尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領の外交安保に関する公約の中核をなすのは「堂々とした外交と堅固な安保」だ。尹氏は10日の国民向けあいさつで、北朝鮮の不法行動に対し原則による断固たる対処▽韓米同盟再建および包括的戦略同盟強化▽相互尊重の韓中関係▽未来志向的な韓日関係など、次期政権の外交安保政策の概要を明らかにした。
これまで尹氏が打ち出してきた外交安保の公約と発言を総合すると、「文在寅(ムン・ジェイン)流を除いてすべて」(ABM=Anything But Moon)と解釈できる。尹氏は大統領選挙期間中、文在寅政権の外交安保政策である朝鮮半島平和プロセスに非常に批判的な立場だった。今年2月、米国の外交安保専門誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、文在寅政権の外交安保政策に対して「政策基調は偏狭で近視眼的な国益概念に左右された」とし、「特に韓米両国間の対北政策の優先順位に対する見解の差は、韓米同盟を漂流させた」と主張した。尹氏は選挙4日前の5日にも、フェイスブックに載せた文で、文在寅政権の朝鮮半島平和プロセスが「韓米同盟を無視して原則のない北朝鮮政策を展開したため」失敗したと述べた。
尹氏の外交安保の主張を一言で要約すれば、韓米同盟を最優先するということだ。尹氏は1月24日に外交安保政策公約を発表した際、「過去5年間で崩壊した韓米同盟を再建する」と強調した。これに関し、尹氏の外交安保政策を総括した高麗大学のキム・ソンハン教授は今年1月、あるメディアとのインタビューで、「同盟が同盟として当然すべきことができていなかった。韓米同盟の『再建』と表現した理由がまさにここにある。単なる復元ではなく再建」だと説明した。尹氏は11日、クリストファー・デル・コルソ駐韓米国大使代理に会った席でも、「韓国の唯一の同盟国は米国だ。互いの安全保障を血で守ると約束した国であるため、それにふさわしい関係を築かなければならない」と述べた。
尹氏が韓米同盟の「再建」を強調したことで、韓日関係の変化も避けられなくなった。米国のバイデン政権は、先月公開した「インド太平洋戦略」報告書で、韓日関係の改善を今後1~2年以内に追求すべき主要な実行計画として提示した。米国のジョー・バイデン大統領は10日、尹氏との電話会談で「韓米日3カ国の対北政策に関する緊密な調整が重要だと思う」とし、韓米日協力の重要性を直接取り上げた。
大統領選公約集で「韓日関係が過去の歴史問題に埋没したまま懸案解決のための政策的努力なしに悪化の一途をたどった」と批判した尹氏は10日、国民向け当選あいさつでも、韓米同盟の再建とともに未来志向的な韓日関係構築に対する意志を再確認した。しかし、「未来志向的な韓日関係」は文在寅大統領も何度も繰り返してきた表現だ。対立の核心は「韓国が歴史問題の解決策を用意しなければならない」という日本の変わらない態度であることから、この部分が解消されなければ、尹錫悦政権もこれといった解決策がない状況だ。
尹氏は韓中関係でも挑戦を受けている。尹氏は先月の「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、「中国との複雑な関係を再整備(retool)すべきだ」と主張し、文在寅政権が中国の経済制裁に屈服し、中国に過度に従順な態度を示したと批判した。また「韓国は変化する国際環境に受動的に適応して対応するよりも、自由で開放的で包容的なインド太平洋秩序を促進する先頭に立つ」とし「韓国はクアッド(中国を牽制する米・日・インド・オーストラリア4カ国安保協議体)のワーキンググループ活動に積極的に参加する」と述べた。
尹氏は11日、シン海明・駐韓中国大使に会い、「責任ある世界の国家として中国の役割が果たされることを韓国国民が期待している」と述べた。この日、尹氏が使った「責任ある」という表現は、米国が気候危機、サイバー安保などに対する中国の行動を批判する際に登場するという点で関心を集めた。亜洲大学米中政策研究所のキム・フンギュ所長は「新しい政府の外交安保の最大の挑戦は韓中関係」だとし「韓米同盟強化は誰もが同意するが、感性に偏った政策が現実化すれば、韓国に請求される費用はあまりに高くなる」と述べた。
