「特権層はお金で学閥を買うのが当然だと考えているようです。それも能力だと思っているのでしょう」。今月2日、「アップルの都市」と呼ばれる米カリフォルニア州クパチーノで会った、子持ちの韓国人Aさん(45)の言葉だ。高い住宅価格と物価で、世帯所得が20万ドル以上でなければ生活できないといわれるシリコンバレーに住むAさんも立ち入れない「彼らだけの世界」が明らかになった。
論文、出版、ボランティア団体の設立、アプリ制作企画、美術展示会…。仁川市松島(インチョンシ・ソンド)の国際学校に通うハン・ドンフン法務部長官の娘は、華麗な「スペック」(資格や活動経歴など入試や就職で有利になる要素)を積み上げている。だが、その裏面には論文盗用・代筆疑惑が潜んでおり、疑惑はケニアをはじめとする第3世界の青年たちの知的搾取産業にまでつながる。ハン長官の娘は、研究倫理を乱すハゲタカジャーナル(高額な掲載料を取り、正当性や質が保証されない論文を掲載する学術誌)を活用し、米国の入試専門家である母方の伯母のC氏(49)の娘たちと共にスペックの「助け合い」を行ってきた。
本紙は今月1日から9日まで、C氏が活動したカリフォルニア州サンノゼなどシリコンバレー近隣を訪れ、保護者や学生、入試コンサルタントなど22人をインタビューした。ここはハン長官の娘と「スペック共同体」を形成したC氏の娘たちが高校に通い、米国の名門大学に向けたアジア人生徒たちが激しい入試競争を繰り広げる所だ。米国の大学入試を経験した彼らは、手段を選ばないチャンス獲得に怒り、世の中のすべてのスタートラインが同じでないとしても最低限のルールは守るべきだと語った。特に、今回の事件で韓国人学生全体に対する米国の大学の信頼が崩れるのではないかと心配していた。
明確な証明を要求する韓国とは異なり、米国の大学入試は、学生は正直だということを前提に行われる。その代わり、学生の細工が明らかになった場合、停学や退学など厳しい処罰で米国社会は信頼を維持する。コロナパンデミックにより米国の名門大学が2021年度入学から、大学入学資格試験のSATなど標準化された評価点数を提出しなくても不利益を与えないという政策を施行し、大学入試において課外活動とボランティア活動の比重が大幅に増えた。一部の韓国人学生たちはこの隙を、盗用や代筆が疑われる論文と出版などで埋めている。米国の大学入試専門家は本紙に「国際学校の課題まで代筆し、アイビーリーグの大学教授らと論文を一緒に書かせてあげるという『詐欺』に近い話を持ち出して、一部の留学専門塾が数千万から数億ウォン台にのぼるコンサルティング費用を受け取っている」と話した。自ら大学教授だと名乗るあるケニア人は「韓国の高校生13人の大学入試エッセイなどを、通常1枚につき20ドルで代筆した」と明らかにした。このような違法・便法のスペック獲得が拡散すれば、信頼の崩壊につながり、韓国人学生全体が被害を受けることにもなりうる。
本紙は企画連載「エリートに進む彼らだけのリーグ」で、米国の名門大学という学閥を子どもに継がせる過程で韓国社会のエリートたちが動員する「グローバルスペック産業」の実態と、これを批判する声を、3回にわたって報道する。
***
世界に拡散した新型コロナウイルス感染症の流行は、米国の大学入試をも変えた。2020年6月15日、米ハーバード大学はホームページに「標準化された試験点数を求めることなく2025年クラス(2021年入学)に入学申込ができるようにする。今年標準化された試験を提出しなかった学生は志願過程で不利益を受けない」と公示した。ハーバード大学の発表前後に、アイビーリーグに属する8つの大学が、米国大学入学資格試験であるSATなど標準化された評価点数を提出しなくても入学に不利益を受けない「テストオプショナル(Test Optional)」政策を施行した。コロナでSAT試験が中止になるなどの状況が発生したため、名門大学が下した決断だ。
定量評価であるSATなどの比重が減り、名門大学入試でボランティア活動や課外活動であるエクストラカリキュラムの重要度がはるかに高くなった。コロナで外部活動が難しくなった状況で特別なスペックを積まねばならない二重苦が生じたのだ。米国で専攻者とエクストラカリキュラムを目的とする美術を教えるある講師は、「米国の大学入試でボランティア活動などが重要になり、独自のスペックが増えた。いまや、戦争中のウクライナに行ってボランティア活動をするくらいでなければならないのでは、という話まで出るくらいだ」と話した。
