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「自分以外はみんな儲かっているかも」韓国、株式投資ブームで高まる相対的剥奪感

登録:2021-01-12 08:54 修正:2021-01-12 09:58
株価3000時代の光と影
韓国の総合株価指数(KOSPI)が今月11日、取引開始直後3000ポイント台を突破したハナ銀行本店のディーリングルームの様子/聯合ニュース

 大学院生のパク・ヒョングンさん(27)は「最近、私以外はみんな株をやっているような」気がする。友人や研究室の同僚など、周りの大半が株の話をしているからだ。特に、株には全く興味のなかった母親や弟までが最近、ユーチューブを見て、互いの銘柄を共有し、大きな収益を上げた。ヒョングンさんも昨年しばらく株に投資したが、今はやめた状態だ。「バブルがすぐはじけると思って投資金を回収しましたが、正直もったいないことをしたなという気はします。株価が少し下がるまで待とうと思います」

 うなぎのぼりの株価上昇に、全国民が「株式熱病」を患っている。「2人以上集まれば株の話をしている」と言われるほどだ。株で大儲けをしたという人たちのニュースがたびたび聞こえてくる一方、他方では投資の失敗で抱えきれない借金をしたり、投資金がなく疎外感や相対的剥奪感を感じる人たちも少なくない。

 個人投資家のキム・ミンギュさん(34)は年俸6千万ウォン(約570万円)を超える高所得者だが、昨年株式投資のため銀行から融資を受けた。今のように市場に勢いがある時に投資金を増やせば、収益も大きくなると見込んだからだ。彼は給料を学費ローンの返済に充てる代わりに株式に投資し、利息の5倍ほどの収益を上げた。キムさんはユーチューブやインターネットを通じて、頻繁に株の勉強をしている。株式投資をして2008年の金融危機で大金を失った父親も、引退資金作りのため、再び株式投資を始めた。

 9級公務員のキム・テヨンさん(29)も昨年、銀行に限度額3千万ウォン(約280万円)の銀行のカードローンを申し込んだ。収益を最大限増やすためには、月給だけでは駄目だと思ったからだ。両親の資金と自分の資金の3千万ウォンに、毎月250万ウォン(約24万円)ずつのローンを加えて投資資金を増やす計画だ。変動性を減らすため、債券やドルなどの安全資産に投資する方法も学んだ。

 2人は株式投資を通じて、やりたいことをやりながら労働から抜け出せる「経済的自由」を夢見ている。彼らは「京畿道に小さな家を構え、お金の心配なく暮したい。ただただ生計を維持するよりは満足のいく生き方がしたいです」とし、「公務員になるため長い間勉強してきましたが、給料は大きな補償にはなりませんでした。もうやりたくないことはやめて、休みたいです」と語った。

 個人投資家たちが皆、詳しく調べ、考えたうえで投資を行っているわけではない。知人の推薦で株を買ったり、急上昇株に面白半分で投資するいわゆる「とりあえず投資」もかなり多い。会社員のYさん(27)は先月、友達が買うという急騰株に投資し、20%以上の収益を上げた。このような投資方式は一般的にリスクが高いが、最近、株価高騰の中でYさんのように儲ける事例もしばしば現れている。

 しかし、株式が投資家たちにもたらすのは収益だけではない。

 「昨年、株式で9千万ウォン(約850万円)の借金ができ、愛する人と別れました。少しでもお金を稼ごうと、週末も会社に行くのですが、とてもつらいです」。「今年株で大きな借金ができました。住宅ローンを返済するだけの生活に嫌気がさして、カードローンなどでお金を借りて(株式投資を行ったが)こんなに失敗するとは…個人再生で何とかなりませんか?」

 ネイバーの個人債務再生関連コミュニティ「ロウミ」に掲載された書き込みだ。コミュニティを運営するキム・ギチャン法務士は、電話インタビューで「ビットコインと株式などでお金を失った人はかなり多い。苦しい現実から逃れるため、信用融資を受けて投資する場合も多い」とし、「すでにローンを抱えているのにもかかわらず、投資を始めた人もいる」と話した。

 株は損失が出ても、やめるのが難しい。損失を埋めるため、さらに投資にのめり込むからだ。50代の主婦Wさんは1年前、株式投資で5千万ウォン(約470万円)以上の損失を被り、しばらく株から離れたが、今年また始めた。株を売りさばいた昨年3月以降、株価が高騰するのを目にしたためだ。Wさんは最近、「1日3万ウォンだけ稼ごう」という気持ちで毎日投資している。

 余裕資金のない人々も、株式投資ブームを複雑な気持ちで見ている。会社員のチェ・スジンさん(30)は「お金ができても常に家賃と保証金の分を残さなければならず、投資に回すお金がない。すでにローンがあるのに、株のためまたローンを組むのは気が引ける」とし、「定期預金を崩してセルトリオン(韓国のバイオ医薬品企業)に投資すればよかったかもと思う時もあるが、そのお金まで失うと生活基盤が崩れそうで、実行できずにいる」と話した。コロナ禍で外注の仕事が途絶え、大幅に売上が減った自営業者のJさん(30)は「最近株でみんな儲けているというのに、自分だけこんなにあくせくして働いているのかと思うと、空しくなる。株価が上がることがわかっても、生活費とテナント料などを払えばお金が足りないくらいなのに、投資なんてできるわけがない」と語った。

 株式投資ブームは2000年のベンチャー投資ブーム、2007年ファンド投資ブーム、2009年金融危機回復後の上昇期など、数年に一度ずつ現れている。その度に流行した「自分以外はみんなお金持ちになった」という冗談は今年も例外なく言われている。「自分だけが後れを取っているのでは」という不安から、投資に飛び込むいわゆる「フォーモ(FOMO:Fear Of Missing Out)症候群」も現れている。特に最近は不動産やビットコイン、株式など資産価格の全般的な上昇で平凡な人が自らを「(周りに比べて貧乏になったという意味で)成貧」と呼ぶ現象まで生まれている。

 漢陽大学のイ・ジョンファン教授(経済金融学)は「どんな銘柄に投資したかによって個人差があるが、全般的な指数の上昇幅だけを見ると、株式の価値が大きく上昇し、資産の二極化がさらに進んだ」とし、「特に昨年は株式市場にアプローチできたこと自体が大きな機会で、その機会をつかんだ人とそうでない人の間で差が広がった」と述べた。

シン・ダウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/economy/finance/978300.html韓国語原文入力:2021-01-1202:46
訳H.J

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