政権引き継ぎ委員会「大統領府移転タスクフォース(TF)」が発表した新大統領官邸の論議・決定・発表過程は「密室主義」と「御都合主義」で点綴されていた。次期大統領側が当初有力視していたソウル龍山区漢南洞(ヨンサング・ハンナムドン)の陸軍参謀総長公邸から、外交部長官公邸に新大統領官邸を突然変更した過程には、次期大統領夫人のキム・ゴンヒ氏の外交部長官公邸訪問が「決定的影響」を及ぼしたとみられる情況がいくつも発見される。
26日までの本紙の取材を総合すると、キム氏は週末の16日(または17日)に外交部長官公邸を見学した。19日には尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領側がチョン・ウィヨン外交部長官側に「これから次期大統領が(外交部長官公邸に)訪ねてもいいか」と問い合わせた。
「外交部長官の公邸が新大統領官邸として有力に検討されている」という最初の報道が出たのは、19日の深夜だった。「次期大統領側」と「引き継ぎ委関係者」の発言としてし、「陸軍参謀総長公邸は水漏れするほど古く、再建築が必要なレベル」であるため、変更が避けられないという理由が挙げられていた。そして、外交部長官の公邸が新大統領官邸として「最も合理的な代案」(20日の引き継ぎ委関係者の発言)であるため、「事実上決まった状況」(24日、ペ・ヒョンジン次期大統領報道担当)との発言を経て、最終確定したという発表(25日、大統領府移転TFの記者会見)まで、わずか数日で速戦即決で行われた。
キム・ゴンヒ氏の「週末の内見」、決定的な影響か
注目すべきなのは、キム氏の外交部長官公邸への訪問前までは、新大統領官邸として外交部長官公邸を(有力に)検討しているという事実が全く知られていなかったという点だ。1970年1月の完工後、半世紀余り大韓民国外交部の主要外交資産だった長官公邸を空ける羽目になった外交部でさえ、24日の次期大統領報道担当の「事実上決まった状況」という発表を見て、このような事実を知った。ペ報道担当の発表が行われるまで、引き継ぎ委側は外交部に公式文書はおろか口頭の通知すらしなかった。
本紙の取材によると、キム氏は週末、チョン・ウィヨン長官夫妻の「生活空間」を含め、外交部長官公邸を隅々まで見て回り、「ここが気に入った」と語ったという。キム氏は公邸の庭園を見て回り、「あの木は(公邸の向かい側にある南山側の)景色を遮るから、切ってしまわなければ」と指摘した。
キム氏が外相公邸を内部見学してから、今度は次期大統領側が19日、「次期大統領がこれから訪ねてもいいか」とチョン・ウィヨン長官側に問い合わせた。しかし当時、チョン長官は東南アジア諸国連合(ASEAN)大使を含め、多数の駐韓外交使節を招待し、共同関心事についてラフに話し合う「外交」を行っていた。この行事は非公開で行われ、メディアを含め外部に公表されなかった。チョン長官側が「今は外交行事中のため困る」と答えたため、次期大統領側は「それではまた今度訪ねる」と述べたという。「キム氏が漢南洞の外交部長官公邸を訪れてから数日後、尹次期大統領も公邸を訪れた」という今月23日付の本紙報道とは異なる部分だ。しかし、これまでの状況を踏まえると、「事実ではない」という大統領府移転TFの「書面での立場表明」は事態の全貌を含めた「真実」とは言い難い。
「密室主義」と「御都合主義」に点綴された官邸変更
大統領府移転TFは当初、尹次期大統領が執務室を青瓦台から龍山の国防部庁舎に移すと直接発表した3月20日、新大統領官邸として陸軍参謀総長公邸を有力に検討していた。当時、TFが尹次期大統領に外交部長官公邸を新しい官邸候補地として報告したが、「そこは外交部長官が使っているところではないですか。空いているところ(陸軍参謀総長官邸)に行きます」という趣旨で断ったという「美談」までメディアに紹介された。
しかし、それから1カ月後、外交部長官公邸を大統領官邸に使うという引き継ぎ委側の公式発表が出た。長官公邸を新たに用意しなければならない外交部側に事前通知はなかった。これと関連して引き継ぎ委関係者は24日、匿名のブリーフィングで、「外交部側は戸惑っているようだが、事前協議はなかったのか」という記者団の質問に、「外交部と合意する事案ではないと考えている。外交部の反応について私たちが答える必要はないと思う」と答えた。大統領官邸は尹次期大統領夫妻の個人住宅ではなく、「大韓民国の大統領官邸」を移す象徴性と公的価値の高い一大事であるうえ、国家運営の持続性と透明性を担保しなければならない民主憲政体制の根本精神に照らして考えれば、非常に不適切な行動だと言わざるを得ない。
国家財政法違反の恐れも
引継ぎ委の要請を受け、文在寅(ムン・ジェイン)政権は6日、キム・ブギョム首相主宰で臨時国務会議を開き、執務室移転のための予備費360億ウォン(約36億6500万円)を議決した。これには大統領官邸に使うと明記した陸軍参謀総長公邸の改修・補修費25億ウォン(約2億5千万円)も含まれている。国家財政法によって使途を明示した予備費は、他の用途で使った場合、違法行為になる。国家財政法は、企画財政部長官が事前に「予備費使用計画明細書を作成した後、国務会議の審議を経て大統領の承認」(第51条3項)を得なければならず、予備費執行後に「使用総括明細書」を作成し、国務会議の審議と大統領承認(第52条2項)を得て監査院に提出(第52条3項)し、国会に提出して承認を得なければならない(第53条4項)という事前事後の「監視装置」を細かく明示している。
つまり、国家財政法に基づいて陸軍参謀総長公邸の改修・補修費に策定された25億ウォンの予備費を、外交部長官公邸の改修・補修には転用できないという意味だ。したがって、外交部長官公邸の改修・補修費は5月10日、「尹錫悦政権」発足後、国務会議を開き、新たに予備費を議決しなければ調達できない。ユン・ハンホン大統領府移転TFチーム長の「外交部長官公邸は今長官が使っているため、(新政権発足日の)5月10日以降になってようやく手を出すことができる」という25日の会見発言は、現在公邸を使用しているチョン・ウィヨン長官に配慮したというより、国家財政法を意識したものかもしれない。新しい大統領官邸の変更をめぐる物議に関して、国家財政法違反ではないかを検討すべきだという指摘もある。