カリフォルニア州サンノゼで入試会社を運営していたハン・ドンフン法務部長官の娘の伯母であるC氏(49)は、このような状況で迅速な対応をしたものと思われる。C氏の2人の娘とハン長官の娘の主な活動が、2020年6月以降に集中したためだ。高校生だった彼らが、設立者や編集長などを担って他の韓国人生徒らと共につくったオンラインメディア「パンデミック・タイムズ」の開設日は、2020年8月14日。ハン長官の娘が率いたボランティア団体「ピース・オブ・タレント(Piece of Talent)」のホームページは2020年6月28日、環境団体「ファニー・クライミット(Funnyclimate)」のホームページは2021年10月19日に開設された。彼らの論文作成も2021年に集中した。ハン長官の娘が忠清北道のある福祉館でオンライン教育ボランティア活動を始めたのも同じ時期だ。この福祉館の関係者は、以前の本紙の電話取材に対し「(ハン長官の娘が)2020年8月に連絡をしてきて、その時から子どもたちに英語を教えてくれた」と話した。
論文作成や出版、ホームページ中心の団体・メディア設立および運営、オンライン教育ボランティア活動などは、オフライン活動が制約されるパンデミック状況で最も効果的に作れるスペックだった。ハン長官の娘といとこの姉2人とは1歳ずつの年齢差であり、大学入試の準備期間が重なり、大学入試のスペックの助け合いが可能だった。実際、C氏の2人の娘は昨年と今年、アイビーリーグの大学に相次いで進学した。
C氏はこのようなスペックづくりを「ビジネス」にまで拡張したものとみられる。C氏が主に活動したカリフォルニア州サンノゼでは、C氏が論文を共に作成した生徒たちから参加費をもらったとか、「パンデミック・タイムズ」に参加した生徒にホームページの運営費という名目でお金を受け取ったという証言もある。カリフォルニア州に居住する韓国人保護者は、知人を通じて本紙に「C氏が論文を一緒に書こうと言ってきて、参加費として2千ドルを要求したことがある」と語った。この保護者には「勉強がよくできる子なので安くする」、「2つ以上を一緒にするから割引する」などと話し、他の保護者に費用を言わないように口止めされたという。お金は主にオンライン支払いシステムであるペイパル(PayPal)でやり取りしたという。
本紙がハン長官の娘といとこの「スペック共同体」疑惑を報道すると、保護者らに「費用は支払っていないということで話を合わせよう」という趣旨の要求をした情況も明らかになった。本紙は、娘と一緒に活動した生徒の保護者にC氏が5月初めから中旬頃送ったショートメッセージを入手した。「どこから何をどう話せばいいのやら。一応、知人の方々が気になっているのは高額のコンサルティングをしたのかということです。名前が挙がっている方々は皆、話を合わせてほしいのです。メンター費用はすべて返金する予定なので、私に費用を支払っていない言っていただくのが、最もノイズ(騒音)がないと思われます」。一部の保護者らはC氏のせいで被害を受けたと思っているが、子どもたちのために抗議できずにいるという。
C氏が塾の住所を無断で使用したという事実も明らかになった。C氏は「ブックワームスエッセイ」というSAT・数学・英語塾を、韓国人業者の住所録などに登録したが、この塾の住所は中国人が運営する入試コンサルティング塾だった。この塾の代表は本紙との電子メールのインタビューで「(C氏が)許諾と同意もなく、私も知らない状況でわが社の住所を使っているという事実に驚き、ショックを受けた。住所の無断使用が再発した場合法的対応をする」と明らかにした。
C氏が2人の娘とハン長官の娘のスペックづくりにどれほど関与したのか、多くの生徒たちに対する入試コンサルティングをしながら、代筆や盗用、脱税などの違法な活動をしていなかったかなど、疑問は膨らんでいるが、真実は明らかになっていない。本紙はC氏のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のアカウントを通じてこのような疑惑に対する釈明を要請したが、C氏からの返事はなかった。