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「水と変わらない」と皮肉られた露ワクチン「スプートニクV」なぜ人気急上昇したのか

登録:2021-02-15 07:38 修正:2021-02-16 09:40
第3相臨床試験なしに承認し非難を浴びたワクチン 
91.6%の免疫効果を確認…23カ国で導入が急がれる 
専門家「設計から良い結果を予想」 
国家の信頼が低い点から「韓国国内への導入は慎重にせねば」
ロシアで開発されたスプートニクVワクチン/聯合ニュース

 「今朝、世界で初めて新型コロナウイルスのワクチンが登録された」

 昨年8月、ロシアのウラジミール・プーチン大統領が自国で作った新型コロナウイルスのワクチンの使用を許可した事実を誇らしく世界に知らせたことを覚えているでしょうか。ロシアでは、このワクチンを世界初の新型コロナウイルスのワクチンだとして、ソ連時代の1957年に世界で初めて打ち上げた人工衛星「スプートニク」号の名前を取り、「スプートニクV」と名付けました。しかし、スプートニクVワクチンに対する当時の視線は、大部分が否定的でした。臨床試験を第3相まで進めることもせずに使用を承認し、どのような過程を経たのか国際医学界に十分に公開しなかったため、無条件に歓迎できないものだったためです。

 しかし、今月初めから急に雰囲気が変わり始めました。国際医学学術誌『ランセット』にスプートニクVワクチンの第3相臨床試験の結果、91.6%の免疫効果があることがわかったという発表が掲載されたためでした。『ランセット』は同分野の医療専門家の公正で客観的な評価を経なければ掲載できない国際的に権威ある学術誌だったため、その“衝撃”は大きかったのです。

 これに対し、これまで消極的だった国々がスプートニクVの導入に乗り出し、需要が急増し始めました。直近では、モンゴルが23番目にスプートニクVワクチンの緊急使用を承認したということです。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は2日(現地時間)、放送番組に出演し、「ロシアのスプートニクVワクチンが良いデータを示してくれた」とし、「欧州連合(EU)は、すべてのワクチンを歓迎する」と述べ、ドイツでもスプートニクVワクチンの導入が近づいたのではないかという見方が出たりもしました。米国のブルームバーグ通信が「『水と違いがない』と嘲弄されていたロシアのワクチンが、半年後に人類の希望として急浮上した」と評価したことは、現在の状況をよく示しています。

 スプートニクVワクチンはどのようなワクチンでしょうか。まず、このワクチンは「ウイルスベクター(伝達体)」方式による、韓国内で接種予定のアストラゼネカやヤンセンのワクチンと同じ手法を用います。新型コロナウイルスの抗原遺伝子を人体に無害なアデノウイルスなどの他のウイルスの鋳型(フレーム)に注入し、体内で生成された抗原タンパク質として免疫反応を誘導します。特に、冷凍ではなく冷蔵保管により流通が可能だという強みがあります。スプートニクVは粉末で保管する場合は2~8度での冷蔵保管が可能で、液状では零下18度で6カ月ほど保管できるということです。ファイザーのように零下70度の超低温での流通が必要なワクチンに比べ、運送と保管に便利です。価格も2回の接種で20ドルで、ファイザー(40ドル)やモデルナ(50~74ドル)などに比べ、はるかに安いのです。

 スプートニクVワクチンは、すでに韓国国内でも生産されています。昨年12月から春川(チュンチョン)にある韓国コーラス工場で1億5千万回分を委託生産し、全量を中東に輸出しています。スプートニクVワクチンの開発支援と国外生産および供給を引き受けたロシア直接投資ファンド(RDIF)が、韓国国内の企業であるGC緑十字とも委託生産契約を推進中ということです。

