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「コロナ禍による学習欠損、世界的にとても深刻」韓国教育部長官が語るコロナ教育危機

登録:2021-05-08 11:06 修正:2021-05-12 11:36
ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官インタビュー 
 
国家学業成就度評価、近く発表する計画 
コロナの影響による学習欠損は「世界的な課題」 
教科学習とともに情緒的・心理的問題も大きい 
5~10年後の国家競争力に影響を及ぼす
ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官が3日午前、ソウル鍾路区の政府ソウル庁舎入口で、コロナ以降、生徒たちが学校生活を経験できないことで発生する問題や学力格差について話している=チャン・チョルギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 「小学校では授業のチャイムが鳴ると席につき、休み時間のチャイムが鳴るとトイレに行くことや、団体生活をするときにしていいことといけないことなど、とても基礎的な社会ルールを学びます。中学、高校に行けばまたそのレベルに応じた社会化の基礎を習得します。コロナ時代の子どもたちには、その機会が消えてしまったのです」

 建国大学のハ・ジヒョン教授(精神健康医学)は、著書『ポストコロナ、子どもたちの心のケアから』で、コロナ禍の真っただ中に置かれた学校と子どもたちについて、このように診断した。教師や友達から受ける肯定的な期待が子どもたちの学習と成長の触媒として作用する「ピグマリオン効果」、他人の気持ちを想像して察する共感能力など、学校を通して学ばなければならないものがある。非対面授業が1年以上続き、子どもたちにこのような社会的欠乏が生じることもありうるという。ハ教授は「他人の表情や感情を読み取って表現する能力がどの程度なのか、歪んだ発達をしていないか、後からがんばって追いかけることで完全な回復が可能なのか、予測できない」と懸念を示した。

 コロナ以降の子どもたちの学習欠損が社会問題につながり得るということは、早くから予見されていた。その心配はウイルスが広まる速度と同じくらい急速に現実のものとなっている。コロナ拡散が本格化してから16カ月で、教育の格差と学力の二極化現象が明らかになったという調査結果が出ている。市民団体「私教育の心配のない世の中」が先月発表した「2020年コロナ学力格差の実態」によると、非対面授業が全面的に実施されてから、昨年のソウル地域の調査対象の中学校の75.9%(646校)、高校の66.1%(270校)で前年に比べ中位圏の成績の生徒数が減少したことが明らかになった。非対面教育が避けられない状況で、公教育が正常に力を発揮できないなか、中位圏の成績の生徒が上位圏・下位圏の両方に分かれる現象も加速化している。学業成就度の分布が中間のくびれたひょうたん型になり、勉強のできる子はより上がり、できない子どもはより下がるという学力の二極化がはっきりと表れたのだ。

 ソウル市教育庁傘下のソウル教育政策研究所による「コロナ前後、中学校での学業成就等級の分布からみた学校内での学力格差の実態分析」でも、ソウル市内の中学382校で、コロナ以降に国語・英語・数学の科目の中位圏の生徒の割合が減り、下位圏は増えたという結果が出た。成長の礎でもある友達や先生に会う機会を1年以上失った子どもたちも多い。子どもたちの内的成長が遅れた時、その痕跡はコロナの終息とともに自然に消えるのではない。ウイルスに教育を受ける機会を奪われた子どもたちが、目に見えない致命的な内傷を負ったのではないか。教育当局はどのような代案を準備しているのか。本紙は3日、ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官(59)とソウル鍾路区(チョンノグ)の政府ソウル庁舎執務室で会い、インタビューを行なった。

「汎政府レベルで対策づくりを」

-コロナ以後、学力の二極化が進んでいるという分析が相次いでいる。この深刻さをどの程度把握しているか。

「昨年の学習格差問題と関連し、教師にアンケート調査を行ったことがある。2学期の調査で『学習格差が広がった」と回答した割合は68%ほど。1学期にはほとんど登校できなかったため、状況はさらに深刻だった。この数値がほぼ80%に近い。学習欠損の問題は本当に深刻に考えている。教科学習だけでなく、子どもたちが学校で学ぶべきだった情緒的・心理的欠損の問題についても苦悩は深い。生徒や保護者からも心配する意見が教育部に多く寄せられている。教育部の最優先課題の一つだが、汎政府レベルでもこの問題の深刻さを共有して解決すべき問題だと思う」

-学業成就度分布で中位圏が急激に減り、下位圏に落ち込んでいるという調査もある。

「教育部は近いうちに国家学業成就度評価を出す予定だ。残念ながら現在のところはコロナの影響で例年に比べて学業成就度が落ち、中位圏が減るという予想は脱し得ないとみている。中間層の生徒の数が減り、学力格差がさらに広がる現象だ。学力分布を上中下の3段階に分けるとすれば、他のところより下位圏の生徒が増える。一部の科目、地域では上位圏の生徒がむしろ増加して中間層が薄くなったというケースもある。最も上と最も下の格差がさらに広がる問題をどのように解消するのか。非常に深刻で重要な課題だ」

-いわゆる「富裕層の地域」では上位圏の生徒がむしろ増えたという調査結果もある。

「(塾や家庭教師などの)私教育費を十分に支出できる階層で『遠隔授業が続いてもあまり心配していない』という話があることはよく知っている。これは私教育の深化ともつながる問題だ。コロナ以降、特定階層や地域で私教育をする時間が増え、そうできない生徒との学習格差が広がる問題を深く懸念している。パンデミック状況でなくても基礎学力不足、学力二極化、地域間の学習格差はずっと提起されてきた問題ではないか。コロナを経て私教育で補えない生徒の教育格差が広がり、これに対する国家の責任が大きくなっている。予算と人員を投入しなければならない問題だが、教育部は17市・道の教育監とともに膝を突き合わせてこのような生徒に対する集中的な支援策と改善策を模索している」

ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官が3日午前、政府ソウル庁舎の執務室で、コロナ以降の教育の大転換の時期について説明している。ユ副首相は「教育の大転換時代に合った人材を育てるには学校と教育課程が変わらなければならない」と強調した=チャン・チョルギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 危機でないところはないが、小学校入学直前にコロナ拡散に直面した現在の小学校2年生の状況はかなり深刻だ。現行の教育課程をみると、小学1年生は入学後2年間、少なくとも45回以上ハングル教育を受けなければならない。数学の場合、生涯最初の正規学習から興味と自信を失わないように、国際基準まで考慮して教育課程を合わせた。小1のときにトイレの後始末などの生活習慣を学校で初めて学ぶ子どももいる。友達・大人(教師)と社会的関係を結ぶ学習も本格的に始まる。しかし昨年1年間は、子どもたちは1週間の半分も登校できなかったケースが多く、コロナ初期は非対面授業すらまともに行われなかったケースが多かった。昨年の各学校の新入生である中1、高1、大学1年生も、程度の差があるだけで、社会的関係を学ぶ機会は絶対的に減った。教育部の教育統計サービスによると、昨年の小1、中1、高1は134万7085人(小中高校生全体の25.2%)にのぼる。

-いまだに子どもたちは毎日登校できずにいる状況だ。

「社会的に大人が支援しなければならない。昨年のコロナの感染経路データを分析してみると、他の集団施設に比べて学校は感染の割合が非常に低く、相対的に安全なところだった。大人がコロナの防疫規則を徹底的に守り感染者を減らしてこそ、子どもたちの全面的な登校が可能になる。昨年は前例のないパンデミック状況で、子どもたちの安全と健康を守るのが最優先だった。子どもたちが学校に行って感染すれば、家族と地域社会へ感染が広がる状況だった。だからといって登校をいつまでも延期することはできず、子どもたちの学びは続けなければならないという切迫した状況から、オンライン始業が始まった。今年は登校授業を拡大し、全面登校をすることがまず最も必要だ。ところが、またコロナ流行の第4波の岐路に立たされている」

-特に非対面教育も定着させられなかった昨年の各学校の1年生だった生徒たちはより心配だ。

「今の小2は昨年初めて学校に入学したが、ハングル学習、学校生活、友達文化などを身につけるのが困難だったのは事実だ。昨年、中学や高校に入学して通う学校が変わった生徒たちも状況は似ている。教師や同年代の友人との関係の中で互いにコミュニケーションを取り、共感し、成長するチャンスを1年以上ちゃんと持てなかった。小中高の生徒だけではない。大学でも、特に短期大学の場合、昨年の新入生がほとんど学校に行けないまま今年卒業クラスになったという状況もある。大学生も変化した環境に適応する方法を学び、大学単位の社会的関係の中で自分の進路や生活の主導性を学び、身につけなければならないのに、それらが断ち切れたのだ。昨年新入生だった生徒・学生たちがどのような困難に直面するか、教育部レベルで研究・診断し、特別な支援策を取る考えだ」

ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官が昨年9月、ソウル冠岳区の小学校を訪問し、コロナで遠隔授業中の生徒を見ている。ユ副首相は「前例のないコロナ状況で格差や差別のない教育をしなければならないというのが全世界の教育界の課題」と訴えた=教育部提供//ハンギョレ新聞社

 昨年、国連児童基金(ユニセフ)はコロナで全世界の児童1億6800万人以上に学習欠損が生じ、「災害的教育危機」に直面する可能性があると見通した。韓国国内に状況を狭めてみると、共に民主党のシンクタンクである民主研究院が最近、コロナ学習欠損による韓国の国内総生産(GDP)の損失は2100年までに1677兆ウォン(約163兆円)に達するというOECDの展望値を引用し、懸念を示してもいる。

-様々な社会的災害があったが、教育体系全般を揺るがしたケースはコロナが初めてだと思う。韓国だけの問題ではないと思うが。

「コロナによる学習格差は全世界的な問題だ。子どもたちが学校生活を送れなかったことから生じる情緒的・心理的欠損の問題もまた、他の国々でも深刻な問題として診断されている。これは実に、一度も経験したことのない状況であり、子どもたちにどんな影響を及ぼすのか予測できない部分がある。国家的レベルでは、コロナ学習欠損問題が国家競争力の問題へと広がる可能性がある。どの国がどれだけ早く教育格差を回復するかによって、5年、10年後の国家競争力にも相当な影響を及ぼすだろう。昨年の主要20カ国・地域(G20)の教育部長官のオンライン会議でも、最大の話題の一つが、コロナ以降の学力格差の問題だった。OECDの報告書や各国の教育課題の分析資料を見ても、パンデミックの現状によってもたらされた教育分野における学習欠損を大きな問題として認識している。このため、世界各国がコロナ以降の生徒たちの「学習回復力」を非常に重要な教育議題にしている。韓国の教育政策も、回復力をできるだけ早く高める方策を集中的に準備する計画だ」

ホン・ソクチェ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/994346.html韓国語原文入力:2021-05-08 09:21
訳C.M

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