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[寄稿]新しいスタートラインに立った30年の運動、市民と共に歩む方向を考えよう

登録:2020-06-05 11:08 修正:2020-06-05 13:47
「慰安婦運動を語る」専門家リレー寄稿(3) 
パク・レグン|人権財団「サラム」所長 
 
“一緒に雨に打たれる気持ちで” 
「この機会に民間団体の実情に合った 
標準会計基準を作って支援しよう 
市民社会が萎縮すれば、市民の頼れるところが 
一つずつと崩れるのが怖いからだ」
パク・レグン人権財団「サラム」所長=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 京畿道広州市(クァンジュシ)の「ナヌムの家」事件がテレビの有名な探査番組で放映されるという話を聞いた時、私は「ついに起こるべきことが起こった」と思った。そしてふと心配が先に立った。人々はナヌムの家と「正義記憶連帯」(正義連)をあまり区分できない。正義連事件が起きた状況で、またナヌムの家の不正が暴露されたので、今までせっかく築き上げてきた日本軍「慰安婦」問題を中心とした世界的な戦時性暴力告発運動に払拭できない否定的なイメージがさらにかぶせられてしまわないか、心配になったのだ。

「慰安婦運動を語る」//ハンギョレ新聞社

 しかし、正義連に対しては、ない事実まで悪魔の編集技術を動員して攻撃していたマスコミと極右勢力が、非常にたやすく把握できる「ナヌムの家」の会計不正には注目していない。なぜだろうか。持続的で原則的な立場で日本政府の責任認定と謝罪を要求する正義連の運動、そして国際社会で戦時性暴力と性搾取問題を公論化し、国際連帯を繰り広げてきたこの運動を、この機会に消したいからだと考えるのはあんまりだろうか? 実際「慰安婦」問題が解決しない一次的な責任は、責任を否定し続ける日本政府にある。そして韓国政府も、国会も積極的な解決努力をしていないというところに責任がある。にもかかわらず、すべての責任を正義連にかぶせている。

 被害者から生存者に、そして人権活動家に生まれ変わり、日本軍「慰安婦」問題を提起してきた当事者のイ・ヨンスさんは、正義連を真っ向から否定し、「ハルモニを売った、利用された」という記者会見を二回も行った。極右勢力が「慰安婦」運動に致命的な打撃を加えるこのような絶好のチャンスを逃すわけがない。そうして、この女性人権平和運動は絶体絶命の危機を迎えている。

 会計不正があったとすれば、そしてユン・ミヒャン議員が不正な方法で公金を流用したなら、明確に責任を問わなければならない。しかし、今のようなやり方であってはならない。あまりに性急で行き過ぎだ。その性急さと行き過ぎの中で、この運動を率いてきた被害者であり生存者である「慰安婦」当事者、研究者、専門家たちは払拭できない傷を負っている。活動家たちは疲労していくと同時に恐怖に震えている。何よりも2015年12月28日の韓日政府の密室合意の責任までユン議員と正義連になすりつけようとする術策は、正義連の活動家たちを途方もないストレスに追い込んでいる。以前からこのような状況に耐えられなかった活動家たちは、一人二人と運動から離れもした。彼らにはこのような問題提起が、30年間この運動を続けてきた過程で受けたどの侮辱と非難よりも痛く苦しいだろう。

 会計不正疑惑は検察にボールが渡ったので、捜査結果を見守ろう。そして、これを機に民間法人と民間団体の実情に合った標準会計基準を作り、専門性不足でこれをちゃんと処理できない民間法人と民間団体の会計整理を支援する方案を設けよう。先進国ではそうしている。市民社会が萎縮すれば、市民の頼れるところが一つずつ崩れてしまう結果に帰結するのが怖いからだ。

 今はこれからの「慰安婦」運動、戦時性暴力問題解決に向けた運動をどのようにしなければならないか考える時だ。ユン議員はこの運動の中心に立ち、この運動を代表してきた。この運動において彼女の存在はても大きい。そのような人が十分な準備もなく慌ただしく活動の場を移した。ユン議員がいくつかの疑惑に対する潔白を主張するだけでこの状況が簡単には終わらないのは、30年間この運動を率いてきた者としてユン議員が背負わなければならない宿命のようなものだ。ユン議員が記者会見で述べたように、最後まで疑惑解消のために責任ある姿勢を堅持することを望む。

 イ・ヨンスさんも、自分が人権活動家であることを自覚するなら、それに伴う責任の問題も一緒に感じなければならない。被害生存者として、そして人権活動家として、発する言葉は重みが違う。正義連運動を改善するためなら、違う方法と形を選ぶべきだった。

 正義連は、30年の運動を客観的に振り返る機会を持たなければならない。運動の原則と方向性を点検し、その方向性を実現していく人と組織が市民とともに進めるための方法を考えてみてほしい。被害者の民族主義、少女像に代表される固定化されたイメージと被害者の聖域化、女性主義的観点の不足、運動の独占現象などに対する批判に耳を傾け、謙虚に省察しなければならない。外部からの攻撃に立ち向かう過程で、結果的に内部に抑圧として作用した組織文化はなかったのかも振り返らなければならない。

 じつに30年という年月だ。革新しようとするもがきのない慣性に任せてきた運動なら、その運動の未来はない。この運動を責任を持って率いていく人を育てることから、徹底して点検しなければならない。

 私は「慰安婦」運動を30年間リードしてきた正義連なら、新たに生まれ変わる解決策も見つけることができると思う。挺対協-正義連の運動は、新しいスタートラインに立たされている。この運動の新たな出発のためなら、私は正義連と一緒に雨に打たれる気持ちでそばに立とう。

パク・レグン|人権財団「サラム」所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/947301.html韓国語原文入力:2020-06-01 107:18
訳C.M

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