韓国の裁判所が「国内裁判所は外国政府に対する訴訟で裁判権を行使しない」という国際慣習法上の主権免除(国家免除)の原則を破り、日本政府が日本軍「慰安婦」被害者たちに各1億ウォン(約950万円)を賠償しなければならないとの判決を下した。慰安婦問題に対する普遍的正義と人権の原則を再確認する初めての判決である点で意義深い。しかし、日本政府の反対を押し切って賠償金を受け取る実効的手段を見つけるまではかなりの困難が予想されており、“象徴的結論”として残る可能性が高い。
ソウル中央地裁民事34部(キム・ジョンゴン裁判長)は8日、故ペ・チュンヒさんら12人が日本政府を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、「日本政府は(原告らに)1億ウォンずつ賠償せよ」として、原告勝訴判決を言い渡した。2016年1月に事件が正式裁判にかけられてから5年目に出た判決だ。
今回の判決の主な争点は、普遍的人権の基準からみて、明確な「反人道的な不法行為」である慰安婦問題に主権免除の原則を適用するかどうかだった。裁判所はこれについて、慰安婦制度は「日本帝国によって計画的かつ組織的に広範囲に行われた反人道的犯罪行為であり、国際強行規範を違反したもので、この事件の行為が国家の主権的行為だとしても、国家免除を適用することはできない。被告(日本政府)が国家共同体の普遍的価値を破壊し、反人権的行為によって被害者に深刻な被害を加えた場合まで、(原告らが自らの被害を救済するための)最終的手段として選んだ民事訴訟で、裁判権が免除されると解釈するのは不合理で不当な結果をもたらす」と判断した。
1991年8月、慰安婦だったことを証言した金学順(キム・ハクスン)さんの初の告発以降、日本政府による政治的妥協(1995年のアジア女性基金)、日本の裁判所での訴訟(3件いずれも敗訴)、韓日政府間の外交的妥協(2015年12月の韓日合意)など、30年にわたる長い紆余曲折の末に、韓国の裁判所が被害者たちが望んできた「法的賠償」要求に終止符を打ったのだ。
本判決は、2018年10月の最高裁判所(大法院)判決の論理的延長線上で考えると、“当然の結論”と言える。当時、最高裁は、植民地支配期に行われた強制動員被害が1965年韓日協定に含まれていない「反人道的不法行為」だと判断し、強制動員を行なった日本の企業に被害者一人当たり各1億ウォンの賠償を命じた。同判決が言い渡された状況で、それよりも重大な「反人道的不法行為」の被害者である慰安婦被害者の賠償要求を「主権免除」を理由に排斥するのは、大韓民国憲法の基本精神と人類の普遍的正義観念に反すると言わざるを得ない。このような考えから、裁判所は「絶対規範に違反し、他国の個人に大きな損害を与えた国家が国家免除理論に隠れて賠償と補償を回避する機会」を与えてはならないと判示した。
しかし、韓国の前に横たわっている外交の現実を考えると、この判決が円満に執行されるのは不可能かもしれない。強制労働をめぐる最高裁の判決でも、原告団が判決の履行のために日本企業の資産の差し押さえ・売却手続きを進めたことに対し、日本政府は大きく反発し、2019年7月に半導体生産に欠かせない3品目の輸出規制を強化するなど、“報復措置”を打ち出した。その後、韓日両国から互いに対する怒りと憎悪の声が沸き上がるなど、韓日関係は史上最悪の危機に陥った。
同日の判決の被告である日本政府は、判決自体を「国際法違反」だと主張し、受け入れられないという立場を示した。共同通信の報道によると、菅義偉首相は同日午後、首相官邸で記者団に「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない」とし、「この訴訟は却下されるべきだ」と述べたという。さらに慰安婦問題についても「1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだ」という立場を明らかにした。日本外務省の秋葉剛男事務次官は8日、ナム・グァンピョ駐日韓国大使を呼び「国際法上主権免除の原則を否定し、原告の請求を認める判決を下したことは非常に遺憾であり、日本政府としてはこの判決を決して受け入れることはできない」と抗議した。
もし今後、強制徴用や「慰安婦」被害者など原告団が日本政府の韓国内の資産に対する強制執行の手続きに乗り出すことになれば、両国関係は“破綻”に至るしかない。7月の東京五輪を「平和五輪」として活用し、朝鮮半島平和プロセスを再稼働するという政府の計画も台無しになる。外交部は午後、報道官論評を発表し、「政府は裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するために韓国政府ができる努力をしていきたい。本判決が外交関係に及ぼす影響を綿密に検討し、韓日両国間の建設的かつ未来志向的な協力が続けられるよう諸般の努力を傾ける」と述べた。昨年9月の菅義偉首相就任から続いてきた韓日関係改善の努力に悪影響がないようにするという考えを示したものと見られる。