日本軍「慰安婦」被害女性が住む社会福祉法人・大韓仏教曹渓宗(チョゲジョン)ナヌムの家で、後援金流用疑惑などに関する内部告発が行われて50日が過ぎたが、法人の理事陣が「トカゲのしっぽ切り」で事態の収拾をはかるとともに、逆に内部告発した職員たちの業務権限を制限しているという主張がなされている。内部告発した7人の職員は、先月23日に国民権益委員会に対して公益申告者保護措置を申し立てている。京畿道官民合同調査団は、6日から法人および施設の運営と後援金管理を含む全般的な事項に対する真相調査に乗り出す。
内部告発した職員の一人キム・デウォル学芸室長は5日、ハンギョレの取材に対し「すべての事態の責任は法人の理事たちにあるにもかかわらず、アン・シングォン前所長の交替後に新たに採用された施設の所長や事務局長、法人課長らは、みな曹渓宗の関係者。彼らがナヌムの家に来るや否や、既存の職員らが利用しなければならない社会福祉施設情報システムにアクセスする権限を取りあげてしまった」と主張した。施設管理業務、資料提出、後援物品管理などができるシステムに、内部告発の職員がアクセスできないようにしたというのだ。
実際にナヌムの家に新たに着任したウ・ヨンホ所長は、曹渓宗の寺院である松広寺(ソングァンサ)が運営する社会福祉法人松広の精神療養施設「チョンシムウォン」の院長を務めていた。事務局長のA氏と法人課長のB氏も、いずれも大韓仏教曹渓宗社会福祉財団傘下の施設に携わってきた人物だ。だからこそ、後援者や被害女性らの意向とは関係なしに「ホテル式療養所」の設立などを議論してきた理事陣と施設運営が分離されるどころか、理事陣の「操り人形」となり得る職員を採用し、施設運営に介入する余地が高まったと指摘されているのだ。法人としてのナヌムの家の常任理事であるソンウ僧侶は今年5月、会計担当職員のC氏を訪ねて来て、「(新たに採用した)法人課長B氏と会計を共有しなければ刑事処罰されるので、そう思っておくように」と述べたのに続き、先月22日には再び会計帳簿、通帳、公認認証書(インターネット上で身分を確認するための電子情報)を提出するよう指示した。これについて職員たちは「後援口座を分離せよという広州市の指摘に従うのではなく、内部告発職員を会計業務から排除しようとするもの」と主張する。
また、内部告発した職員たちは、「最近、2人の療養保護士のうち1人が病気で出勤できなくなり、新規採用が必要という報告書を上げたのだが、アン・シングォン前所長は『権限がない』と言って新所長に押し付けた。その後、転落事故まで発生したため、報告書を上げてから採用手続きを進めていたのだが、新任所長は『法人が承認していない』と言って採用手続きを中止した。被害女性たちにとって直ちに必要な措置は取らずにおきながら、新型コロナを口実に職員たちが被害女性たちに会うのは妨げている」と述べた。20年間にわたり被害女性たちの世話をしてきた看護師のウォン・ジョンソンさんは、「ハルモニたちは様々な職員が行って一緒におしゃべりをしながら時間を過ごすのが好きなのに、新任所長が面会を遮断するのをみると、問題の解決ではなく理事陣の命令通りに(事態を)収拾しようとしているように見える」と語った。
直接の管理監督責任のある京畿道広州市(クァンジュシ)の甘い対応が問題だという指摘もある。増築工事の過程における特定業者への集中的発注や定款変更などで、広州市はいずれもこれを承認しておきながら、後援金流用疑惑などに対してはまともに監査もしていないというのだ。職員の代理を務めるリュ・グァンオク弁護士は、「ナヌムの家の運営陣が非指定後援金で土地を購入しようとした時に、これを指定後援金文書に変えて購入する方法を教えたのも広州市だ。当時、書類が備わっていなかったにもかかわらず許可した。広州市は事実上、違法行為に同調してきたが、後援金に関する監査も行っていない」と述べた。キム学芸室長は「『慰安婦』被害女性が住む施設でこのような問題が発生したにもかかわらず、どの政府機関もまともにかかわろうとせず、むしろ20年以上にわたって誤った運営をしてきた者たちに被害女性を任せ続けている」と批判した。
こうした指摘に対しソンウ僧侶は「『トカゲのしっぽ切り』で済ませたのではなく、手続きに沿って新所長を新たに採用したもの。(施設から)要求があるたびに、被害女性たちの生活費などを支給している」と語った。ウ・ヨンホ所長は「施設と法人を分離せよとした広州市の是正措置に従ったもの」という立場だ。