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[特派員コラム]植村さんは捏造記者ではない

登録:2021-01-04 03:29 修正:2021-01-04 07:35
元朝日新聞記者の植村隆さん(右)が2019年12月「第7回リ・ヨンヒ賞」の授賞式で、リ・ヨンヒ財団のペク・ヨンソ理事長から賞を受け取っている=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 安倍晋三前首相は11月21日、自身のSNSに「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」とコメントした。そこには2日前に出た裁判の記事が添付してあった。元朝日新聞記者の植村隆さん(62)は、自身の記事を捏造だと誹謗してきた右翼関係者を相手取った名誉毀損訴訟で、5年以上の争いの末、敗訴となった。この裁判は名誉棄損としては認められなかっただけであって、植村の記事が捏造と判断されたわけではない。にもかかわらず安倍前首相は「植村=捏造記者」として公然と批判した。「日本の最長在任首相」でフォロワー数が60万人を超える安倍前首相のコメントは、社会的影響力が大きくならざるを得ない。

 植村さんは黙っていなかった。嘘の情報が事実のように悪用される恐れがあるからだ。植村さんは、コメントを削除しなければ法的措置を取るとの内容証明を送った。10日後、安倍前首相のコメントは静かに削除された。植村さんは、自分の記事が捏造ではないことが再確認されたとして謝罪を求めた。

 植村さんが強く出たのにはわけがある。彼は1991年8月11日、朝日新聞に日本軍慰安婦被害者の金学順(キム・ハクスン)さん(1997年死去)の証言を初めて報道した記者だ。記事は、韓国挺身隊問題対策協議会(正義記憶連帯の前身)が金さんに会って録音した内容を根拠として書かれ、匿名で報道された。金さんは光復節を翌日に控えた8月14日、記者会見で自ら被害事実を初めて世に語った。

 被害当事者の記者会見により、当時あまり注目されなかった植村さんによる第一報は、23年を経て議論となる奇異な状況が発生した。2014年1月に発行された週刊誌『週刊文春』が「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」という記事を載せたことで、想像も困難な苦しみが植村さんを襲いはじめた。いわゆる「個人攻撃」による脅迫が起きたのだ。『必ず殺す』、『娘をいじめよう』 。家族はもちろん、新たに転職する大学、現在勤めている職場に、右翼の無差別な攻撃が加えられた。結局、第二の人生を始める予定だった大学との契約も取り消された。

 右翼が同記事を捏造だと主張した理由は大きく2つある。慰安婦の説明で挺身隊と表現したことと、彼女たちが強制連行されたと書いたこと。この記事のせいで日本が国際社会で恥をかいたと追及したのだ。しかし、1990年代序盤、挺身隊と慰安婦という用語は混用されていたし、同記事には「騙されて」との言及があるだけで、強制連行という言葉はない。そもそもの事実がどうだったのかよりも、慰安婦問題を「被害者の視点」で取り上げたらどうなるかの見せしめが必要だったものとみられる。当時は2012年12月に再び政権の座についた安倍前首相が、慰安婦動員の強制性を認めた「河野談話」(1993年)に対して否定しはじめており、極右勢力を中心とする歴史歪曲の動きが強かった時期だ。

 先月28日で、韓日両政府による慰安婦合意は5年目を迎えた。日本はいつものように、この問題はすべて終わったと強調した。慰労金も与え、安倍前首相の謝罪も表明したのだから、もうやめろと迫る。慰安婦被害者の声を伝えた植村さんを捏造記者に仕立てようという執拗な攻撃を見ていると、果してこの問題が解決されたのか、これが謝罪した国の姿なのか、疑わざるを得ない。韓国において、外交的波紋を懸念しつつも慰安婦被害者たちが日本政府を相手に損害賠償訴訟に立ち上がったことを支持する声が多いのは、真正性と一貫性が欠如した日本の態度のせいでもある。訴訟の一審判決は1月8日と13日に予定されている。

//ハンギョレ新聞社

キム・ソヨン|東京特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/976790.html韓国語原文入力:2020-12-31 18:51
訳D.K

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