日帝強占期(日本の植民地時代)の強制動員被害者の損害賠償請求権の消滅時効問題は、契約法の法理どおりに狭く判断してはならないと指摘する声があがっている。歴史上の事件の被害者に対する権利の保障は、人権保護の観点からアプローチすべきだとの趣旨からの主張だ。
高麗大学法学専門大学院のキム・ジェワン教授は、大韓弁護士協会の主催で8日午後に行われた「日帝被害者強制動員事件に関する最近の法的争点についての討論会」において、「歴史上の事件における判例変更による権利行使の可能性と消滅時効の起算点」をテーマに発表し、このように主張した。キム教授は「軍事独裁時代の国家暴力や日帝強占期の強制動員事件のような『転換期の事件』の司法問題は、その社会がどれほど人権を重視する国かを示している。だが最近の裁判所の判決は、退行した姿勢があらわになっていて残念だ」と発表の口火を切った。
この日の討論会で議論された消滅時効は、強制動員被害者の損害賠償請求権が有効かどうかを分けるテーマだ。日本企業に強制徴用された被害者たちは、日本企業を相手取って未払い賃金と違法行為に対する損害賠償を請求する訴訟を起こした。1965年の韓日請求権協定締結当時、韓国と日本の政府が合意した補償金には、被害者個人に対する「損害賠償」は含まれていないとの趣旨によるものだ。最高裁は2012年5月、強制動員被害者勝訴の趣旨から破棄差し戻し判決を下した。しかし、日本企業が破棄差し戻し審も不服として再上告したことで、2018年10月に再上告審が確定するまでに6年あまりの時が流れた。
問題は、このように流れた6年あまりの間に、被害者の損害賠償請求権は消滅時効を過ぎたとする新たな争点が生じたことだ。日本企業は、2012年5月の最高裁の破棄差し戻し判決で、被害者の権利行使の障害となっていた事由は解消され、その時点から起算して損害賠償請求権の消滅する3年が過ぎた2015年5月に請求権は消滅したという主張を展開している。いっぽう被害者側は、再上告審を経て裁判が最終確定した2018年10月に初めて障害事由が消え、この時点を消滅時効の起算点にすべきだと反論している。
下級審の判決は分かれている。光州(クァンジュ)高裁民事2部は2018年12月、同じ趣旨の損害賠償請求訴訟で、2018年10月の最高裁全員合議体による判決を損害賠償の消滅時効の起算点と見るべきだとして、被害者勝訴の判決を下した。いっぽう今年2月、ソウル中央地裁民事68単独は、2012年5月の判決で障害事由が解消されたとして、日本企業に勝訴判決を下している。
この日の討論会でキム教授は「歴史上の事件で『消滅時効抗弁』を合理的に判断するには、被害者の権利行使が遅れた原因は何なのかを問わなければならない」と指摘した。被害者の権利行使が遅れた事由を、最高裁の基準である「法律上の障害」の有無だけで判断するのではなく、客観的な、または事実上の障害をも念頭に置いて「権利行使が遅れたことについて被害者を非難できるのか」も考慮しなければならないというわけだ。歴史上の事件の被害者たちは、法的に損害賠償請求訴訟が禁止されていたわけではないため、権利行使に法律上の障害事由はない。しかし「最高裁で破棄差し戻しされた事件の再上告審の結論が出ず、6年以上漂流していた状況などを考慮すれば、一般人が訴訟を起こす決心をすることは難しかっただろう」とキム教授は述べた。
キム教授は、歴史上の事件は特殊な形態の違法行為事件であるだけに、消滅時効に関する法理を前向きに適用すべきだとも強調した。「契約法と不法行為は消滅時効法理が完全に異なるが、韓国の裁判所は歴史上の事件も、まるで未払いの代金を受け取れなかった事件のように、契約法上の法理を適用するという愚を犯している」と指摘した。キム教授は続けて「消滅時効の存在理由を人権を中心に考え、適切な妥当性とバランスを保たなければならない」とし、「自救解釈ばかりに縛られるのではなく、根本的な正義の観点から考える必要がある」と付け加えた。