尹氏は「南北関係正常化と共同繁栄」を20大安保公約の一つに挙げているが、その脈絡をみると、文在寅政権とは大きな違いがある。文在寅政権の朝鮮半島平和プロセスは、南北関係の発展と非核化の好循環が下地となっている。これと違い、尹氏の対北政策と非核化は「相互主義」から出発する。彼は「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で「北朝鮮の持続的な挑発と韓国の屈従的な対応で、ここ数年間南北関係が大きく歪曲された」と主張した。さらに「北朝鮮の段階別非核化措置による相応措置を明示した予測可能な非核化ロードマップ」という非核化交渉の枠組みを提示した。続いて「北朝鮮指導部が非核化の決断を下した場合、対北経済支援と協力事業を推進することはもちろん、非核化以後の時代に備えた南北共同経済発展計画を論議することができる」と述べた。
しかし、「先に非核化、後で南北関係改善」という主張は、李明博(イ・ミョンバク)政権の失敗した対北政策である「非核・開放・3000」と似ている。さらに尹氏は、相応措置の最初の敷居を非常に高く設定している。「北朝鮮が国際社会との信頼を回復する第一歩は、現存する核プログラムを誠実かつ完全に申告すること」(「フォーリン・アフェアーズ」寄稿)を掲げているのだ。しかし1990年代以降、北朝鮮との非核化交渉が遅々として進まない大きな理由は「完全な核申告」に対する意見の相違のためだった。30年以上北朝鮮が越えられなかった敷居を、信頼回復の第一歩と規定したのだ。
世宗研究所のチョン・ソンジャン北朝鮮研究センター長は「新政権は李明博政権の二の舞を踏むのではなく、野党との積極的な対話を通じて、超党的な対北政策を推進し、中国およびロシアとの関係を改善しながら北朝鮮を交渉のテーブルにつかせた盧泰愚(ノ・テウ)政権の北方および対北政策から教訓を得る必要がある」と指摘した。参与連帯平和軍縮センターのファン・スヨンチーム長も「非核化まで対北制裁の維持、非核化達成時の平和協定締結などは、過去に失敗してきた制裁と圧迫中心の非現実的な政策を繰り返すもので、朝鮮半島の平和の実質的進展は期待できない」と評価した。ファン氏はまた「昨年のバイデン米政権発足初期、北朝鮮との従来の合意を尊重したように、尹錫悦次期大統領も板門店宣言、9・19軍事合意などを尊重して履行するという意思を明らかにすることが信頼構築の第一歩」だと主張した。
尹氏の軍事安保政策は対米・対日・対北朝鮮関係の総合版という性格を帯びている。彼はTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)の追加配備、韓米合同演習の正常化、「国防白書」に北朝鮮主敵を表記するなどを約束した。朴槿恵(パク・クネ)政府時代のTHAAD配備がもたらした波紋を考慮すれば、THAAD追加配備が現実化した場合、韓中関係に大きな変数になる見通しだ。毎年上・下半期に2回行われる韓米合同演習は、2018年6月の朝米シンガポール首脳会談以来、大規模な兵力・装備動員なしにコンピューターシミュレーションだけで行われている。しかし、今年8月に予定された合同演習では、以前のように大規模な実機動方式で実施される可能性がある。この場合、韓米合同演習と対北制裁を代表的な「敵視政策」と主張してきた北朝鮮が対抗に出れば、朝鮮半島情勢が凍りつくという懸念が出ている。今年1月の安保公約発表の際、「国防白書」に北朝鮮軍を主敵と明示すると明らかにしただけに、来年初めに出される「2022国防白書」で北朝鮮政権と軍を主敵と明示する可能性も高い。
専門家たちは、尹氏が希望事項や感性的な判断を超え、これまでの外交安保公約を再検討しなければならないと指摘する。キム・フンギュ所長は「候補の時は党派と支持基盤に訴える公約を出すことができるが、当選後は国家の運命に責任を負う位置になる」とし、「進歩・保守を問わず、実力ある専門家から外交安保の懸案を傾聴し、散発的な公約提起にとどまっていた外交安保政策を整備するのに引き継ぎ委員会の力量を結集せよ」と助言した。チョン・ソンジャンセンター長も「尹氏が統合と協治の方向に進もうとするならば、大統領選期間の公約に噴出した批判を、引き継ぎ委員会が果敢に受け入れることが必要だ」と述べ、共に民主党から合理的な中道性向の専門家の推薦を受け、統一部長官を任命する案も事例として提示した。