2019年2月にハノイでの朝米首脳会談が決裂してから事実上立ち止まっていた「朝鮮半島情勢の時計」が、再び動き出す兆しが見えている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が今月21日(現地時間)の国連総会演説で言及した「終戦宣言」など、相次ぐ提案に対する北朝鮮側の反応が、前例になく速く、また積極的であるからだ。
キム・ヨジョン朝鮮労働党中央委副部長は25日午後、「朝鮮中央通信」に発表した談話で、「公正性と互いを尊重する姿勢が維持されれば、南北首脳会談も建設的な議論を通じて良い形で解決できると思う」と述べた。
これは「南朝鮮が敵対的でなければ、関係回復と発展の見通しについて建設的な議論をする用意がある」とした談話の翌日に発表された。先月1日、「南北直通連絡線の復元」(7月27日)に関する韓国側の反応に「南北首脳会談問題まで世論化しているが、私は時期尚早だと思う」としたことに比べると明らかに前向きな態度だ。
2018年のように文在寅大統領と金正恩国務委員長の首脳会談を含むいわゆる「トップダウン」のアプローチで情勢の膠着局面を突破したいという強いシグナルといえる。キム・ヨジョン副部長は「北南首脳の再会」の他に「意義ある終戦が機を逸することなく宣言されること」と「北南共同連絡事務所の再設置」も明示的に言及した。
キム副部長は「態度の変化」の理由として2つを挙げた。まず、「南朝鮮各界で北南関係を一日も早く回復し、平和的安定を築こうとする声が高まっている印象を受けた。我々もその願いにおいては(南朝鮮と)変わらない」としたうえで、「今、北と南が互いにけちをつけ、舌戦を繰り広げ、時間を無駄にする必要はない」と強調した。「南北いずれも関係回復と平和的安定を望んでいるのだから、スピーディーに問題を解決しよう」と催促したわけだ。
キム副部長はまた、「朝鮮民主主義人民共和国の自主権に対する露骨な無視であり挑戦」である「南朝鮮と米国の二重基準(ダブルスタンダード)」と「敵視政策」の解消に向け、「南朝鮮当局の動きが実質的な実践として現れることを願う」と述べた。対米説得に南北が協力することを呼び掛けることで、韓国側に一種の「支援要請」をしたわけだ。
これは2019年のハノイ朝米首脳会談決裂後、北朝鮮側が堅持してきた「南北関係より朝米関係優先」から「南北関係の回復を通じた朝米関係の改善」へと方針を変えたことを示している。重大な方向転換だ。この過程で、南北が水面下で意見交換を行った可能性がある。
北朝鮮側の「方向転換」の背景は、情勢的要因と構造的要因に分けて考える必要がある。
情勢的には文大統領が国連総会の演説で終戦宣言の主体として「南北米3者または南北米中4者」を提示したことで、中国が動く空間を開き、22日にチョン・ウィヨン外交部長官が「スナップバックを前提とした対北朝鮮制裁の緩和」(約束違反時の自動復元を前提とした制裁緩和)を検討する必要性を提案した事実が重要だ。文大統領とチョン長官が「北朝鮮に対する制裁緩和」と「中国役割論」を米国と国連の心臓部であるニューヨークで強調したのは、「戦略的決断」なしには不可能なことだ。キム副部長の談話はこれに対する反応と言える。
さらに、バイデン大統領が「南北対話と関与、協力に対する支持」を韓米首脳共同声明(5月21日ワシントン)に明示したことは「南北関係の回復を通じた朝米関係の改善」の可能性に対する北朝鮮の期待を高めたものとみられる。
構造的には、北朝鮮内部の経済事情が挙げられる。「人民経済」まで制裁の対象とした米国と国連の強力な制裁に加え、昨年1月から始まった新型コロナウイルス防疫のための国境閉鎖が長期化し、経済低迷が「限界線」に近づいている状況も影響を及ぼしたものとみられる。
キム副部長の談話が空言ではないことを確認する最初の試金石は、南北直通連絡線の早期再稼働だ。南北直通連絡線は休戦協定記念日の7月27日、断絶から413日ぶりに復元された。しかし、韓米合同軍事演習を非難した「談話」が発表された先月10日午後の通話から北朝鮮側が通話に応じず、「不通」状態だ。韓国側は今も毎日午前と午後2回の通話を試みている。技術的には、月曜日朝の「開始通話」で北側が電話に出れば「再稼働」できる。
統一部も26日、キム副部長の談話を「意味深いものと評価する」とし、「優先的に南北通信連絡線を速やかに復元しなければならない」という立場を示した。南北直通連絡線が再稼働すれば、南北当局の対話と「南北共同連絡事務所の再設置」をめぐる協議などが軌道に乗るものとみられる。北朝鮮側の態度から、近く南北直通連絡線が再稼働するなど、予想よりはるかに早く南北協議が行われる可能性がある。
にもかかわらず、終戦宣言と南北首脳会談への道のりは遠く、険しい。キム副部長が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の「裁可」を事前に得たはずの「談話」について、「あくまで個人的な見解」という異例の表現を使い、(前向きな態度を覆す)余地を残したためだ。
“再開の可能性が高まった”南北対話を朝米対話につなげる橋を架けることが重要だ。南北対話が朝米対話につながらなければ、「持続可能な朝鮮半島の平和」の扉を開けることはできない。
朝米はいずれも「制裁緩和」と「意味のある非核化措置」について、先に譲るわけにはいかないという態度を示している。このような状況で、新型コロナワクチンをめぐる協力が対話を始める呼び水になる可能性がある。北朝鮮が苦痛を伴う国境の閉鎖を解き、再び世界に出てくる手助けになるためだ。
韓国政府の元高官は「韓米両国が少なくとも北朝鮮住民の80%程度が接種できる4千万回分のファイザー(またはモデルナ)のワクチンを北朝鮮側に提供すれば、朝米対話の成功に肯定的な効果があるだろう」と述べ、「朝米対話が再開されれば、朝米が制裁緩和と非核化措置を互いに調整し、実践する交渉をすればいい」と付け加えた。