財テクにはあまり関心がないことが知られていた文在寅(ムン・ジェイン)大統領が15日、収益率90%を出したファンドの一部を買い戻し、5つの金融商品にそれぞれ1000万ウォン(約94万円)を投資しました。文大統領は個人投資家が見習うほど投資に成功したのでしょうか。
文大統領が高い収益率を得たファンドは、2019年8月に加入した「必勝コリアファンド」です。NH農協金融が作った商品で、当時、日本の輸出規制に対抗しようという雰囲気のなかで素材・部品・装置分野の国内企業に投資した株式型ファンドです。文大統領はファンド加入のために農協を訪れ、「私も加入し、力を貸さなければならないと考えた。多くの国民がこのようなことに参加し、力を貸してくれるよう願う」と言いました。日本の輸出規制を乗り越えるために、大統領から資金を加えるという“政治的メッセージ”でした。
文大統領のファンドは1年半後に「大当たり」しました。過去1年間の収益率は65%に達します。大統領府は13日、文大統領のファンドの一部買い戻しを伝え、「大企業と中小企業の協力により、輸出規制のショックに打ち勝った成果(を出した)」と述べました。文大統領がファンドに加入したときも、そして今回の買い戻しのニュースを伝えるときも記事を書いた私も、そうだと思いました。
ファンドの価値を測定する基準価を調べると、昨年12月から急激に上昇していました。このファンドが投資した企業を調べると、理由がわかります。ファンドの運用報告書によると、昨年11月にこのファンドが保有した株式は、サムスン電子(21.8%)、サムスンSDI(3.88%)、現代モービス(3.24%)、現代自動車(2.21%)、KB金融持株(1.94%)などに集中しています。 すなわち、昨年末にサムスン電子の株価が急上昇し、ファンドの収益率も大きく高まったということです。
経験豊富な証券会社の職員はこのように解説しました。「素材・部品・装置に投資したファンドとして大当たりを出したのではなく、普通の4次産業革命関連の企業に投資したファンドだから、収益率が高くなった。サムスン電子やハイニックスのようなIT関連企業を全て対象にしたファンドであり、今は市場がよく収益を出しやすい状況だった」
実際、このファンドが保有した小さな会社の株式は、大型上場企業の株式よりはるかに少ない割合でした。サンアフロンテック(3.24%)、シーエスウィンド(2.10%)、ハンソルケミカル(1.94%)、未来カンパニー(1.70%)などの株式を保有していました。すなわち必勝コリアファンドは「技術国産化や独自技術開発のために努力している部品・素材・装置分野の国内企業に投資」すると言っていましたが、大部分の投資は草の根の中小・中堅企業とはかけ離れており、大型会社の株価が上がった恩恵を得たのです。
もちろんサムスン電子も、日本が半導体製造工程に必要な素材などの輸出を妨げ、苦労させられもしました。しかしこのファンドがサムスン電子の株式を買ったといって、輸出規制の克服のための投資をするのに役立ったとみることはできるのでしょうか。株価が上がるのには、少しは役に立ったでしょうが。
文大統領がファンドを買い戻し、新たに投資をしたことも、株式市場の過熱によりファンドの収益率が考えもしなかったほど上がったためだと思われます。昨年末から関連報道が出て、大統領は金を儲けようとしたのではないのに収益があまりに高くなり、これをどうしようかと悩んだことでしょう。そこで大統領府が、この際韓国型ニューディールファンドも一緒に広報しようとして、このような考えに向かったようです。
今回は、韓国型ニューディールが付いたファンドと上場指数ファンド(ETF)に均等に分散投資しました。サムスンニューディールコリアファンド、KBコリアニューディール、美しいSRIグリーンニューディール1、TIGER BBIG K-ニューディールETF、HANARO Fn K-ニューディールデジタルプラスETFです。
ある運用会社の関係者は、このような投資をみて首をかしげます。「まだ民間からの韓国型ニューディール事業への投資は始まってもいない。 大統領が投資したファンドはデジタルや環境関連の上場企業の株式を買うもので、これら企業は『韓国型ニューディール』に投資することとは関係がない」
昨年、ある外国証券会社からは鋭い批判が出ることもありました。香港系の証券会社であるCLSAは、韓国型ニューディールファンドが市場に及ぼす影響を分析し、「政府の支援がなくても十分に市場で注目されているバイオ、バッテリー、インターネットへの投資の熱気に、政府が油を注いでいる。政府が取るべき態度は非理性的な楽観論で満ちている市場の熱気をしずめること」だと言いました。
先週の有価証券市場は本当に熱気にあふれていました。KOSPI指数は11日、取引中に一時、史上初めて3200を突破しました。個人投資家が5日間に買い入れた株式は10兆ウォン(約9400億円、買い入れ基準)に近く、 最も有利な財テク方法を質問するアンケート調査でも「株式」を挙げた人は調査史上最も高い25%に達しました。これまでの最高値は11%(2020年7月)でした。韓国ギャラップが1000人に調査して15日に出した結果です。
政界にいる“経済通”の要人は、大統領府は、大統領ファンドのようなイベントより、政策的なリーダーシップを示さなければないと述べました。「韓国型ニューディールがうまくいくことを願うのは理解できるが、それは政策のリーダーシップで示すべきで、これは望ましくない。投資対象を多様化する観点で資本市場の活性化も重要だが、大統領が行わなければならないのは、企業の情報開示の透明性を高め、不公正な取引を防ぐなど、個人投資家の権利が侵害されないよう秩序を整えることだ」
文在寅政権の前の朴槿恵(パク・クネ)政権の時も、政策広報のために作られた「統一ファンド」と「青年希望ファンド」がありました。今は市場ですべて忘れられた名前です。「韓国型ニューディール」が本当に政策を通じて“成功した投資”になればいいと思います。