北朝鮮メディアが26日「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が疑われる北朝鮮離脱住民(脱北民)が境界線を越えて越北してきた」とし、開城市(ケソンシ)に防疫非常事態を宣言したと報道した。これに対し、韓国軍当局は「現在、北朝鮮の公開報道と関連し、一部の人員を特定し、関係機関と緊密に協力して確認中」だとして、“越北者の発生”を認めた。南北関係が冷え込んだ中で起きた今回の事件の波紋がどこまで広がるかに注目が集まっている。
■性的暴行容疑の20代男性と推定
韓国軍と関係当局は、2017年に韓国に脱北した人のうち、現在連絡がつかない20代の男性K氏が今回北朝鮮に渡った可能性が高いとみて、行方を追っている。K氏は先月、京畿道金浦(キムポ)の自宅で、知り合いの脱北民女性に性的暴行を加えた容疑で取り調べを受けたという。
K氏が最近、北朝鮮地域が見える漢江(ハンガン)下流の仁川市江華郡喬桐島(キョドンド)地域を事前に訪れたという情況もあるという。政府当局は、2017年に脱北した際、漢江下流を泳いで喬桐島地域に到着した経歴のあるK氏が、今回同じルートで北朝鮮に渡った可能性が高いと見ている。
K氏の越北が事実と確認されれば、前方警戒部隊が責任を追及されるものと見られる。軍当局者は「態勢全般について合同参謀本部(合参)戦備検閲室で確認している」と述べた。軍当局は、喬桐島地域の海岸と川岸の警備を担当している部隊が監視・警戒に失敗したかどうかを確認するため、現場調査とともに監視設備の録画映像などを綿密に調べているという。
脱北民管理にも問題が提起される可能性がある。脱北民は通常、ハナ院で3カ月間社会適応教育を受けて退所した後、5年ほど居住地の管轄警察署の身元保護担当官などの初期定着支援及び管理を受ける。K氏は韓国にきて3年しか経っていないため、警察の身辺保護対象だ。しかし、警察が脱北民の動線を逐一監視することが難しいうえ、脱北民たちも身辺保護を監視と見なし、あまり協力的ではないという。
北朝鮮の主張のように、K氏がCOVID-19に感染した状態で北朝鮮に渡ったかどうかは、まだ定かではない。K氏が韓国でPCR検査を受けたかどうか、また陽性判定を受けたかどうかは、まだ確認されていない。
■開城市に「防疫非常事態」を宣言
北朝鮮は過去にも「自発的越北者」をメディア報道の形で数回公開してきた。今回特異なのは、脱北民の越北を口実に大々的なCOVID-19防疫措置を発表した点だ。
北朝鮮の「朝鮮中央通信」は同日、「開城市で悪性ウイルス(COVID-19)に感染した疑いのある越南逃走者(脱北民)が3年ぶりに不法に境界線を越え、7月19日に帰郷する非常事態が発生した」とし、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が労働党中央委員会政治局非常拡大会議を非常招集し、COVID-19の感染拡大を防ぐため、国家非常防疫システムを「最大非常体制」に切り替えたと報じた。
同通信は「不法帰郷者の上気道分泌物と血液に対する数回の関連検査が行われた」とし、「悪性ウイルス感染者と疑われる釈然としない結果が出た」と報道した。また、金委員長が、関連報告が行われた直後の24日午後、開城市を完全に封鎖し、区域・地域別に隔離する“先回りの対策”を取ったとも報じた。同通信によると、北朝鮮当局は「当該地域に非常事態を宣言し、国家非常防疫体系を最大非常体制に移行すると共に、特急警報を発令することに対する党中央の決心を明らかにした」という。
COVID-19の感染が疑われる患者の越北を口実に、金正恩国務委員長が直接乗り出して最大非常体制を宣言したのは、COVID-19の感染拡大を深刻な脅威ととらえていることを示している。これまで北朝鮮は、COVID-19が発生した今年初めから、朝中国境を厳しく統制するなど、COVID-19の国内流入を阻止するために全力を傾けてきた。また、防疫を名分に、最近経済難のために混乱した社会の雰囲気を引き締める目的もあると分析される。