9日(現地時間)、イランの首都テヘランのある病院で看護師がスプートニクVワクチンを接種されている=新華/聯合ニュース

 このようにスプートニクVワクチンは、中東や東欧、南米など、既存の欧米のワクチンへのアプローチが難しかった国々を中心に、速やかに導入されています。一つの事例を見てみましょう。新型コロナ関連の国際情報を収集する「Our World in Data」にて、ワクチンを1回でも接種した人が全人口で占める割合をみると、6日時点でアラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルを上回り始めました。7日時点でUAEは41.1%、イスラエルは40.2%で、その後も差を広げています。UAEの接種速度が速いのは、豊富な資金力を利用し、ワクチンを早くから大量に導入したためです。 しかし、ファイザーのワクチンだけを接種するイスラエルとは異なり、UAEはファイザーのワクチンとともにロシアのスプートニクVと中国のシノファームのワクチンもあわせて接種しているという点が、速度を上げる助けになっています。

 韓国政府もスプートニクVワクチンについて、ワクチン供給の不確実性と変異による他のワクチンの効果の低下などを挙げ、検討対象にしていることを明らかにしました。中央防疫対策本部のチョン・ウンギョン本部長(疾病管理庁長)は8日、国民に対する会見で「ロシアのスプートニクワクチンについては、私たちには変異や供給の問題のような不確実性があるため、今後も追加のワクチンに対する確保の必要性、そして内容については継続して検討していく予定」だと明らかにしました。

 専門家は、スプートニクVワクチンの設計から、予防率が高い理由を説明できるとしています。特に、1回目と2回目の接種で用いるアデノウイルスの種類を変えて、“干渉”現象を減らしたということです。一般に、1回目の接種で生じた抗体により免疫が形成されると、これが逆に2回目の接種の効果を減らすことがありえます。英国のオックスフォード大学が開発したアストラゼネカのワクチンが接種間隔により予防効果に差が出るのも、そのような干渉現象のためだといわれています。オックスフォード大学は最近新たに行われたアストラゼネカの臨床試験を分析した結果、1回目と2回目の接種間隔を6週間未満にした場合は予防効能が55%だったのが、間隔を12週間以上にした場合は82%に予防効果が一気に上昇したと、今月初めに発表しました。

 アストラゼネカのワクチンは、1回目と2回目の接種でチンパンジーに風邪を誘発する同一のアデノウイルスを用いています。しかし、スプートニクVワクチンは、1回目の接種にはヒトアデノウイルス26を、2回目の接種ではヒトアデノウイルス5を用います。そのため学界では、同じアデノウイルスを使う二つのワクチンを交互に接種すれば、より効果が高まるはずだと予測し、実際に検証に入りました。9日(現地時間)、ロシア直接投資ファンド(RDIF)は、アゼルバイジャンがスプートニクVとアストラゼネカのワクチンの結合接種の臨床試験を承認したと発表しました。同じ伝達体(ベクター)を基にした二つのワクチンの結合接種試験は、アゼルバイジャンを始めとする3カ国でそれぞれ100人の被験者を対象に、6カ月間実施される予定ということです。

韓国国内に導入される新型コロナウイルスのワクチンの比較//ハンギョレ新聞社

 このように「ソ連以降で最大の成果」だという評判が聞こえるスプートニクVワクチンについて、韓国国内の専門家はどう評価するのでしょうか。韓国国内のワクチン専門家3人に話を聞いてみました。嘉泉大学医学部のチョン・ジェフン予防医学教室教授は「スプートニクVワクチンが、国際医学学術誌での査読を経て、他のワクチンのような科学的検証を受けたという事実が重要だ。科学的検証を受けたとすれば、製造国は重要ではない」と述べました。国際ワクチン研究所のソン・マンギ事務次長も「スプートニクVワクチンの設計をみて、以前から良い臨床結果が出ると予想していた」と述べました。大韓ワクチン学会のマ・サンヒョク副会長(昌原ファティマ病院小児青少年科)は「研究結果がもう少し出てくる必要があるが、現在の結果だけをみれば悪くないと思う」とし、「スプートニクVワクチンの臨床試験が他のワクチンの臨床試験に比べ良かった点は、すべてのワクチン接種者に遺伝子増幅(PCR)検査を行ったという点だ。新型コロナは無症状感染者もいるので、その点に関して確認をすることは正しい」と述べました。

