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[コラム]「帝王的次期大統領」のもう一つの「九重の宮」

登録:2022-03-23 21:28 修正:2022-03-26 09:26
今、引き継ぎ委員会の周辺を一度見回してみよ。執務室移転を見守る国民の心配を率直に伝えるどころか、尹氏の固い意志を褒め称え「反対することは大統領選の不服従」と言いながら、偉業を称える尹氏の最側近であふれている。このように「人のカーテン」に囲まれていれば、大統領府を龍山ではなく江南の中心部に移したとて、宮廷から抜け出すことはできない。「帝王の独善」はそうした環境で徐々に広がり、終いには大統領の心をも蚕食し盲目にするだろう。
22日午後、通義洞から眺めた大統領府の姿。遠く灯がともる青瓦の建物が大統領府本館で、手前の灯りが見える建物は尹錫悦当選人の執務室がある金融監督院の研修院だ/聯合ニュース

 政権交替期の政府引き継ぎ作業には苦労がつきものだが、今回ほど問題を自招する引き継ぎ委員会は初めてだろう。李明博(イ・ミョンバク)元大統領の引き継ぎ委員会の時、イ・ギョンスク引き継ぎ委員長の「オリンジー」発言(「オレンジ」を「オリンジー」と発音・表記しなければならないと主張したこと)が失笑を買ったが、少なくとも国政運営に対する期待まで引き下げることはなかった。ところが「尹錫悦(ユン・ソクヨル)引き継ぎ委員会」はどうか。今月21日のリアルメーター調査で「尹次期大統領が国政運営をうまくやるだろう」という期待感は49.2%で、1週間で3.5ポイント下がった。スタートする前に支持率が50%を下回るのは前例のないことだ。青瓦台(現大統領府)の移転に関する尹氏の意地が、国民の期待を引き下げた決定的要因であることは言うまでもない。

 もちろん、先日の大統領選挙の結果が示すように、政治的分裂と葛藤がひどすぎて、それが尹氏の支持率にそっくり投影されているとみることはできる。だが、それならなおさら尹氏自らが約束したように、すべての国民を包容しようと努め、反対する人々の声に耳を傾けなければならないのではないか。不正により拘束された味方の前職大統領を赦免しろと要求する姿を「国民統合」として受けとめる人は多くない。

 「大統領府は帝王的権力の象徴であり絶対に入らない」。尹氏は、龍山(ヨンサン)に急いで大統領執務室を移転しようとする理由をこのように明らかにした。大統領府に入った瞬間、「帝王的文化」に染まるかも知れないとの怖れは、別の見方をすれば理解はできる。しかし、尹氏は「九重の宮」という単語にしばられて、解放以後の大統領府に積み重ねられた歴代の大統領の遺産が、大統領室の機能をどのように拡張し補完してきたかが全く見えないようだ。「帝王的大統領」を非難はするが、自身が「帝王的次期大統領」の姿を見せていることには気がつかないということだ。

 2003年に開かれた大統領府状況室がその代表例だ。この状況室は、大統領府秘書棟付近の地下バンカーに作られた。第3共和国時代に朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が北朝鮮の攻撃に備えて用意したものだ。2000ポンドの爆弾に耐えられるほど頑丈に作られた。長い間使われていなかったバンカーがあったために、先端状況室をはるかに少ない予算で作ることができた。今この状況室では、軍・警察・消防本部など22の機関の主な情報がリアルタイムで集まるが、まもなく閉じなければならない。龍山の国防部状況室を新たに活用するというが、そこには軍関連の情報が入ってくるだけだ。機能をアップグレードすることはできるだろうが、その期間は国家リスクのコントロールタワーとして大統領室の役割は大きく制限されざるをえない。その間に大型の災害が発生すれば、どのように対応するのだろうか。50日間で執務室のデスクとキャビネットは移すことができるかも知れないか、大統領の緊迫した意志決定を支援するために、数十年間にわたり構築してきた警護・軍事・指揮施設をそれほど短期間に移すことは可能でもなく、また望ましくもない。

 誰でも自身の経験と信念で事案を判断しようとする。権力者の傲慢はそこから芽生える。朴槿恵(パク・クネ)前大統領を奈落に突き落とした「セウォル号7時間の空白」がその例だ。その日、朴大統領は本館執務室に出勤しなかった。その日のみならず、外部行事がない1週間に3~4日は官邸で一人で執務した。なぜそうしたのだろうか。朴正煕大統領時代の大統領府本館には、大統領執務室と官邸が併存した。幼い時期にそれを見て育った朴槿恵前大統領は、官邸こそが執務室という認識を持っていたのではないだろうか。

 多くの人々が尹氏に憂慮の眼差しを向けるのは、生涯誰かを捜査する検事としてのみ生きてきた彼の経歴のためだ。見せかけに過ぎないとの非難は受けても、「国民と世論」を前面に掲げる政治家としての経験がない。そのことが、かえって率直さとしてアピールされ、大統領選の勝利に肯定的に作用したことを否定はできない。だが、国政運営は検察捜査とは違う。ひとたび目標を定めたら、いかなる術を用いてでも犯罪疑惑を立証しようと努める捜査とは違い、政治は民意に則り、時には退いて時には回り道もしなければならない。それでこそ対立を減らすことができる。「光化門執務室」が難しいと分かるなり躊躇なく「龍山」に方向を定めたのは、最初の捜査で進展がないと見ると別件の捜査で被疑者を締めつける検事の姿を連想させる。

 大統領府を宮廷にしたのはまさに人間だ。今、引き継ぎ委員会の周辺を一度見回してみよ。執務室移転を見守る国民の心配を率直に伝えるどころか、尹氏の固い意志を褒め称え「反対することは大統領選の不服従」と言いながら龍飛御天歌(朝鮮王朝建国の偉業を称える長編叙事詩歌)を歌う尹氏の最側近であふれている。このように「人のカーテン」に囲まれていれば、大統領府を龍山ではなく江南(カンナム)の中心部に移したとて、宮廷から抜け出すことはできない。「帝王の独善」はそうした環境で徐々に広がり、終いには大統領の心をも蚕食し盲目にするだろう。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1035934.html韓国語原文入力:2022-03-23 18:36
訳J.S

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