昨年12月8日に世界初の新型コロナウイルスワクチン接種が行われてから、これまでに約80カ国で2億回を超えるワクチン接種が行われている。緊急使用承認を受けたワクチンが9種類に増えたことで、ワクチンごとの効果の違いをめぐる攻防が激化している。南アフリカでは、アストラゼネカのワクチンの南ア変異ウイルスに対する感染予防率が非常に低いという理由から、同ワクチンの接種が中止されるという事態も起きている。
実際に、最も早く使用承認を受けたファイザーのワクチンとアストラゼネカのワクチンは、臨床試験で明らかとなっている効果には大きな違いがある。ファイザーのワクチンは95%、アストラゼネカのワクチンは62%だ。ここでいう効果とは、感染を予防する能力を示す。しかし、ワクチンの効果は感染予防だけではない。注目すべき効果があと2つある。
1つ目は、感染した際の、他人に対する感染力を下げる効果だ。ワクチンがウイルスの感染力をどれほど抑えるかについては、ワクチン接種が始まってからあまり時間が経っていないため、まだ正確に究明されてはいない。ただ最近、人口に対するワクチン接種率が50%を超えたイスラエルでは、参考に値する事例研究が発表された。テクニオン-イスラエル工科大学の研究陣が2月6日にオンライン事前出版論文集「メドアーカイブ」に発表した研究論文によると、ファイザーのワクチンを接種した後にコロナ陽性反応を示した人たちのウイルス量を分析したところ、1次接種から12~28日後に感染した人では、ウイルス量が4分の1に減少していたことが分かった。研究陣は「ウイルスの減少は感染速度を落とす効果がある」と述べた。ただし標本数が1200人と少なく、効果を断定するのは難しい。このため専門家は、ワクチンを接種したとしても、マスクの着用、社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)などの防疫守則を徹底することを勧めている。
2つ目は、感染しても症状を軽微にする効果だ。感染予防力に大きな差の見られるファイザーとアストラゼネカのワクチンだが、重症予防力ではいずれも非常に高い効果を示している。これは、接種を受ければコロナに感染しても重症へと発展する可能性が低いことを意味する。これは連鎖的に他人に対する感染力を落とす効果へとつながる。
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5つのワクチンの臨床データの比較表が示すもの
米ブラウン大学公衆保健学部のアシシュ・ジハ(Ashish K. Jha)学部長は、完璧に感染を防ぐワクチンがない現実においては、この効果に注目すべきことを強調する。同氏は今月1日、自身のツイッターに複数のワクチンの臨床試験データを比較した表を添付した。
ツイッターで大きな注目を集めたこの表はモデルナ、ファイザー、ノババックス、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(ヤンセンファーマ)の各ワクチンの臨床試験データを比較したものだ。しかし感染予防効果ではなく、ワクチン接種後の感染例に関するものだ。表の数値は、5種のワクチンの臨床試験の参加者から入院した人、コロナによる死者、副作用による死者が全く出ていないことを示している。感染予防力では差があるものの、重症を防ぐことにかけては全てが優れた効果を示したということだ。ジハ教授はツイッターで「私は複数のワクチンとその効果についてよく聞かれる。それぞれの臨床試験の結果は、それぞれ異なる効果を示している。しかし、どの数字が重要なのか、どの数字を見るべきなのか」と問うている。
同氏は、国際医学学術誌「ランセット」に発表された、アストラゼネカのワクチンの1次接種と2次接種の投与間隔を決定するための新たな臨床研究結果を紹介する2月19日のツイートでも、ワクチン接種者には入院患者や死者が全くいないというデータを強調した。
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重症予防効果がきちんと評価されない理由
では、なぜこのような効果はあまり注目されないのだろうか。当然の話かもしれないが、臨床試験の焦点が感染予防に当てられているからだ。すべての臨床試験は事前に、原則として試験をどの段階で終了するかを決めておく。インターネットメディア「VOX」によると、ワクチン臨床試験の原則的な終点は、概ねコロナへの感染症状が現れた時だ。一部では陽性反応を終点としている。発生頻度の少ない入院例や死亡例を終点に設定して臨床研究を行うのは現実的に難しい。コロナの致命率は1%前後だが、死亡を臨床の終点として設定して意味ある結果を導き出すには、はるかに多くの臨床試験参加者を募集しなければならない。数万人ではなく数十万人が必要となる可能性もある。試験のコストも、時間も多くかかる。したがってほとんどの臨床研究は、感染予防比率に焦点を絞る。臨床研究論文には入院や死亡に関するデータもあるが、あくまでも補助データだ。
アストラゼネカのワクチンの接種を中止した南アフリカも、標本数が少ないという限界はあるものの、接種者から重症患者や入院治療者が出ていないということは注目されなかった。今月初めに米国食品医薬品局に緊急承認を申請したジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンも、先月末に発表された臨床試験の感染予防効果は66%で、ファイザーやモデルナのワクチンに比べると相対的に低い。しかし、4万4000人を対象とした臨床データには、接種から28日の時点においても、ただ1人の入院治療者も死者も発生していないという別のデータもある。ワクチンがコロナの症状を弱めたのだ。ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの接種回数は1回だ。
臨床試験ではなく実際の接種例でも似たようなデータが出ている。ファイザーとモデルナのワクチンを接種しているイスラエルでは、1月末現在、接種者の中から発生した入院治療者は16人(0.002%)で、死者は1人も出ていない。しかし、あらゆる関心が感染予防効果にばかり注がれているため、重症予防効果はそれほど注目されていない。
ジハ教授は「私たちは最高の効果にばかり焦点を当て、ワクチンが重症を防ぐことについては特に関心を持っていない」とし「しかしより重要なのは、ワクチンが感染を止めてくれることではなく、重症を防いでくれること」だと述べた。ワクチンの「1次防壁(感染予防)効果」ばかりでなく、「2次防壁(重症予防)効果」にも注目しようということだ。