「歴代最高級の女性排除選挙」だとする評価が出た第20代大統領選挙の結果をめぐり、多くの20~30代の女性は、「嫌悪が勝った」という形に解釈されないよう望んでいる。これらの人々は、次期大統領に決まった尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の「虚偽告訴等罪(誣告罪)の処罰強化」と「女性家族部の廃止」の公約が実施される場合、「女性嫌悪(ミソジニー)」がいっそう強まるのではないかと懸念している。このようななか、SNSには「護身用品を買った」などの護身用品に関する情報の投稿が着実に増えている。なぜだろうか。
9~10日、一時、ツイッターのリアルタイムトレンドに「護身用品」が登場した。スプレーやブザー、ガス銃などの護身用品を専門に販売するある業者は、「今日(10日)、防犯ブザーの注文量が、この1週間の平均に比べ20~30%程度増加した」と述べた。
護身用品を探す人々の話を聞いてみると、このような現象の背景には、尹氏が「性犯罪の処罰強化」を公約にしながらも、「虚偽告訴等罪の処罰強化」と「女性家族部の廃止」の公約も前面に出したことにともなう懸念があるものとみられる。虚偽告訴等罪は、(性加害者側が性被害の訴えを虚偽だとして逆に告訴することで)性暴力の被害者を加害者のようにみなし、被害女性の口をふさぐ場合が多く、女性団体が虚偽告訴等罪の処罰強化の公約を破棄するよう要求してきた。韓国人女性政策研究院が2019年に最高検察庁と共同で開催した性平等政策フォーラムで発表した資料によると、性暴力の加害者が相手を虚偽告訴等罪で告訴した事件(2017~2018年)において、有罪と確認されたのは全体の6.4%にすぎないことが集計されている。女性家族部の廃止も、性暴力の被害者に対する支援の縮小につながるのではないかと懸念する人々もいる。
実際に護身用品を買ったり関心を示す人々は、虚偽告訴等罪の処罰強化が、女性に性暴力の被害の恐怖をいっそう強く感じさせているという。性暴力の被害にあって通報しても、法で保護を受けられないという思いから、自分で自分を守るという気持ちで護身用品を求めるということだ。
大邱(テグ)に住むIさん(23)さんは10日午前、オンラインショッピングモールで短い棒の形の「クボタン」という護身用品を注文した。Iさんは「私がなんらかの被害を受けた場合、国の保護を受けられなさそうだという気がした」とし、「虚偽告訴等罪の処罰を強化する場合、被害者に不利な法が適用されると思ったので、もし犯罪にあった時は可能なかぎり自分を保護しなければならないと考えた」と語った。
これらの人々は、女性家族部の廃止や虚偽告訴等罪の処罰強化などの流れが、ミソジニーにつながるのではないかと懸念している。大学生のYさん(20)さんもこの日午前、護身用スプレーを注文した。Yさんは「尹氏が(選挙期間中に)女性家族部の廃止やミソジニー的公約を言うたびに、同じ学校の男子学生たちが『フェミニストを殺したい』と言ってきた」とし、「そのたびに怖くなったが、尹氏が当選した後、その男性たちの言葉をたびたび思い出し、護身用品を購入した」と明らかにした。釜山(プサン)に住む中学生のKさん(15)も「女性の人権が弱くなるのなら、いつどこで私に何が起きるかわからず、危ないという気がする」とし、「中学校に入学した頃、両親が買ってくれた防犯ブザーをまた持ち始めた」と語った。
男性のなかにも、家族や知人を心配し護身用品を探す人々がいる。京畿道に住む男性のOさん(20)は、家族や友達などの周囲の女性に護身用品を買い、配ろうとしている。彼は「姉もいて、周りに女性が多い。女性たちが心配することの一つが、女性とマイノリティーに対する嫌悪世論の増幅」だとし、「米国でトランプ当選後に激しくなった人種差別のように、女性が以前より日常の安全をいっそう心配するようになる日が来るのではないかという気がする」と述べた。ソウルで事業を営む男性のHさん(54)も、今年大学の新入生になった娘のために、護身用スプレーと防犯ブザーを買った。彼は「今回の選挙でジェンダーに関する嫌悪を前面に出した候補の得票状況をみて、漠然とした懸念が思っていたよりはるか近くにあるという気がした」と述べた。
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