が青年たちを朝鮮半島問題から排除している」と批判した。
特に、彼らは「統一に反対すれば積弊になり、賛成すれば従北(北朝鮮追従)になる」二極化した韓国社会の現状に懸念を示した。彼らは保守勢力が北朝鮮の人権に注目し、革新勢力が北朝鮮への支援を強調する状況についても戸惑いを隠せなかった。
その一方で、青年たちは分断国、休戦国で暮らす日常を体感していた。ある参加者は、5月に起きた北朝鮮宇宙飛翔体の発射をめぐる警戒警報の誤発令騒ぎで「分断の沼でもがく現実を直視するようになった」と語った。彼らは、朝鮮半島問題の当事者である自分たちの考えが意思決定の過程でより多く反映されることを望んでいた。青年たちは接境地域における伝染病防疫問題や中国漁船の不法操業への対処など、南北が共に解決すべき問題について、解決策を共に考える訓練が今後統一と南北関係に役立つだろうと指摘した。
「ハンギョレ」は統一と南北関係に関心のある青年たちの座談会で、5月15日から始まった「停戦・韓米同盟70周年」創刊企画を終了する。
座談会には朝鮮半島問題を扱う青年非営利団体「朝鮮半島政策コンセンサス」の活動家のチョン・イェリン氏(21)とキム・ミンジェ氏(22)、南北協力団体「ハナヌリ」の幹事のチョン・イスル氏(32)、外交安保ニュースレター「デルタ・ワールディング」を運営するピョルセッピョル氏(43)、「民主平和統一諮問会議」の諮問委員で統一学を研究するキム・ジュホン氏(31)が参加した。
懇談会は「青年たちは統一に無関心なのか」という問いから始まった。参加者たちはこの問いが「愚問」だと指摘した。統一を「当為(なすべきこと)」と捉える上の世代とは異なり、彼らはまず「なぜ」を考えなければならないという意見を示した。
キム・ミンジェ 「青年たちも統一を成すべきことだと思うか」という質問から間違っていると思う。私と同年代の大学生たちは、必ずしも統一すべきだとは考えていない。公益であれ私益であれ、統一が合理的利益をもたらすと判断すれば、青年世代は統一に同意すると思う。
チョン・イェリン 「なぜ統一しなければならないのか考えてみなければならない」という意見に共感する。南北関係が悪化し、緊張が高まったことで、青年世代で北朝鮮に対する漠然とした敵対感が深まっているようだ。
ビョルセッピョル 若い世代はデジタル環境に慣れており、これを通じて北朝鮮に対する情報に接して判断できる。もしかすると、上の世代よりも専門家かもしれない。ところが、上の世代は彼らに「なぜ統一に関心がないのか」と尋ねる。統一問題は青年世代の志向点を把握したうえで、柔軟かつきめ細かく戦略を立てなければならない。
チョン・イェスル 青年たちが統一に関して体感できるテーマから取り上げなければならない。学校で統一教育をする時も、中国漁船の不法操業に対する南北共同の取り締まりや、新型コロナウイルス感染症のような伝染病に対する南北共同の対応などを例に挙げると、すぐ理解する。学生たちも「基本的なことは当然一緒に進めるべき」という。このように私たちが直ちに解決できる問題を取り上げると、学生たちはすぐに反応する。
キム・ミンジェ 青年の暮らしは不確実性が高すぎる。1年後に自分が何をしているかも分からないのに、統一問題は机上の空論のようにも感じられる。北朝鮮の人権であれ、対北朝鮮協力であれ、素直に受け止めるのが難しい環境だ。
キム・ジュホン 統一分野で長く働いてきた。統一運動をするのは、まるで日帝強占期(日本による植民地時代)の独立運動のようだという気がした。青年たちは今、自分のことで精いっぱいなのに、「どうして統一に関心がないのか」と聞くのはあまりにも攻撃的だ。
ピョルセッピョル 「若い人たちは北朝鮮に関心がない」とよく言われるが、それは違う。デジタル環境に慣れているため、むしろもっと早く朝鮮半島のニュースに接し、関心のある人たちはかなり専門性もある。
統一問題に関心を持つには厳しい現実に直面していると語った青年たちは、政界が与野党に分かれ、与党は北朝鮮の人権問題に注目し、野党は対北朝鮮支援問題を強調する二分法的アプローチに批判的な態度を示した。大統領選挙の度に「北朝鮮は主敵なのか」をめぐって争うことについては、「みずから格をさげること」とも指摘した。
ピョルセッピョル どうして20・30代が上の世代の統一議論に不信感を抱くようになったのか、振り返ってみる必要がある。その一つが北朝鮮の人権問題だと思う。北朝鮮の人権は韓国で政治的に利用されている。
チョン・イスル 人道支援は世界的にみると、保守勢力が使うカードだ。しかし、韓国では北朝鮮に対する人道支援を革新勢力といわれる政権が進める。一方、人権は革新勢力の議題だが、韓国では保守勢力が北朝鮮の人権を強調する。2つのアジェンダをめぐって人々は混乱している。
キム・ミンジェ 実際、北朝鮮の人権が立ち遅れているのは事実だ。しかし、政界で北朝鮮の人権を政治的レトリックで語るため、信頼できない。青年たちは政界のいう北朝鮮の人権を理念的主張と捉えている。そのため、現時点では北朝鮮の人権問題を偏見なしで素直に受け止めるのは難しい。
