#1.会食後、家に帰ってきたら代表から電話が。セクハラ電話だったんですが、代表からの電話だったので切るに切れず。いびきが聞こえたのでやっと切りました。一晩中悩んで、翌日この出来事を代表に話したら、自分はそんなことはしていないと言って「自作自演だ、(会社を)辞めろ」と言われました。本当に解雇されたらどうしたらよいのでしょうか。
#2.会社の代表にセクハラ行為をされたので避けていたんです。すると代表は、私のことを仕事ができないなどと陰口を言って回って、数カ月前からは些細なことで私に怒るんです。精神的にとてもつらいので辞めたんですが、退職してみると悔しいです。この悔しさを晴らす方法はないでしょうか。
- ソウル女性労働者会2020年電話相談事例集「働く女性の権利を取り戻す話」より
「キャリア断絶女性などの経済活動促進法」は、「キャリア断絶女性」を「婚姻、妊娠、出産、育児、家族構成員の介護などで仕事を辞め、非就業状態にある女性」と定義している。しかし、法律は全く知らないもう一つの「キャリア断絶」を女性は強いられている。職場内で性暴力の被害にあい、自発的に退職して生じる、いわば「性暴力によるキャリア断絶」がそれだ。
ライフサイクルで最初のキャリアを開発・管理し、自己開発を図るうえで最も重要な時期にある20~30代の女性が、職場内で性暴力被害にあって退職したり、解雇されたりするケースは少なくない。にもかかわらず、その現状と規模を示す国の統計も支援政策もないのが実情だ。
まず、女性家族部が会社員を対象に実施する「セクハラ実態調査」でも、「性暴力によるキャリア断絶」は扱われていない。この調査は、公共・民間部門の30人以上の事業体の一般職員とセクハラ予防教育業務の担当者1万904人を対象としており、職場内のセクハラの実態を把握するため3年ごとに行われているが、「在職者」だけを対象としている。セクハラ被害を受けて職場を去らなければならなかった「退職者」の声は聞くことができないのだ。
女性家族部は3年ごとに「キャリア断絶実態調査」も実施しているが、断絶の理由の選択肢は、結婚▽妊娠▽出産▽家族の介護▽子どもの教育▽その他のみ。「職場内セクハラ」による退職は単に「その他」とされる。
国の統計から知ることはできないが、職場内の性暴力に加えて会社を辞めざるを得ないという二重苦のキャリア断絶の類型は厳然として存在する。ソウル女性労働者会が2016年に職場内セクハラの被害者103人に対して行ったアンケート調査によると、回答者の72%がセクハラ被害を受けて退職していた。このうち57%は1カ月以内、11%は3カ月以内、14%は6カ月以内、18%は6カ月以降に退職していた。半年以内の退職者の割合は82%にのぼる。ソウル女性労働者会のシン・サンア会長は本紙の取材に対し「女性家族部の実態調査は在職者のみを対象としており、2次的な不利益についての調査が不足しているため、職場内でのセクハラによる雇用断絶を把握するには限界がある。職場内のセクハラ被害者のかなりの数が6カ月以内に退職していたという数値は、事業主の被害者保護措置がまともに作動していないことを端的に示している」と述べた。
在職者のみを対象としているとはいえ、「セクハラ実態調査」もキャリア断絶の要因として職場内の性暴力が作用する可能性を確認させる。最も最近の2018年の実態調査では、女性回答者の14.2%がセクハラ被害を受けたと答えている。これらの回答者のセクハラ被害経験による影響についての問いに対する答えは、多い順に、特別な影響はない(36.5%)▽職場(内のセクハラ予防政策、文化など)に失望を感じた(33.8%)▽労働意欲の低下など業務に対する集中度が低下した(25.9%)▽ストレスにより健康が悪化した(10.6%)▽(セクハラ事件により)職場を辞めたいと感じた(9%)。退職の意向をすぐに示した人の割合は高くはないが、職場に対する失望、労働意欲の低下、健康の悪化などは、結局は被害当事者を退職へと追いやる要因となっている。
性暴力によるキャリア断絶を減らすためには、被害者の保護措置が必要不可欠だ。男女雇用平等法は事業主に対して、被害者の保護をはじめ、事件の調査、懲戒などの義務を規定している。しかし、肝心の雇用主が加害者であるケースは多い。ソウル女性労働者会が、2018年から2020年7月までに報告された864件の職場内セクハラの新規相談事例を分析したところ、社長によるセクハラは205件(25.3%)だった。これこそ、被害者の保護どころか、非自発的な退職または解雇という二重の被害が強制されざるを得ない背景だ。50人未満の事業所が企業総数の98.8%(2019年現在)を占める構造にあっては、職場内の性暴力被害者が保護されず、キャリア断絶に直面するケースはさらに多いと見られる。上司によるセクハラは55.4%にのぼる。職場内セクハラの加害者の10人に8人は上司か社長だった。このような環境においては、主に下級者の位置にある被害者は自分の権利をまともに主張できず、キャリア断絶に追い込まれがちだ。
専門家は、勤労監督官の役割の拡大が急務だと指摘する。シン会長は「事業主による保護措置が不十分だと、被害者は雇用労働部に届け出る。そうなれば勤労監督官が真相把握に乗り出すが、通常はその行為がセクハラかどうかを判断するだけだ。事業主が事件の調査を不当に引き延ばして被害者を苦しめていないか、被害者の2次不利益はないかなどについては十分に調べない。こうした部分にまで幅広い調査が行われるよう、雇用労働部は制度を点検、整備する必要がある」と述べた。