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[コラム]検事尹錫悦と大統領尹錫悦

登録:2022-04-20 06:33 修正:2022-04-20 07:21
尹錫悦次期大統領が麗州支庁長だった2013年10月21日、国会国政監査場に証人として出席して答弁する姿(左)と、検察総長に指名され2019年7月8日の国会人事聴聞会で答弁する姿=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社 //ハンギョレ新聞社

 検事時代の尹錫悦(ユン・ソクヨル)を知っていると言うと、決まって受ける質問にこのようなものがある。「あの人って、元々そういうタイプなの?」。大統領当選後はそう聞かれることがさらに多くなった。大統領執務室の移転や初の内閣人選で見せた姿を意外だと思う人たちが多いからかもしれない。

 尹錫悦は何も変わっていない。テレビのバラエティ番組に出演し、パスタを上手に作るからといって本質が隠れるわけではない。検事の時代、彼はまわりの目を気にせず猪突猛進する性質と、意見の相違を突破の対象とみなす勝負師気質で存在感を示した。体にしみ込んだ一種の習慣またはDNAというべきものだが、それを象徴的に表すいくつかの場面がある。

 尹錫悦は2013年10月21日、国会法制司法委員会(法司委)の国政監査場に呼び出された。数日前、国家情報院(国情院)のコメント捜査チーム長から職務排除された状態だった。検事長の決裁を受けずに国情院職員の逮捕状を請求して執行まで行い、問責対象になったことが明らかになり、国会に証人として召喚されたのだ。

 「なぜそのような行動を取ったのか」という議員たちの質問に、尹錫悦は「(決裁権者の)検事長と共にこの事件の捜査を続けるのは不可能だと判断した」と答えた。上部から外圧を受けていると疑われる地検長に決裁をもらえないと判断したため、チーム長である自分の専決で逮捕状を処理したという意味だった。「普通の検事なら想像もできないこと」(検察幹部出身の弁護士)を、彼は躊躇もなくやってのけた。

 信念を掲げて手続きを無視した行為だったが、朴槿恵(パク・クネ)政権と対立していた陣営からは「正義感の強い検事」だとして拍手喝采が送られた。のちに法相になったソウル大学のチョ・グク教授は当時、ソーシャルメディアに「『人に忠誠しない』という尹錫悦検事の今日の発言は、いつまでも私の心の中に残りそうだ」という書き込みを残した。

 長い流罪の時間が過ぎ、文在寅(ムン・ジェイン)政権でソウル中央地検長に高速昇進した尹錫悦は、自分好みの人で指揮下の陣容を整える初めての特権を享受した。検察総長と法務部が協議して送ったソウル中央地検検事人事案を尹地検長が拒否した時も、文在寅政権はむしろ彼を擁護した。これが「尹錫悦師団」の始まりだった。

 高等検察庁長を飛び越えて一気に「尹錫悦検察総長」に上り詰めてからは、「尹錫悦キッズ」をそのまま最高検察庁に拡大移植した。これまた大統領府の後押しがあったからこそ可能だったが、彼らはもともと専門だった特捜部だけではなく、公安や企画、刑事分野まで主要ポストをすべて掌握した。その時も尹錫悦は昇進したばかりの「新任検事長」のハン・ドンフン(尹次期大統領が法相に指名)を反腐敗部長(旧最高検察庁中央捜査部長)に抜擢する破格の人事を敢行した。法務部の一部要職にも円滑な業務協力が必要という名分を掲げ、「自分の息がかかった人」を送り込んだ。そしてまもなく「チョ・グク捜査」が始まった。

 「捜査初期に『大統領に報告がなかった』と聞いて『まさかそんなはずはない』と思いました。でも後で調べてみると、本当にそうでした。開いた口が塞がりませんでした」。しかし、それさえも序幕に過ぎなかった。大統領を狙った蔚山(ウルサン)市長選挙介入捜査、月城(ウォルソン)原発経済性評価操作疑惑の捜査が続いた。

 予告編がなかったわけでもない。時間を巻き戻し、「尹地検長」が文在寅政権で最初の大統領府政務首席秘書官であるチョン・ビョンホン氏の賄賂事件ファイルをキャビネットから取り出した時のことだ。大統領府に事前報告がなかったという話を聞いて、彼に確認の電話をかけた。「報告はしていません。ことあるごとに大統領府に事前報告をする義務が私たちにあるんですか。捜査機密の漏洩になる可能性だってあります。これからもやりません」

 人々の都合のいい記憶とは異なり、彼の行動にははっきりとした一貫性がある。政界進出後に直面した多くの危機も検事時代のような「直球勝負」で乗り越えた。そのような行動の積み重ねで大統領当選という結果まで手に入れた。だから「大統領尹錫悦」が「検事尹錫悦」を捨てたり直したりする理由は特にないだろう。大統領執務室の移転を進める過程が家宅捜索と似ており、内閣人選が検察総長時代の人事とそっくりである理由は、彼がそのようなやり方でそれなりの成功を収めてきたからだ。習慣は理性を上回る。

 慣れすぎて危険な「成功の落とし穴」が、今や見知らぬ舞台に上がったばかりの尹錫悦の足元に潜んでいる。政治は捜査ではない。有罪と無罪で勝敗が分かれる裁判とも程遠い。だから、尹錫悦がどんな人なのかと聞かれるたびに問い返す。「検事尹錫悦」は「大統領尹錫悦」として成功できるだろうか、と。

//ハンギョレ新聞社
カン・ヒチョル|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1039584.html韓国語原文入力:2022-04-20 02:37
訳H.J

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