検察の特別捜査の核心戦力であるソウル中央地検反腐敗捜査部全体が、野党第一党に対する捜査に我先にと乗り出している。法務部のハン・ドンフン長官が主導した検察人事で反腐敗捜査部の第1~3部長いずれもが尹錫悦(ユン・ソクヨル)師団の人物と交替させられた時から予告されていたものだ。検察の内外では、過去の保守政権時代にも外観上は守ろうと努めていた検察権行使の節制と最低限のバランスが崩壊したと指摘する声があがっている。
ソウル中央地検反腐敗捜査1~3部が行っている捜査は、すべて共に民主党を標的にしたものだ。反腐敗捜査1部(オム・ヒジュン部長)は民主党のイ・ジェミョン代表の最側近である民主研究院のキム・ヨン副院長(拘束起訴)を、3部(カン・ベクシン部長)は同じく最側近である党代表室のチョン・ジンサン政務調整室長を捜査している。検察は、これらの捜査がイ代表を標的にしたものであることを隠していない。院外の人物であるイ・ジョングン元民主党副事務総長を拘束起訴した反腐敗捜査2部(キム・ヨンチョル部長)はそれにとどまらず、収賄の疑いで民主党で4選を果たした重鎮のノ・ウンネ議員に対する電撃的な家宅捜索を行い、野党の有力政治家へと捜査を拡大している格好だ。
最高検察庁中央捜査部の廃止後、検察の特別捜査の力量が結集しているソウル中央地検の特別捜査部署全体が野党のみを捜査するのは前例がない。これら3つの部署が汝矣島(ヨイド)の民主党本部と国会本館、国会議員会館を家宅捜索する場面が生中継されるのは、もはや見慣れたものになった。
検察の内外からは、最低限のバランス感覚さえ見られないと指摘する声があがっている。かつて特捜部に所属していた検察出身のある弁護士は17日、「政界の捜査は薄氷の上を歩くように慎重でなければならない。特に野党に対する捜査はいくらうまくやっても政治的攻撃を受けざるを得ないため、捜査対象などでバランスを取るよう努めてきた」と語った。特別捜査経験が多く高等検察庁長も務めたことのある弁護士は「ソウル中央地検特捜部(現反腐敗捜査部)は、文字通り検察の指揮部の特別な意志の込められた捜査を遂行する部署だ。それに見合うだけの節制された検察権行使とバランスの取れた視点が求められる」と述べた。
現権力の事件の捜査には進展がない。反腐敗捜査2部はキム・ゴンヒ女史が関わったとされるドイツモーターズの株価操作事件の捜査に1年近く手をつけていない。代わりに反腐敗捜査1・3部に続き政治的批判が伴わざるを得ない民主党に対する捜査にまたしても飛び込んだ。政権交代後は前政権と野党に向かいやすい一線の特捜検事たちの捜査のバランス、方向性、速度、強度を調節すべき検察総長の役割は見えない。イ・ウォンソク検察総長の就任前に、ハン・ドンフン長官がすでにすべての検察人事を終えていたことの影響が大きいと分析される。尹錫悦師団の一員とされ、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には相対的に閑職にあったオム・ヒジュン、キム・ヨンチョル、カン・ベクシンの3人が反腐敗捜査部に前進配置された時から憂慮されていたことだ。別の検察出身の弁護士は「“尹錫悦系”に分類される特捜部の検事たちが野党事件ばかりに邁進するのは不必要な誤解を招きうる。『偶然だ』、『いろいろ出てくるから捜査せざるを得ない』という説明だけでは公正性に対する懸念を払拭するのは難しい」と述べた。