世界の視線を集めた米国の大統領選挙で、民主党のバイデン候補の勝利が確実になり、“トランプ以降”に対する関心が高まっている。バイデン氏はどのような政策を取るか、米国の新しいパワーエリートは誰なのか、韓国と朝鮮半島にどのような影響を与えるのか、米国と世界はどのように変わるのか、このようなことが話題になっている。
しかし、トランプの時代が終わったと性急に宣言する前に、彼の在任中に米国で起きた憎悪と暴力、嫌悪と差別、民主主義と法治の破壊、公的国家の崩壊と権力の私事化が、いかに可能になったか、また誰がそれに責任があるかを省察しなければならない。なぜなら、トランプの時代を誕生させ、支えた構造は、トランプ氏がホワイトハウスを去った後も根強く残るだろうし、もし私たちが彼の任期の終了とともにその下部構造を忘却してしまえば、近い未来に違う名前の“トランプ”がどこかで再び登場するかもしれないからだ。
私たちはトランプ氏を悪党にし、諸悪の根源とみなす言説を警戒しなければならない。米国のリベラル知識人やマスコミ、西欧の主流勢力はトランプ氏に対する軽蔑を露わにしてきた。しかし、最小限の道徳性と資質も備えていないトランプ氏が、米国人の半数の支持を受けている現実を反省しなければならない。
トランプ氏が当選する以前の世界を振り返ってみよう。2007年のサブプライム住宅ローン危機や2008年の世界経済危機、2009年の南欧州債務危機へと続く暗い時期に、多くの下流階層や中流階層が破産、失業、貧困のどん底に落とされた。
2011年5月、スペインの60都市で起きた抗議の名前は「怒れる者たち(インティグナドス)の運動」であり、彼らのスローガンは「政治と銀行の手から民主主義を取り戻そう」だった。同年秋に全米を襲ったウォール街占領運動は「1パーセント対99パーセント」の米国社会を糾弾していた。トランプ政権“以前”の話だ。
トランプの時代は、このように優雅な民主主義政治が大資本や銀行、投機家たちと手を取り合って踊った偽善の舞踏会に汚物をかけることから始まった。しかし、不幸にも、それはより良い世界に向けた被抑圧者の反乱ではなく、善良で美しく正しいことへの幻滅とそれが不在な世界の醜い沈殿物の浮上に過ぎなかった。
白人優越主義と女性嫌悪、政治権力の後援の下で行われたヘイトクライム、民主的規則と寛容の破壊、法治主義を蹂躙した権力の乱用、脱真実の政治道具化、道徳性に対する軽蔑、極端な憎悪の言語…。このすべての破壊的な力を刺激し、結集して、政治的資源にしたのがトランプ氏だった。
いわば米国の民主主義や女性、黒人、ラテン系の移住者たちを殺したのはトランプ氏個人ではなく、彼と手を組んで剣舞を踊った“トランプ勢力”だった。彼らは誰か。白人中流階層と男性の産業労働者だ。ここには人種やジェンダー、階級という幾重の不平等が交差する。黒人や女性、移住者など、これまで排除されてきた集団の地位が上昇し、彼らに対する攻撃と反発が大きくなったのだ。
このような社会環境がトランプ政権の誕生という政治変動につながったのは、ポピュリズム政治の威力によるところが大きい。現代の民主政治の根底には、人民主権の信念体系があるが、扇動家たちは民主主義制度の規則を破壊し、人民大衆の感性を刺激する方法で権力を獲得する。トランプ氏はまさにこうした戦略に長けていた。
しかしここで再び、トランプの時代は既存体制の多くの助力者を必要としたという点を忘れてはならない。米国保守勢力の日和見主義はトランプ体制には欠かせないものだった。彼らはトランプ氏に時折激しく反発し、品位を守ろうとしたが、民主党と進歩主義者の政権獲得を阻止するためなら、喜んで民主主義の破壊に協力した。
このようにトランプの時代は多くの共犯者を抱えている。不平等の深化を防げなかった進歩主義者たち、社会的排除に加わった白人中流階層と男性労働者たち、自分たちの利益のために民主主義の崩壊に加わった保守主義者たちだ。この巨大な共犯構造は今も堅固だ。トランプの時代はまだ終わっていないのだ。
韓国はどうか。リベラルと保守の対決は深まっており、社会的弱者が自らを守る力は弱く、野蛮な資本主義で労働者に対する人格殺人が蔓延しているが、彼らは利益を守る労組も、慰められる共同体もなく、一人で怒りに耐えている。韓国の民主主義は今、健全な状態なのか。