チョン・イェリン 対北朝鮮支援と北朝鮮の人権問題をめぐって政界が争う姿を見て、青年たちは疲労感を感じている。統一は政治家が論じ、彼らが決める問題だと考えてしまう。二極化した政界の言説が青年たちを朝鮮半島問題から遠ざけている。
キム・ミンジェ 大統領選候補らが討論の際、互いに「北朝鮮を主敵と捉えるのか」を問うのを見ると、本当に残念だ。大統領選候補ともあろう人たちがそんなレベルの質問を投げかけるのかと呆れてしまう。北朝鮮が主敵かどうかを問うこと自体が、自ら格を下げることだと思う。
ピョルセッピョル 北朝鮮の人権と対北朝鮮支援問題が国内で政争に使われてしまうので、長期的に国益に害を及ぼす。
参加者らは尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の北朝鮮政策については、国内政治をより意識した政策だとし、無責任だと批判した。北朝鮮が核開発を中断し、実質的な非核化に転換した場合、段階に合わせて北朝鮮の経済と住民の暮らしを画期的に改善するという政府の「大胆な構想」については、概念が曖昧だという批判の声もあがった。
キム・ミンジェ 青年たちが保守的な統一論に支持を送るという偏見があるが、これはオンラインにおいて過度に表出されている世論を誤って解釈したものだ。私の周りには現政権の北朝鮮政策は無責任だという意見が多い。
チョン・イスル 大胆な構想は国内政治を狙ったものだ。対北朝鮮支援と北朝鮮の人権もそんな風に消耗している。万が一発生しうる小さな危険要素まですべて考慮に入れておかなければならないのに、何をもって大胆な構想だというのかよく分からない。
キム・ミンジェ 北朝鮮問題について責任を負いたくないようだ。今総選挙を控えている状況で、保守陣営は北朝鮮関連の問題を良くない方向に広報し、利益を得ようとしている。
チョン・イェリン 私のまわりの青年たちは関心そのものがない。弾道ミサイルが飛び交い、政府が北朝鮮に制裁を加えていることは知っているが、保守や進歩の立場が何なのかについては基本的なことすら知らない。
キム・ジュホン そうだ。いざ北朝鮮と連携した状況が発生した時は、まともに対処できていない。5月31日、宇宙飛翔体のめぐる誤発令問題が代表的な事例だ。その時は本当に大変な事態が起きたと思った。「何が起きたのか」と妻にたたき起こされた。
ピョルセッピョル 当時、メッセージが届いたのはソウル市内だけで、京畿道民たちは何も知らないまま職場に向かった。
キム・ジュホン (ソウルより)むしろ衛星飛翔体ともっと関連のある仁川(インチョン)でも警報メッセージが届かなかったそうだ。生命権と幸福追求権はソウル市民だけのものではないのに。一連の事態を経験し、分断の沼でもがく韓国の現実を直視するようになった。
尹錫悦政権の北朝鮮政策に関する討論は、自然に政府が強調する韓米同盟の強化問題についての話へとつながった。参加者たちは盲目的な韓米同盟の強化には否定的な態度を示した。
チョン・イスル 韓米同盟の利益ももちろんある。しかし、韓米同盟の利益は誇張され、弊害は縮小されたと思う。韓国の国際的地位が変わったのだから、韓米同盟も変わるべきだ。
キム・ミンジェ 米国が韓国にとってどんな存在なのかを考える必要がある。朝鮮半島問題を解決するために、韓米同盟に頼るのは非合理的な処置だと思う。
チョン・イェリン 朝鮮半島問題を解決する直接的な当事者は結局、南北だ。そして、北朝鮮にとって交渉は国家の生存に関わるものなのに、韓国が米国との同盟だけを誇示するなら、交渉に出るだろうか。
座談会の終盤、参加者の間では「ならば、解決策は何か」という声もあがった。チョン・イェリン氏は2018年平昌五輪当時、女子アイスホッケー南北単一チームの構成問題をめぐり青年世代が熱い関心と論争を繰り広げた事例に触れた。
チョン・イェリン 私たちは朝鮮半島問題の明白な当事者だ。にもかかわらず、十分な話ができていない。2018年の平昌五輪当時の女子アイスホッケー南北単一チーム問題を振り返ってみよう。最初は反対が多かったが、構成してみると世論が変わったではないか。それを考えると、若者たちが北朝鮮に多様なチャンネルを通じて接する方法を用意すべきではないかと思う。
キム・ジュホン 最近は統一に反対すれば積弊となり、統一に賛成すれば従北とされる。 両方の反目が激しいため、統一問題に取り組む人たちも厳しい状況に置かれている。若い活動家たちが入ってこない。統一運動が動脈硬化状態になってしまった。
キム・ミンジェ 民主主義は国民を啓蒙するものではない。青年たちが統一に保守的で関心がないと非難するのではなく、青年が統一をテーマに話せるよう発言権を与えなければならない。青年世代の統一議論に当の青年がいないような気がする。
チョン・イスル 統一と平和、南北関係と外交は目的も重要だが、それに劣らず解決していく過程も重要だ。過程を重要視する観点から南北関係と北朝鮮問題をみれば、「レッドコンプレックス」に振り回されずに済むかもしれない。恐れず統一をテーマに対話をしなければならない。民主主義とは騒がしいものだから。