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虐待児童3万人…システムはなぜ作動しなかったのか

登録:2021-01-06 04:15 修正:2021-01-06 19:16
マニュアルはあるのに、なぜ虐待を防げないのか 
①通報しても積極的に介入しない 
②親との分離施設は絶対的に不足 
③専門人材や専門性の不足
養父母の虐待により生後わずか16カ月で死亡したジョンインちゃんが安置された京畿道楊平郡のハイファミリー・アンデルセン公園墓地に、追悼メッセージと花が置かれている/聯合ニュース

 2013年10月、蔚山(ウルサン)で8歳のソヒョンちゃんが浴槽で死んでいるのが発見された。養母に殴られて肋骨が16本折れていた。翌年2月、政府は対策を打ち出した。しかしその後も変化は見られない。政府の公式統計(保健福祉部、2019児童虐待の主要統計)に表れた児童虐待による死者数だけでも、2017年が38人、2018年が28人、2019年が42人(暫定値)にのぼる。2019年に児童虐待と判断された被害児童は3万45人と集計されている。ソヒョンちゃんがこの世を去って7年が過ぎた2020年10月13日、生後16カ月のジョンインちゃんは、ソウル陽川区(ヤンチョング)のある病院で「外力による腹部の損傷」で短い生涯を閉じた。政府は今回もあわてて対策を打ち出したものの、市民の信頼は得られていない。もはや対策ばかりを新たに打ち出すのではなく、児童虐待を防ぐためのシステムが現場できちんと作動するようにしなければならないという指摘が力を得ている。

■通報の回数より初期の積極介入が重要

 ジョンインちゃん事件に市民らが憤りを感じているのは、ジョンインちゃんが死亡する前に、児童虐待のシグナルが3回も伝えられていたにもかかわらず、ジョンインちゃんの死を食い止めることができなかったためだ。ジョンインちゃんが死亡した後になって、警察と保健福祉部はようやく、児童虐待の通報が2回以上入り、子どもの体からあざや傷痕が発見された場合には、直ちに親と子を分離するという対策を打ち出した。

 しかし第一線の現場からは、この措置を適用するのは難しいという声も出ている。現場で親が「虐待ではない」と反発した時には、直ちに隔離することが難しいのが現実だからだ。ジョンインちゃんのケースでは、昨年5月に足にあざがあったため警察が捜査を行ったものの、養父母が「マッサージをした」と弁解して虐待を否定したことで、捜査は終結した。韓国児童虐待予防協会のイ・ベグン会長は「虐待している親が強く否定すれば、虐待の有無を見分けるのは容易ではない」とし「制度は十分に用意されている。専門性と多くの経験、担当者の意志が何よりも重要だ」と述べた。

//ハンギョレ新聞社

 通報の回数にのみ執着すれば死角地帯が発生しかねないという懸念も出ている。深刻な虐待は一度通報されただけでも積極的な分離措置が必要なのに、基準に合わせていれば「必要な措置を講じない言い訳」となりうるという指摘だ。障害者人権法センターのキム・イェウォン代表は「昨年6月に忠清南道天安(チョナン)で発生した児童虐待では、通報は1件だったが結局子どもは死亡した。単に即刻分離の基準にこだわるのではなく、マニュアルが作動しない理由を探るべき」と指摘した。

 虐待を行う親と子の分離措置が実現した後も重要だ。家庭と分離された子どもたちは、虐待被害児童のシェルターや委託家庭などで生活する。しかし現在、虐待児童のために設けられたシェルターは75カ所に過ぎない。シェルター1カ所の定員が5~7人であることを考えると、全国のシェルターの定員は最大で500人ほどということになる。今年中にシェルターは91カ所に増える予定ではあるものの、2019年の児童虐待発生件数が3万45件であることを考慮すると、非常に不足している。イ・ベグン会長は「施設不足のせいで子どもたちを分離措置できないようなことが起きてはならない」とし「施設を拡充する努力とともに、地域社会に存在する類似の児童保護施設などを活用することも考えなければならない」と述べた。

■うわべばかりの「専門」はダメ

 政府が最近まとめた児童虐待防止対策のうち、代表的なものが児童虐待専門公務員の新設だ。昨年10月に自治体所属の児童虐待専門公務員が誕生している。彼らは、これまで民間機関である児童保護専門機関(児保専)が担ってきた児童虐待現場の調査や虐待の有無の判断業務を担うことになった。全面的に児童虐待問題を担ってきたのが民間機関だったため、強制調査が難しいなどの多くの限界が表面化した。そのためこれを公的領域で担うことにしたのだ。昨年は290人の児童虐待専門公務員が、全国188の市郡区に配置された。

 児童虐待業務の特性上、高度の専門性が必要となるが、実際の現場は専門性が担保しづらい構造となっている。最近投入された3期専門公務員は、新型コロナウイルスの影響により、1週間オンライン教育を受けただけで業務を開始した。ソウル市のある自治区担当公務員のAさんは「児童保護専門機関の職員は100時間の教育を経て現場業務に入るが、私たちは2週間ほど受けた教育がすべて。経験が解決してくれる分野なので困難が多い」と語った。ソウル市のある関係者は「児童虐待に関して(現場)経験があったり学習したりした人が配置できればいいのだが、経験がない場合も配置されているようだ」と述べた。

 人手も全く足りていない。専門公務員は24時間体制で通報への対応、現場調査、応急措置、専門機関との連携など、昼夜を問わず働かなければならない。今月4日現在、ソウル市の25自治区内の専門公務員は61人だ。自治区当たり平均2.4人。ソウル市の関係者は「2人1組で現場調査を行い、1人は通報に対応せねばならないので、少なくとも3人は必要」と話す。保健福祉部は今年中に、全国で合わせて664人の専門公務員を配置する計画だ。

 警察も専門人材の拡充と専門性の引き上げが切実となっている。ある警察幹部は「2~3人の虐待予防警察官が児童虐待だけでなく高齢者、女性、障害者まで、あらゆる弱者に対する虐待をすべて担当するため、1人が数百人を担当するケースもある。頻繁に担当が変わり、業務に関するノウハウがうまく蓄積されないという問題点もある」と打ち明けた。

 専門家は、「第2のジョンインちゃん」の発生を防ぐには、専門公務員がきちんと業務を行えるようにする環境が必要だと語る。淑明女子大学のカン・ジヨン教授(児童福祉学科)は「現在、専門公務員は、形式は整っているものの人材や予算がなく、自動車はあるのにガソリンがないのと同じ」とし「公共性を高めるために導入したのだから、それに見合った専門性と処遇が必ず伴わなければならない」と指摘した。梨花女子大学のチョン・イクチュン教授(社会福祉学科)も「非常に専門的な仕事なので、長い教育と経験が必要だが、人手不足で仕事が大変なのでみんな逃げてしまう」とし「このようなやり方では人が変わり続けるため、専門性を身に着けることはできない」と懸念を示した。

カン・ジェグ、チョン・グァンジュン、イ・ジュビン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/977437.html?_fr=st1韓国語原文入力:2021-01-05 20:52
訳D.K

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