 しかし、スプートニクVワクチンに対するこのような肯定的な評価とは別に、韓国がスプートニクVワクチンを導入すべきかについては、専門家らは急ぐ必要はないという見解を示しました。医療大国だと認識されている米国、英国、ドイツなどの地で開発・生産され国内に導入されるワクチン5種に比べ、スプートニクVワクチンの開発・生産国であるロシアの信頼度は低く、自身の信頼低下を自ら招いた点があったことが理由でした。ソン・マンギ事務次長は「ワクチンは科学的な信頼と同じくらい社会的な信頼も重要だ。ロシアが20人ほどだけを対象に第1相臨床試験を行い、結果も学術誌ではなくメディアに先に発表するなどの行動をとり、自ら信頼を損なってしまった」とし、「韓国はすでに全国民の数より多くのワクチンを確保した状況であるため、急ぐ必要はない。米国や欧州の主な国々がスプートニクVワクチンを導入する状況をみて、ついていっても遅くはない」と述べました。

 マ・サンヒョク副会長は「医学的な面だけをみれば悪くないが、国民的な信頼に問題がある。ロシアと医療的な面でほとんど交流がなかったため、国民はワクチンに対して疑問符を付けることがありうる」とし、「もし、必要な状況になれば、私たちが直接検証して使えばよい」と述べました。チョン・ジェフン教授は「ロシアの科学技術分野は信頼するに値する。ワクチンの需給問題を補い、接種日程を繰り上げることができるのであれば、十分に導入を検討してみることができる」とし、「ただし、どちらにしてもスプートニクVワクチンを今すぐ導入することはできない状況で、まだ変異ウイルスに対する実験結果も出ていないので、十分に時間をとって検討する必要がある」と述べました。

 しかし、未来は誰にもわかりません。韓国が今後、ワクチン需給に支障をきたすことが起こらないと断言することができるでしょうか。直近の今月中旬にCOVAXファシリティ(世界ワクチン共同購買連合体)を通じて入ってくることになっていたファイザー・ビオンテックのワクチン6万人分(11万7千回分)が、今月中に導入されるかも不透明な状況です。COVAXファシリティは先月30日、「最小で260万、最大で440万回分のアストラゼネカのワクチンを上半期に供給する」と韓国政府に通知していますが、政府は3日、最小基準に相当する260万回分だけが供給されるという最終通知を受けたということです。ワクチン導入の最初の出発から不安な状況です。

10日(現地時間)、アストラゼネカのワクチンを生産するベルギーのスヌッフにあるサーモフィッシャー(Thermo Fisher)の工場で防護服を着た職員が取材陣を眺めている=ロイター/聯合ニュース

 ワクチン確保に焦っているのは韓国だけではありません。EUのような所でも、ワクチン確保に支障をきたし、神経をとがらせています。先月末、EUの欧州委員会がベルギーにあるアストラゼネカの工場に点検に行ったことがありました。アストラゼネカ側から原材料と製造能力の不足により第1四半期にEUに提供するワクチンの量を60%減らさざるをえないと通知され、そのような理由が事実なのか確認しようとする目的でした。点検の結果、会社側の主張が事実だと確認されたとのことです。

 ソウル大学医学部のキム・ユン教授(医療管理学)は「多国籍製薬会社が、契約の規模が大きくなれば市場の先取りなどを期待できるため、実際の生産能力を超えて契約した可能性があると思う。契約したからといってそのまま履行するはずだと信じてばかりいることは難しい状況」だと述べました。領域内にワクチン生産工場が多くあるEUでも、ワクチン確保に問題が生じているのに、はたして韓国が安心することができるでしょうか。

 ワクチンの導入日程に大きな支障が生じ、スプートニクVワクチンまで導入しなければならない状況になれば、政府は信頼度が高くないワクチンを接種させるために国民を説得しなければならない難しい課題を抱えることになります。どうか、政府が明らかにしたワクチン導入の日程通りに順調に進み、「11月には国民の70%の接種により集団免疫形成」という目標を達成できるよう願うばかりです。

キム・ジフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
http://www.hani.co.kr/arti/society/health/982808.html韓国語原文入力:2021-02-13 14:22
訳M.S

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